《【書籍化】キッチンカー『デリ・ジョイ』―車窓から異世界へ味いもの輸販売中!―【コミカライズ】》認識の差―フィヴの世界の食事

オルウェン兄弟と雑談中に、ふと気づいた。

無意識にだけど、俺はレイモンドの世界を『昔の歐州の様な世界』、フィヴの世界を完全なファンタジー(空想)の世界と認識していた様だった。

それが影響しているのか、異世界へ俺の知る食文化を流通させるって仄かな夢をフィヴの世界へ持ち込むことに抵抗を覚えているらしく、お菓子以外に何か…と考えることすらなかった。

それは何故かと深く考察してみたら、の因子を持つフィヴたちの世界の食生活に関して、詳しく話を聞いた事がないせいだと思い至った。それでよく総菜を売ろうとしたよなーと、自分の不甲斐なさに落ち込んだ。

ただ、思い出してみると「辛い苦い刺激があるなどの香辛料系と味の濃いは苦手」とは聞いていたし、後は忌避のある以外は食べられるんだとは頭にあった。だから、二人がこっちへ避難している間は、あまり神経質にならずに食事を提供していたし、フィヴも苦手な味以外は機嫌よく口にしていた。

とは言え、フィヴが獣種だったからじゃないか?と思うんだ。犬や貓って、割と雑食じゃん?食うと危ない食材はあれど、知らずに食べてしまうってことは「嫌いじゃない」になる。そして、人の因子もっているフィヴの世界の住人だ。犬貓には駄目でも彼たちにはOKかも知れん。

しかし、それは獣種限定の話しであって、件の竜種や有翼種の皆さんには―――。これはさすがに計り知れない。

こっちの世界の人間だって、食えはするけど道徳や理が「食っちゃならん!」と回避してしまう食材は多い。某護団が日本相手にわーわー!抗議している生きや、昔は食っていたのに今じゃ嫌悪する食材などなど。珍味やゲテモノを口にできる人は、それなりに食に興味がある數派(マイノリティ)なんだと思う。

ちなみに、野々宮さんは貝類が大好だが、食用カタツムリ(エスカルゴ)は必死に拒否する。無理やり食わせられて「味しいけどっ…でもダメ!」とレストランで泣いて降參した経験の持ち主だ。

口に合うか合わないかの問題じゃないだけに、こればかりはフィヴに聞かないと夢を持ち込むことは葉わないだろう。

そして、日曜の夜が來た。

俺は午後だけの営業にシフトしていたが、それでも思いのほかお客が來た上に、一人頭の買い量が通常日よりも多い。子供が夏休みだけでも大変なのに、旦那さんまで休みとなると晝食で手抜きができず、夕食作りの頃には草臥れてしまうらしい。一品でも買って増やさないと、と苦笑混じりに愚癡をこぼして行く。いいですよ~。一品でも二品でも、お好きなだけ買っていって下さーい。

俺の所でもそんなだから、ナカイ・ベーカリーの忙しさは言わずもがなで、デザート擔當の野々宮さん家はこの時期を狙ってお屆けの箱モノや、お子様相手の限定サービスを打ち出したりしている。

だから、二人ともぐったりだった。それでも、商売人同士の付き合いっつーか、野々宮さんが綺麗な包裝紙に包まれた箱を出して、俺の前に置いた。

「これ、親からのお中元。お世話になりまして。これからもよろしくって。お早めにお召し上がりください」

なんと!化粧箱にぎっしり詰まったゼリーとジュレのセット!俺も作るが、パティシエの腕には負けるから。

「遠慮なく頂かせてもらいます。お返しに、角煮を作ったから、持って帰ってくれ」

「あー俺もー」

「おう、パックしてあるから、帰りにな」

夏に豚バラで角煮。中型寸でたっぷりじっくり煮上げた。そして、二人に持たせる分以外は、全て完売しました。

「了の角煮さ、と一緒にくれるから味の濃さを調節できてありがたいんだよなっ」

酒好きバカップルが、そんなことを言い合いながら頷き合っていた。

そう、俺の角煮は出來立てでは薄味で、冷ました角煮を薄切りにして辛子つけて食ったり、ソーメンや冷やし中華のにするにはもってこいだ。で、単品で食いたい場合は煮し煮込んで、あとはに漬けたまま味を染み込ませてから食う!

冬は熱々で、夏は冷菜のお供に。

さあ、熱々の角煮と飲みを持って、キッチンカーへGO!

予告のメモはっておいたんで、フィヴの都合さえよければ會えるだろうと、いつも通りに窓をそっと開けた。

「トール、待ちくたびれたわよ」

「おう、待たせたな。こっちも仕事が忙しくて」

本日は、山野歩きの地味な服裝にフード付きマントだった。なんだか惜しいと思ってしまったが、森はいつもよりも薄暗くて雨空だった。降り始めなのか霧雨程度なのか、目を凝らすとフィヴの羽織ったマントは薄っすらと濡れていた。

「異世界で、初めての雨…」

レイモンドの世界でもフィヴの世界でも、今まで一度も見れなかった景だ。

俺が謎のをしていると、フィヴはをツンと尖らせて不機嫌だった。

「雨は苦手なのよ…。頭ももぼんやりして怠くて…」

「貓科だしなー。で、新作はできたか?」

何とはなしにフィヴの雰囲気が気だるげで、あのオッドアイもきらめきが失せて伏せがちだ。

それに、軒や雨避けのない場所だけに、こんな天候の時に換ってのは辛いな。

「どうにか作ってみたの。父さんはこっちの方が味しいって…チョリお姉さん、來てる?」

「來てるぞ。フィヴの作るクッキーを楽しみにしてる」

今回は蓋つきの籠だった。気は焼き菓子の大敵だからな。それを上目遣いでそーっと俺の差し出して來た。

俺は、前回渡されたフィヴの籠に木製の蓋つきれた角煮をれて、差し出された籠と換した。

「角煮っつー料理だ。を味付きのでじっくり煮込んである。父ちゃんと兄さんと三人で食ってくれ」

「お!!…辛くない?」

「大丈夫。俺の角煮は薄味だ。もうし濃くてもいいと思ったら、ってるごと煮てくれ」

「ふふ…みんな喜ぶわ。ありがとう!」

「おう!フィヴのクッキーと換だからな。そこは気にするな。じゃ、チョリ姉さんに味見をして貰って來る」

いまいち元気の無いフィヴを長く待たせるのも悪いと思い、すぐに籠を後ろへと回した。

野々宮さんはがさがさと音を立てて籠を開け、革袋にったクッキーを手にすると、すぐにランタンの燈りに照らしてと見た目を確認。それから香りと味わい。

「わお…なんの味だろう?」

「こりゃ、すげーや…」

中井はすぐに口に頬張り、味と舌りを優先している。そして、二人がらした聲に、俺も一枚手に取った。

前回と違い、も形も整っていた。こんがり薄茶で形はナイフで切り分けたのか四角く、全部が同じくらいの大きさ薄さだった。香りは―――。

「これは、すげーいい匂い…」

生姜と違うが、それに似た辛みのある香りに仄かな甘い匂いが混じっている。シナモンほどの癖はないけど、ちょうどあんなじの甘さだ。

「そんで、旨ぇ…」

りはさらっとして口溶け良く、前回みたいなざらつきはないし、鼻に抜ける香りが抜群にイイ!

はっと気づいたら、三人して貪っていた。

「見事だよっ!今回のはこの香辛料だかハーブだかの勝ちだわ。これに甘味をし加えて、二種類作って売り出せば…」

「商品価値はあるか?」

「ある!この謎の材料、私がしいくらいだ~」

野々宮さんの好評の聲に押されて、俺は勢いよく窓へとを乗り出した。

俺が満面の笑顔だったのを見て、フィヴの曇っていた表も明るくなった。

「大絶賛だ。使われてるハーブ?が決め手だ。姉さん曰く、これにし甘味を加えたと二種類を作って、それを売り出してみろってさ」

「え……」

商品として売ってみろとの助言が、フィヴには信じられないことだったらしい。伏せていた目が大きく開かれ、呆然として俺を見上げていた。

「売れ…るの?あれ…が!?」

「商品価値はあるかと訊いたら、ある!と力強い返事が來たぞ!」

「私、お菓子屋さん―――なってもいいの!?」

「おう!フィヴの努力の果だ。自信を持ってやってみろ。でもここで完じゃないからな?まだまだ先は続いてるんだ」

「分かってるわ!もっと々作りたいもの!」

マント姿でまたもやくるくる回るフィヴに笑い、そのまま駆け去って行く後ろ姿を見送った。別れの言葉をわさないに帰って行くのはどーにかしろ!

まぁ、今日は雨だし仕方ないか。

フィヴの喜びを伝えるために窓を閉めて振り返れば、異世界クッキーは欠片も殘さずバカップルに食い盡くされていた。俺の角煮と換したのに、一枚しか食えなかった俺。

の子の、手作りクッキーは貴重なのに…。

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