今夜も２話更新です。

こちらは２話目ですので、まだ１話目をお読みでない方はお戻りくださいね。

「あ……」

まず、先に正気に戻ったのは、レイモンドさんだった。

寢転がっていた彼は、ジャリジャリと嫌な音を立ててを起こし、白いを撒きながら頭を左右に振って珍しそうに周りを見回していた。

俺はそれをぼんやり眺め、鶏の頭みてぇに変なきをしてるなーなんて呑気に思いつつ、寄りかかっていた運転席から上半を起こした。

「トール、ここは…」

塗れで石膏像みたいになった、俺の知ってる異世界人が、なぜか俺のキッチンカーの中にいる。

今見ている景を言葉にして頭の中で組み立て、脳に沁み込ませてみた。そこで漸く俺は正気に返って、目の前の景は現実なんだと認識した。

「へぁっ！―――な、な、なんでレイさんがっ！」

「なんでって、トールが僕を引っ張り込んだんじゃないかっ！」

「でも、なんでれてんだぁ！？」

「それは、僕が知りたいぞ！」

流がを吸って赤白まだらになっている顔面を強張らせ、彼らしくない引き攣った聲でレイモンドさんがんだ。

それに対して俺はすっとの気が引いて、冷たくなった指先が小刻みに震え出した。

俺、なにしたんだ！？なんかやったか！？

萎えかけた足を叱咤して立ち上がり、つい今しがた開けたドアをもう一度開けた。こちらは助手席側のドアだが出り用にシートが著できる仕様で、営業中に出りのために、通常はリアシートを撤去してある。ドアを開けて思わず後退り、呆然としながら再度座り込んでしまった。視界の先には、見慣れたビルの外壁があるだけで。

「あれぇ！？何が起きたんだよっ。おい！！」

誰にともなく喚きながらドアを閉め、今度はレイモンドさんをいで窓へと移した。それを見て、レイモンドさんまで窓の側へと四つん這いで寄って來た。なぜ、這う！？

上下で顔を見合わせて頷き合い、張しながら窓をそろ～っと細目に開けた。途端に、あの耳について離れなくなった轟音がまたもや流れ込んで來た。

多分、俺もレイモンドさんも無意識だったと思う。

強張っていた肩から力が抜け、どちらからともなく安堵の溜息をらした。窓の向こうは、とてつもなく悲慘な狀況だと言うのに。

安堵。そう、窓だけでもレイモンドさんの世界へ繋がっているのが確認できたことに、俺たちは心の底から安心したのだ。

次は、現狀把握だ。覗き込んだあちら側は、窓の近くまで瓦礫が積み上がっていて、その隙間からチラチラと赤い炎が消え隠れしていた。

「城壁が完全に崩壊してる…で、ありゃあ森が燃えてるんだな…」

「ああ、この分ではこ(・)こ(・)の後ろも破壊されているだろうな…」

まだ覗きこんでいた俺の後ろで、深く長い溜息の音がした。俺は窓を閉めて振り返り、汚れ切ってよく分からない表の洋風イケメンを見下ろした。

「ようこそ。俺の世界へ」

◇◆◇

あれから俺がしたことは、汚れたレイモンドさんにお湯をれたバケツとタオルを渡しておいて、とにかく速攻で閉店作業をした。契約時間外に長々と駐車はできず、あちこち駆けずり回りながら、タオルで汚れを落としているレイモンドさんに軽く説明をした。

なんたって初めて目にするだらけだろうし、これからキッチンカーを走らせる段階で、パニックのあまり暴れられるのは困るから。力(馬・牛)が見當たらない乗りをかすってことが、どうも彼には理解できない様で、ならばこれから見せるから靜かにしててくれと頼んで、運転席へと乗り込んだのだった。

無事に家へ著いた俺は、ニヤニヤしながら後ろへ移した。レイモンドさんは座り込んだ狀態で窓の脇の備品ラックにしがみ付き、今度こそ顔を青くして震えていた。

「なんで、ドラゴン相手の時より怖気づいてんだよっ！」

「外を走っていた…あれは、これと同じ…なのか？」

「へ？…ああ、車か。そうそう、形は々だけど同じ乗りだ」

「それに、建なのか？全て石でできている…？」

頭が混し切って、言ってる容まであやふやになった彼を立たせ、パンッと背中を叩いた。んで、またが舞う。

俺の家は一軒家で、今は俺が一人で住んでいる。家屋の橫にある駐車場にキッチンカーを停めて、さあ、どうぞ～と家へとご招待した。

これじゃ、午後からの営業は無理だな。でもこれ以上は、汚れを店に放置しておけん！さっさとシャワーを浴びて、店を大至急掃除しないとなー。ああ、そうだ。

俺の後ろをおっかなびっくりついて來たレイモンドさんに、玄関引き戸に手をかけた格好で足を止め、思い浮かんだことを説明しなければ、と振り返った。

「あのさ、ここで靴―――」

「×〇…▽◇●」

「はぁあああああ！？」

一瞬のに、お互の言葉が通じてないことに気づき、なんの申し合わせもしていないのに、後ろに見えるキッチンカーへと二人同時にダッシュした。

「言葉がーーー！！」

「うるさいっ！」

「……あれぇ？」

「？？？」

いい年をした薄汚い野郎二人が、雄びを上げながら車へ走り込んだりして、近所の人が見てたら明日から噂の的だな。後ろ指つきで。

それにしてもだ、一どーゆーことなんだ？

「キッチンカーの中でなら、會話できるってことか？」

「どうなっているんだ…この世界は」

「いや、世界的な問題じゃないからっ。ここだけの、俺たちだけの問題だからなっ」

よし、実験だ。

付いて來ようとするレイモンドさんをゼスチャーで押し留めてその場にいてもらい、店舗から飛び出した。

「テステス、聞こえるかー？」

「聞こえると言うか、通じているぞ。なんだ？そのテステスって」

「なんでもないっす。…じゃ、今度はレイさんが外から話しかけてくれ」

レイモンドさんがキッチンカーに居た場合、俺が離れても話は通じる。それは、俺だからか？別の誰かならどうだ？

眉間を寄せて考えながら、今度は役を代した。のろのろと疲れ切ったきで、レイモンドさんが店舗から出て來た。こりゃ、ガス切れ寸前だな。急がないと。

「通じているか？」

「おう！大丈夫だ。戻って來て」

うわーっ！これは、どっちかがキッチンカーに居ないと通じないってことらしいぞ？

力盡きかけてるレイモンドさんは、またのろのろと戻って來ると、店舗にらずに出口の幅のないステップに腰かけた。

お？レイモンドさんの上半は店舗で、下半は車から外へ出ている。これなら、どうだ？

「結果発表です。どちらかが店、あるいはキッチンカーにを接していないと言葉が通じません。そんで、さっきから口のきを観察してましたが、お互いに自分の世界の言語で話していて、耳に屆いた時に相手の言語に翻訳されている様子です。つまり…」

「このキッチンカーと言う屋臺が、通訳をしてくれている訳だな？」

「そうです」

俺が何かしてる訳じゃなかった。レイモンドさんにチート能力がある訳でもなかった。俺やレイモンドさんが凄いんじゃなく――――このキッチンカーが凄いんだった！！

なんだってんだよっ。この謎仕様は！誰だ？こんな改造したのはーーっ！元々か！？キッチンカーに改造した時か！？俺の大事な店舗に何してくれやがったんだ！借金がまだ殘ってんだぞ！

とりあえず、誰か、俺にこのキッチンカーの取説くれ！！