《【書籍化・コミカライズ】誰にもされなかった醜穢令嬢が幸せになるまで〜嫁ぎ先は暴公爵と聞いていたのですが、実は優しく誠実なお方で気がつくと溺されていました〜【二章完】》第8話 側近のオスカーとの會話 ローガンside
「どう思う?」
アメリアが応接間を退出した後。
ローガンは、先代からヘルンベルク家の側近を務める初老の男──オスカーに尋ねた。
「噂とは當てにならないもの、と思いました」
品のいい白髭をでながら、オスカーは神妙な表で言った。
「だよな……ある程度は噂話だろうと思っていたが、実際の彼とのギャップがあり過ぎて……なんというか、調子が狂う……」
「ローガン様は、純樸な子に弱いですものな」
オスカーの揶揄うような言葉に、ローガンはガシガシと頭を掻く。
「事前に聞いていた彼は、我が儘で傍若無人、ロクに人と話さず無想、貧民の子で學がない、まともに読み書きすらできない無能、醜穢で不衛生……」
「散々な有様で。確かに……格は々スリム過ぎるのと、お召しもしばかりお汚れではありますが、人格面に関しては」
「むしろその逆」
「ええ、とても良識的な方に思えます」
オスカーは思い起こすように天井を見上げる。
「最初にお出迎えした時も、アメリア嬢は自分で荷を持とうとしてました」
「あのでかいトランクをか?」
「ええ。本がたくさんっていて、重たいからと。それは私の仕事だと言ったら引き下がってくれたのですが、非常に申し訳なさそうにしておいででした」
「……我儘で傍若無人、とは思えんな」
「むしろ貴族令嬢としては謙虛で丁寧すぎるかと……あいたた……」
「腰か?」
急に腰のあたりを押さえたオスカーに、ローガンは尋ねる。
「ええ。けないことに、先程トランクをお持ちした際、々腰に負荷がかかりまして。いやはや、歳には勝てませんのう」
「その歳であの馬鹿でかいトランクを持ち運べる時點でも凄いと思うが……」
「まだまだ現役ですゆえ」
「そうでないと困る」
一呼吸置いて、ローガンが口を開く。
「話を戻すと、さっきのアメリアの対話でもな……」
ローガンは、先程アメリアから來た質問──食事は三食出るのかとか、の回り品を買うために働いていいかとか、あげくの果てに庭の草を取っていいかとか──についてオスカーに説明した。
「おおよそ、嫁いだばかりの貴族令嬢から出る質問とは思えません」
「噂を全て鵜呑みにするのであれば、彼が俺を油斷させるために全て貓を被っていて……という線も考えたが、俺の見たじ彼は強かに策を練るタイプとは思えない」
「むしろその逆」
「ああ、抜けているというか天然というか……嫁いだばかりの目上の夫に、庭の雑草を取っていいかなど訊くか? 普通」
流石は長い付き合いとだけあって、ふたりの息はぴったりであった。
「でも、ある意味思通りではありませんか?」
「何がだ?」
「ローガン様も、噂はある程度出鱈目だと承知の上で、此度の婚約に踏み切ったのでしょう?」
「ある程度はな。二年前……彼を初めて目にした時には、短い會話だけであったが、破滅的な格の持ち主とは思わなかった。この二年で様変わりした可能もあると見て、それなりの覚悟を持って対面に臨んだのだが……」
噂と、実際の彼とのギャップ。
薄汚れたドレス、まともな栄養狀態とは思えない格。
いかにも自信なさげな、周囲に対してどこかビクビクしている様相。
アメリアの、あまりにも低過ぎる希の數々。
「あの、ローガン様。勝手な想像ではありますが、もしかすると彼は……」
「ああ、多分、思っていることは一緒だ。仮にそれが事実だとすれば……」
ローガンの拳が、く握りしめられた。
正義の強い彼にとって、もし仮説が正しいのだとしたら、到底許されるものではない。
「オスカー、頼みがある」
「ハグル家の、そしてアメリア嬢に関する調査、ですか?」
「ああ、よろしく頼む」
「お任せを」
まずアメリアに聞くほうが早いのではとも考えていたが、家族に命じられ口を割らないか、もしくは全く出鱈目な建前を話す可能がある。
(まずは客観証拠を集めること、だな)
アメリアの件は一旦そう処理するとして、ローガンは溜まりに溜まった書類仕事の優先順位を組み替える作業に戻った。
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