《【二章開始】騎士好き聖は今日も幸せ【書籍化・コミカライズ決定】》40.レオさんの肩枕

それは、本當に突然だった。

「え……? 王都にですか?」

「ああ、君も一緒に來てほしい」

真剣な表で語るレオさんには、とても冗談で言っている様子は見けられない。

「……わかりました。同行します」

「ありがとう。そして、本當に申し訳ないのだが、一刻も早く向かわなければならない。準備が整い次第王都に向けて発つから、君も急いで支度をしてほしい」

「はい!」

その報せが屆いたのは、今朝だったらしい。

お城から屆いた手紙には、王都に魔が現れたということが書かれていたそうだ。それも、その數は一匹や二匹ではなかったそう。

王都には第二、第三騎士団がいる。

それなのに、騎士団の中で最も優秀な第一騎士団が招集されたということは、事態は深刻なのかもしれない。

トーリの街は、最近ではすっかり平和だ。

それでも近くの森に魔の巣があることは確認済みなので、一部の者を殘し、レオさんやミルコさん、ヨティさん等を筆頭に、団員の半分ほどが王都に向かうことになった。

それに私も同行してほしいとのことだった。

「――シベル……」

「エルガさん」

私の荷なんてないけれど、王都までは馬車でも數週間かかる。途中、街に立ち寄ることはできるけど、數日分の著替えなどをトランクケースに詰め込み、部屋で支度を整えていた私のもとに、エルガさんがやってきた。

とても心配そうな顔をしている。

「大丈夫ですよ、レオさんたちが一緒ですから」

「ええ……そうね。でも、これ……」

そう言ってエルガさんが私に差し出してきたのは、とても綺麗なエメラルドグリーンの、手のひらサイズの石の置

「これは、私の祖母からもらったお守りよ。この魔石には聖の加護があるって、祖母が言っていたの」

「まぁ……」

「だからきっと、貴を危険から守ってくれるわ」

「……聖の、加護……」

エルガさんからそれをけ取ると、なんだかがざわついた。

の奧から、何かが溢れてくるような、言葉では言い表せない力をじる。

きっとこれは本だ――。

拠もなく、そうじた。

けれど、その力はとても弱まっているようにもじる。

「……」

「……シベル?」

〝……どうか皆をお守りください――〟

そう思ったときには、自然とその石を握りしめて目を閉じ、私はそう祈っていた。

私のような偽聖の祈りなんて足しても、気休めにしかならないはずなのに。

「シベル、貴……」

「エルガさん、この石はエルガさんが持っていてください。レオさんたちの不在の間に、何もありませんように」

「……わかったわ」

エルガさんはなにやら目を見開いて驚いたような顔で私を見ていたけど、すぐにはっとしてその石をけ取ってくれた。

そして、お晝を過ぎた頃には、もう皆さんの準備は整い、王都に向けて発つことになった。

「ばたばたして悪かったね。もしなにか困ったことがあったら、遠慮なく言ってくれ」

「はい、ありがとうございます」

私が乗った馬車には、レオさんとミルコさん、それからヨティさんが乗っていた。

馬車が出発すると、隣に座っているレオさんが一息ついて、すぐに私を気にかけてくれた。

私はこれから、魔が出て危険な王都に向かうのだ……!

一刻も早く向かわなければならないし、王都にいるアニカやマルクス殿下、たくさんの人たちが心配……でも、だけど……

その道中、數週間を、この方たちと過ごすというの!?

この狹い馬車の中で數時間ともにするというだけで大変なことなのに……!

それが數週間も……ああ、王都に著く頃には私、息をしていないかも……!!

既に、こんなに鼓が速いのだ。そのうち心臓が止まるに違いないわ。

でも駄目よ、これは旅行ではないのだから、楽しんじゃ駄目、シベル……!!

「大丈夫? シベルちゃん。なんか顔が赤いけど……もしかして合でも悪い?」

「いいえ……っ! 私はとても元気です! 元気すぎて困っているくらい――」

ななめ向かいに座っているヨティさんが、そう言って覗き込むように顔を近づけてきた。

だから慌てて笑顔を浮べ、元気であることをアピールする。

「……そっか、それならいいけど」

「はい!」

それから數時間、馬車での移が続いた。

張しているのは私だけで、さすがというか、皆さんはとても冷靜で、落ち著いていた。

これから魔討伐に行くというのに、騎士様はいつだってその覚悟ができているのだろう。

王都が心配だし、し怖いけど……この方たちが一緒なら、きっと大丈夫。

彼らは私にそう思わせてくれる。

「――シベルちゃん、シベルちゃん」

「……ん」

數時間馬車に揺られて、最初はとても張していた私は、どうやら疲れて眠ってしまっていたらしい。

レオさんが私を呼ぶ聲がし上から聞こえてきて、私は目を開いて顔を上げる。

「今夜の宿に著いたよ」

「……はい」

レオさんの顔が、とても近くにある。

なんとなく、レオさんの頰がほんのり赤い気がする。

「…………」

「シベルちゃん?」

「あ……っごめんなさい……! 私――!!」

私ったら、なんてことを……!!

頭が覚醒して、ようやく狀況を理解した。

私は、隣に座っていたレオさんの肩を借りて眠ってしまっていたらしい。

最悪だわ……!!

「おはよう、シベルちゃん。団長の肩は寢心地よかった?」

「はい、とっても……じゃなくて、すみません! 本當にすみません……!!」

「いや、俺は構わないよ。しでも休めたなら、よかった」

くすくすと笑いながらヨティさんにからかわれて、私の顔はおそらく真っ赤。

団長様の肩を枕にしてしまうなんて……!!

それにミルコさんとヨティさんにも、寢顔を見られてしまった……!!

ああ、馬鹿シベル! しっかりしなさい!!

私はまだ恥でいっぱいだけど、そんなことはお構いなく馬車の扉はミルコさんによって開けられる。

「どうぞ」

「……ありがとうございます」

先に下りたミルコさんに手を差し出され、私もその手に摑まらせてもらいながら馬車を降りる。

頼もしい手にドキッとしてしまうけど、それより後ろにいるレオさんが気になって仕方ない。

ああ……しばらく顔を見られそうにないわ。

その日はその宿に隣接しているレストランで食事をし、お風呂をお借りしてすぐに眠ることになった。

明日も朝は早いのだ。

私はなので、一人でお部屋を使わせていただけることになり、今日一日の出來事を思い出しながらなんとも複雑な気持ちで眠りに就いた。

明日からはあんな失態はおかさないよう、気をつけないと……!

騎士旅編(?)始まります。第一章最終編です。

シベルにとってはとても味しい王都への小旅だけど、遊びじゃないぞ!(*`・ω・´)

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