２話更新

こちらは１話目。

親しい人の悲慘な最後を目にしてしまった嘆きや悲しみは、親を病の末に看取った経験しかなかった俺には計り知れない。同じ悲しみでも、深度が違うと言うか…。

今、俺の前で涙を流し続けているフィヴに、優しい労わりの溫もりを與えているのはレイモンドだった。俺は、ただ暖かい飲みを黙って渡し、まだ震えが止まらないフィヴの手ごと俺の手で包んで飲ませた。

「あの…黒い奴らが竜王の兵なんだな？」

レイモンドが渡した蒸しタオルに涙ごと顔を埋めたフィヴは頷き、また聲を押さえて泣き出した。

すでに帰宅して駐車場に停めたキッチンカーの中、運転席側と助手席側のドアを開け放して風を通し、俺たちは運転席(ドライバーズシート)に座らせたフィヴに、狀況説明とこれからの事を話すために、彼が落ち著くのを待っていた。

窓越しにしか見ていない、無関係の俺ですらあの景はショックだった。ＴＶやＰＣのモニターごしで見る痛ましい戦場の一コマとは全く違うインパクトで、俺の脳裏に焼き付いた。

「先行部隊と言うことは、戦線が近いのか…」

ぽつりとレイモンドが呟いた。

「一、何が切っ掛けで戦爭が始まったんだ？」

窓を挾んでの雑談では、あまり戦爭について突っ込んだ話をしたことはなかった。せっかく奇跡による流を果たしているのに、僅かな時間を笑顔で話せない話題で終わらせたくなかったのだ。

でも、こうして彼の世界の現実を見てしまうと、戦爭と言う出來事を直に知らない俺には、悲しみよりも怒りと憤り、そして一番の疑問が頭を占めた。

一、なにがあって、大殺をする様な戦を始めたのか。

俺が知る戦爭は、敵の拠點を重點的に叩いて再起不能にし、なるたけ敵兵士は捕虜にする。戦爭するにも、條約の下人道から理由のない殺戮は止されている。

ただ昔は―――民族浄化やら人種主義とかを掲げて、他民族を迫害し抹殺しようとした戦爭があったな。

―――それと同じなんだろうか？他種族の殲滅(ジェノサイド)なんて。

「分からないの。いきなり宣戦布告して來て、使者を送っても返答を寄こさずに攻めって來たの…だから、私たちの方では『これは竜王の覇権狙い』だと」

「覇権？…でもそれなら、他の種族を一掃する意味がない。どちらかと言えば、竜種のみの國家を…」

「それは無理！私の世界では、一つの種族だけでは世界を維持できないのっ。それは――――」

フィヴが語った彼の世界は、なんだか、難しくも不思議な容だった。

彼の世界には、三種の人がいる。フィヴたちの獣種・羽を持つ有翼種・そして竜種。

その三種族はそれぞれ役割となる能力を生れ持つ。獣種は森林などの植の維持。有翼種は大気の流れと気象の安定。竜種は大地の活や土壌の保持。古の昔に神が定めた定住の地は、それに見合った地だったのだそうだ。彼らがそこで生まれて生活しているだけで、その役割は果たされている。

だから、どの種が欠けても世界の維持は困難になる。なのに、今、獣種と有翼種は、竜種によって世界から抹殺されかけている。

このまま消滅すれば、森林や植は消え、天は荒れ、川も湖も枯れ果て、殘るは荒涼とした地だけだろう。

それは誰もが知っていることだとか。なのに、竜王は戦いを止めない。

――――なぜ？そんな世界をんでいるのか？

「竜と言えば……私の國もおかしかったのだが」

呟きを一言らした後、レイモンドは考え込んでいる様子だった。てっきりフィヴの世界のことを、々と頭の中でね回しているのかと思っていたが、全く違うことを考えていた様だった。

緑の眼が真剣なを宿し、俺とフィヴに互に向けられた。

「トールに話した急遠征だが、あれは隣國との國境近くで大規模な森林破壊が行われた形跡が見つかり、それの調査を兼ねた小規模の町や郷の救助だったのだ。ところが行ってみると、巨大魔獣……ドラゴンの群れが、彼らが住まう霊峰から下りて來て広範囲で大破壊をしていて―――――」

レイモンドの世界では、ドラゴンは他の魔獣とは一線を畫する強大な力を持つ生きで、大陸の中央に長々と連なる山脈の頂近くに住んで、滅多に下界には下りて來ることなどなかったそうだ。山にいる魔獣を食料とし、意味なく人や町を襲うことはなく、だから人々はドラゴンを『神の遣わせた地上の監視者』と呼んで神獣扱いし、畏れ敬っていた。

それがいきなり大集団で下山してきて、広範囲で大暴れし出した。それは天災と呼んでいい脅威だった。

第一陣で出向いたレイモンド達は、破壊された町や村から生き殘った人々を救出し、増援を求めて一旦王都へと戻ったんだが…。

「二陣が出発した直後に、王都襲撃が起こった。そして、その被害は私の國のみならず、近隣國全てに広がっていると知らされた。それまで一度としてドラゴンの群れに襲われることなどなかった我々は……」

フィヴとの初対面の時、レイモンドは切ない表で「脆弱だ」と言っていた。

俺の世界だって、天災に太刀打ちできるなんかない。ただただ、被害がしでも小さくなる様な対策を考え出すだけだ。自然災害とドラゴンを比べるのは違うのかも知れないが、その地に住む人間にとったら、どっちも天災規模の脅威に違いない。

「今、冷靜な頭で考えてみると、なぜドラゴンが下界に災いを撒き散らし出したのか、全く原因が分からない。我々にとっては唐突に始まった、無意味な破壊行としか見えなかった」

眉間を寄せた苦渋を浮かべた表で、レイモンドはフィヴを見詰めた。それにフィヴは同意するように頷いた。

その頃には、フィヴもしは落ち著いたのか涙は止まったが、それでも悲壯まで消えてなくなった訳じゃない。疲れ切って汚れた顔はが落ち、マントは本當にボロボロだった。

「なんで、俺たちは出會ったんだろうなぁ…。戦爭と魔獣の災いに侵されている二つの異世界と平和な俺…なんなんだろう」

「―――確かに。私とフィヴを助けるため。とは言え、我々二人が助かった所で、我々の世界が平和になるとは思えん。では、トールが？」

「やめてくれー。俺はただの総菜屋だっつーのっ！俺がレイやフィヴの世界へ乗り込んだって、平和になんてできねーよっ。つか、俺の城を放って、戻れるかもわからん異世界へ行く気はないしなっ」

妙な話の流れに焦った俺は、フィヴを迎えれる用意のために立ち上がった。

いつまでもここに座り込んで、すぐに結論が出る訳ない話を延々しててもな。まずは、風呂の用意を食事だな。

「レイ、フィヴに家へのり方と風呂の説明を頼む。俺は風呂と飯に支度をするから」

そう言い殘して、キッチンカーを出た。

ところで、フィヴの著替え……どうしようか。の子用の著替えなんて、俺の家には無い！！