《【書籍化】キッチンカー『デリ・ジョイ』―車窓から異世界へ味いもの輸販売中!―【コミカライズ】》知識だって商品の

ジョアンさんと「味いもの対決」の約束をして、明後日のこの時間に自慢の味いを手に集まることになった。

…どんな味いを食わせてもらえるんだろう…。凄く楽しみだ。

さて、そんな商売人同士の新たな売買方法を使って、今度は違う商売人へと話を持っていった。

言わずと知れた、製菓職人とパン職人のバカップルへだ。

敢えてスマホで呼び出したりせず、仕れの時に一人ずつ聲を掛けて家に來てほしいと頼んだ。

相変わらず手土産に酒とビールがあるのは頂けないが、俺用にちゃんと味そうなを用意してくるので文句はない。ただし、今夜はシリーズなのには笑ったが。

ピザにお好み焼きにタコ焼き。これにパンケーキがあったら完璧だな!

「君ら、職人としてのプライドは無いんかい!?」

「無いねー。今は仕事の時間外だからねー」

「俺は、ほんのちょびっと殘っているんで、宅配のピザにはとチーズを追加した」

勝手知ったる他人の家の家電ってことで、中井がウチの大型オーブンにピザを叩き込んで、サラミとチーズを増し増しで焼き直している。サラミとチーズの焦げる匂いが臺所から流れてくるのを肴に、すでにたこ焼きが俺と野々宮さんの口の中に消えている。

そこにジュクジュクいってるピザが到著し、用意が整ったところでカンパーイとグラスをぶつけ合った。

びるチーズと格闘しながら、俺はここ數日の間に起こった異世界流での相談話をした。

すると、二人は口を揃えて俺が厳しすぎると意見してきた。

「ちょろっと教えてやりゃーいいじゃん。天然酵母なんざ、作ってみて失敗して、またトライしてを繰り返したって大金が掛かるもんじゃないんだし」

「それを料理人の俺が教えて、俺に何の得がある?知識だって商品だ!それに俺はパン屋でも菓子屋でもないの!」

コーラで酔える俺は、この時とばかりに気勢をあげた。

「ないの!って…知らないわけじゃないだろ? しくらい―――」

「じゃ、中井が教えてやってくれよ。お前はパン屋だ」

この時を待っていた。

しぐらいだの、ちょろっとだの言うのなら、専門家が直々に講義したらいいんじゃない?

俺には俺の主義主張があるんだし、中井には中井の許容範囲があるだろう。

「お前…元々、俺とチョリを擔ぎ出すつもりだったな?」

「うへへ。當然だろう?異世界流をんだのは、君たちですから!俺が真ん中で橋渡しをすれば、間接的にだが流はできるだろう?」

と、そこへ野々宮さんが口を挾んだ。手には割りばしに刺したきゅうりの一本漬けを持ち、もう片手ではスマホを作している。

「私はね、中井ほど簡単に考えてはいないし、瀬ほど難しくも考えていない。ウチのクッキーが味しかった。それを作ってお菓子屋さんをやってみたい。可いじゃない? の子の夢だよね~? 売れるか売れないかなんて、どうでもいいんだよ~。可の子がお菓子を作ってみたい。それだけでいいのさ。で、できたら私が味見してやるよ」

「…野々宮さんがデレてるぞ…」

「こいつはな、異世界ケモ耳ってだけで、オールOKなんだよ。そんな子が、クッキーが味かったって言っただけで、なんでも許すんだ…」

半分になったきゅうりを振り振り、鼻歌を歌いながらスマホをタップし続けている。

「まずは基礎だね…バターが無くても作れるし…。基本ができるようになったら後は自分でアレンジして、その世界にあるで彼の世界のお菓子を作ればいいんだよ~。可いじゃん? 出來上がったら、パパとお兄ちゃんに食べさせてあげるんだろうなー」

「で、俺の方は野郎が相手か…」

もう、野々宮さんの中では、俺の矜持云々は抜きにして話が進んでいるらしい。の子は凄いな…。

知識とか商売とか…関係ないのかな?俺がけち臭いのか?

「うん。レイモンドの所は、とにかくライ麥パンが主流らしくて、できれば白いふわふわしたパンを作ってみたいんだそうだ」

「…まずは天然酵母作りだな。その前に、俺も異世界パンをご馳走になるかな…」

そんな中井の呟きが合図だった。

気づけば、俺たち三人は思い思いの姿勢で場所を陣取り、チラシの裏や電話橫のメモ用紙を持ち寄って、頭の中の知識やネットの海に散らばる報をかき集めだした。

人が好いにもほどがある。それは俺がレイモンドたちに言われた臺詞だが、俺からしたら俺以上に中井たちの方が人が良すぎだと思う。

なぜ、ここまで協力的なんだろう?

確かに二人を擔ぎ出すつもりで、相談事があると呼び出した。だが、それは俺の考えを聞いてもらい、助言かあるいは意見を出してもらうつもりだった。

こんな風に教師役をかって出てもらう…つもりは…あったな。俺の脳裏のどこかに、きっとその考えは用意されていたはず。でも、絶対にお斷りされると思っていたんだ。

彼らは、俺以上に現実的でシビアな面を持っている。い頃から家が商売をしているし、それを作って売っている親の背を見ながら育ってきたんだ。

だからこそ、簡単には頷かないと思っていたんだが。

「俺はさ、了とは違う方向から味いしだけ分けてやってもいいと思うわけよ。食ってのは―――異世界だろうとどこだろうと、絶対に必要だろ?」

「食うなら、味いってか!?」

「そーゆーこった」

異世界の味いは、まずは三人で味わわせてもらうことになりそうだ。

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