《【二章開始】騎士好き聖は今日も幸せ【書籍化・コミカライズ決定】》36.その呼び方はやめろ※レオ視點

今日は定期的に行われている、領主との面談の日だった。

朝食を済ませてすぐに出立した俺とミルコだが、必要な書類を忘れていることに気がついてすぐに引き返すことにした。

「――え? リックが?」

「はい。団長の忘れを屆けると、出ていきましたよ。シベルちゃんも一緒に」

「……なんだと」

しかし、書類を取りに戻った俺が部下の者から聞いた言葉に、がざわついた。

リックはおそらく、マルクスの偵。

シベルちゃんと二人で出かけたというのはとても心配だ。それに、俺に書類を屆けに行くと言っていたのに、途中で出會わなかった。

街への道は一本だ。

本當に俺たちを追ったのなら、出會わないはずがない。

「レオ……」

「ああ、まずいことになるかもしれんな」

ミルコも俺と同じことを思ったらしい。

リックの目的ははっきりしていないが、マルクスから送られた偵ならば、おそらくシベルちゃんが真の聖ではないか調べるために送り込まれたのだろう。

王都に魔が出たという話や、義妹が聖として活躍していないという話は俺にも屆いている。

マルクスが焦っているのは容易に想像できる。

「くそっ、俺がもっと警戒していれば……!」

リックとシベルちゃんが二人きりにならないよう気をつけていたのに。

俺は今日寮を空ける予定だったが、晝過ぎには戻るし、シベルちゃんはエルガと一緒に仕事をしているから大丈夫だと思っていた。

しかし、街に向かっていないのだとすれば、まさか二人は森にったのだろうか。

シベルちゃんが來てからは魔たちが大人しくしているが、森の奧へれば奴らの巣がある。

刺激すれば黙っていないだろうし、そこでシベルちゃんが聖の力を使えば、白黒はっきりする。

しかし、まさかそんな無謀な真似を……!

「レオ、あっちだ!」

「ああ!」

俺とミルコはすぐに馬を走らせた。

ミルコは魔の気配を知する能力に優れている。

俺も多じることができるが、ミルコは遠くにいてもそれを知することができるのだ。

ミルコについていくように森の奧へと馬を走らせていると、やがて俺も魔の気をじた。

近い……!

シベルちゃん、どうか無事でいてくれ……!!

そして間もなく、二人が視界に映った。

リックはシベルちゃんの前に立ち、彼を守るように火球を放ち、剣を振るっている。

シベルちゃんに怪我がなさそうなことに安堵したが、次の瞬間、リックと距離ができたシベルちゃんに一匹のウルフが飛びかかった。

そのときにはもう、俺の手はいていた。

備えていたナイフを、そのウルフに向けて迷いなく放ったのだ。

「シベルちゃん!!」

「レオ、さん……?」

ナイフは無事、シベルちゃんに飛びかかったウルフに命中し、彼は無事だった。

俺とミルコが來た。もう大丈夫。

そんな思いで馬から飛び降り、彼の元へ駆け寄ろうとしたのだが――

俺と目を合わせたシベルちゃんが、安心したように微笑み、目を閉じた瞬間。

からぱぁっとが放たれた。

「!!?」

何が起きたのか、一瞬理解できなかったが、を浴びたウルフたちがその場でばたばたと倒れていくのを見て、理解した。

が聖の力を使ったのだ――。

「シベルちゃん……!!」

そしてシベルちゃんもまた、力するようにが傾いたのを、俺は慌てて抱き止めた。

「シベルちゃん、シベルちゃん!」

「スー……」

「……眠ってしまったのか?」

俺の腕の中で靜かに寢息を立てているシベルちゃんのは、心なしかし熱い。

熱があるのだろうか。

「レオ」

「大丈夫、眠っているだけのようだ」

「そうか……」

心配そうに歩み寄ってくるミルコにそう答えて、俺たちはリックに視線を向ける。

「……やっぱり、彼が聖だった」

「お前、自分が何をしたかわかっているのか?」

シベルちゃんを抱いている俺の代わりに、ミルコがリックに詰め寄り、その倉を摑み上げる。

「わかってますよ、もちろん。お二人もわかってると思いますけど、俺はマルクス殿下の指示で彼が聖かどうか確かめに來たんで」

「マルクス王子は、彼を危険な目に遭わせてもいいと言ったのか!?」

「それは……。まぁ、俺がいればあんなウルフごとき、余裕なんで」

その言葉に、ミルコは握った拳を思い切りリックの頰に毆りつけた。

「どこが余裕だ! シベルちゃんは危なく怪我をするところだった!」

「……っ、させませんよ、さすがに。命に替えても彼は守った」

地面にを突いての滲む口元を親指で拭うリックは、それでも強気に言い返してきた。

「レオがナイフを投げなかったら、どうなっていたか」

「俺は炎魔法が使えます。最悪、あいつら全員焼き払ってましたよ」

それでは森が火事になっていた可能もあるが、それでもシベルちゃんを守る気だったという気持ちは噓ではないのだとじた。

だからといって、彼が取った行は俺としても簡単に許せるものではないが。

「それで、お前はどうする気だ」

「彼が聖であるとわかったんですから、俺の任務は終わりですね。王都に戻ってマルクス殿下に報告しますよ。レ(・)オ(・)ポ(・)ル(・)ト(・)殿(・)下(・)」

俺が聞いた質問に、リックは口の端を上げて答えた。

彼から告げられた名前に、俺はピクリと反応する。

「やっぱり。貴方の肖像畫は子供の頃に描かれたものしかないから顔は知られてないですけど、その黒髪はなかなかいない。シベルちゃんはまさか団長様が王子だなんて思ってないようだけど、第一騎士団は最高の護衛というわけだ。貴方の場合、王都にいるより魔が相手のほうがむしろ安全かもしれない」

おしゃべりがすぎるリックをひと睨みして、こちらから問う。

「彼が聖だとわかったら、マルクスはどうする気だ」

「さぁ? そこまでは聞いてないですけど。でも一度追放してしまったのですから、まずいでしょうね。陛下はきっとお怒りになる」

「……では、王には彼が聖だとばれないようにするのではないのか」

「それはそれで問題でしょう? それに、誰が偽聖であるかは、どのみちじきにばれます。幸か不幸か、本の聖はこの國の第一王子と一緒にいるのですから……ああそうか、陛下にとってはむしろ好都合かも。まさか、兄が第一騎士団で団長をしていたなんて、マルクス殿下が聞いたら驚くだろうけど」

「……」

リックの口ぶりからするに、この男は完全にマルクス側というわけでもなさそうだった。

馴染だからと、いいように利用されたのか……。

「でも、貴方にとってはそのほうがいいんじゃないですか? 王位を継げば、本の聖(シベルちゃん)と結婚できるし」

「俺は彼の意思を尊重したいと思っている」

「ふぅん。弟と違って紳士なんですね。レオポルト殿下は」

「その呼び方はやめろ」

シベルちゃんは今、俺の腕の中で眠っている。

だが、それでもいつ目を覚ますかはわからない。

「……彼には言わないつもりですか? このまま」

「必要ない。俺は第一騎士団の団長だ」

「そうも言っていられなくなったって、貴方もわかっていますよね?」

「……」

「それよりお前、このまま大人しく王都に帰れると思うなよ」

「……わかってますよ」

俺たちのやり取りを黙って聞いていたミルコだが、とうとう耐えかねたように口を開いた。そしてその言葉に、リックはわざとらしい溜め息を吐いた。

その後、目を覚まさないシベルちゃんを抱えて俺の馬に乗せ、ミルコと二人でリックが逃げないよう挾むように走りながら騎士団の寮へ戻った。

領主との面談は、日を改めてもらうことにする。

それにしても――

やはり、シベルちゃんが聖で間違いない。

が馬から落ちないよう自分のの中に抱きながら、こんなにおしくなってしまった存在に、俺の心は揺れていた。

なんか々明らかになってきました(?)が……

それよりシベル!起きて!あなたは今レオさんのの中よ!!

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☆お知らせ☆

同作者連載の小説

『婚約者に浮気された直後、過保護な義兄に「僕と結婚しよう」と言われました。』

https://ncode.syosetu.com/n1641hp/

騎士好き聖執筆の裏でこっそりと(ほぼ)毎日投稿していた連載が完結しました!

こちらはちょっぴり切ない展開もありますが、かなり甘め。

お時間のあります際に、こちらも覗いてくれると嬉しいです(*´˘`*)

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