《【書籍6/1発売&コミカライズ配信中】辺境の貧乏伯爵に嫁ぐことになったので領地改革に勵みます》第13話 食卓にを!
小鳥のさえずりを聞きながら、アンジェリクは目を覚ました。
とても爽やかな朝だ。
「んー……」
大きくびをしながら起き上がったアンジェリクは、隣に人がいることに驚いた。
すぐに、そうだった。結婚したのだったと思いだし、夫であるセルジュに「おはよう」と元気に聲をかけた。
「……おはよう」
地を這うような聲が返ってくる。
よく見るとセルジュの目の下には真っ黒な隈ができていた。せっかくの貌が臺無しだ。
「眠れなかったの?」
「眠れるかっ」
何をキレてるのかしらと思っていると「早く著替えてっ」と背中を向けられた。
「目の毒すぎる」
ん? と思ってナイトドレスを見下ろしたアンジェリクは「きゃーっ」と悲鳴を上げた。
びっくりした顔でセルジュが振り向く。
「見ないでよ、いやらしい」
「何がいやらしいんだ、僕はきみの夫だぞ」
「夫でもなんでも、見ないで!」
「無茶言うな!」
ベッドから飛び起きてクローゼットに駆け込んだアンジェリクは、鈴の付いた紐を引いた。
しばらくするとセロー夫人が現れた。
真っ赤になったアンジェリクを見て、意味ありげに口元をほころばせる。
いい朝ですね、とさりげない話題を選ばれて、あなたが思っているようなことは何もありませんでしたよなどと言えるはずもなく、そうね、と返すしかなかった。
それにしても、その道の教育係! ブリアン夫人! あなたはなんてらなナイトドレスを選んでくれたのだ。
(あんなスッケスケじゃ、何も著てないのと同じじゃない)
むしろ著ているほうがいやらしいじがする。特にのあたり……。
考えたら頭まで沸騰しそうだった。
気持ちを切り替えよう。
朝食のメニューはパンとスープだった。スープは野菜のコンソメスープだ。
昨夜も確か、パンとスープとだった。野菜の。
食事に文句を言うつもりはないが、もうちょっと、こう……とか、とか、が出てきてもいいのだけれど。
視察に行くと言うと、ドニがサンドイッチを用意してくれた。
こっそり中を覗くと、野菜が挾んであった。
「ねえ、ドニ。夜はおが出る?」
ピクニックバスケットを抱えてそれとなく聞くと、ドニはさっと視線を逸らせた。
セルジュを見ると、やはりさっと視線を逸らす。
そうか。
ここは貧乏伯爵の城だった。
セロー夫人が薪も買えないらしいと言っていたし、きっとも買えないのだ。
「ごめんなさい。悪いことを聞いたわ。大丈夫。私、お野菜も大好きよ」
本當のことだ。
野菜は大好き。
ただ、はもっと好きだった。
それでも、領民が十分に食べられないのに、自分だけいいものを食べようとは思わない。
実家での暮らしが贅沢過ぎたのだと、アンジェリクは反省した。
視察に行く前にサリとラッセに會いたいとセルジュが言った。
「ちょっとだけ」
アンジェリクも會いたかったので、一緒に廄舎に向かった。
ジャンたちがサリとラッセに食事を與えているところだった。
ドラゴンたちが口にしているものを見て、アンジェリクは思わず「あっ!」とんだ。
大きなかたまりがサリの前の桶に盛られていた。ラッセの前にも同じものが。
「お……」
「あ……」
気まずそうに目を泳がせるセルジュ。
アンジェリクは聞いた。
「ドラゴンの食事って、おなの?」
「い、いろいろ食べるけど、は好きみたいだね……」
「私も、おが好きよ」
「うん……」
セルジュがうつむく。
アンジェリクはドラゴンたちに目を向けた。
二匹は満足そうに目を細めて、塊を咀嚼していた。
「あの子たちの食べを取ったりしないわ」
「アンジェリク……」
セルジュが顔を上げる。
「安心して」
「ありがとう、アンジェリク」
ああ、この人は本當にドラゴンのことしか頭にないのね。
ため息を吐きながら、アンジェリクは思った。
ドラゴンは、可い。
アンジェリクもすでにすっかり彼らのことが好きになっていた。
だから、食べを橫取りする気がないのは本當だ。
でも、は食べたい。
アンジェリクは考える。
だったら、もっとを買えるようにすればいいのだと。
「視察に行きましょう」
嬉しそうにドラゴンたちを眺めているセルジュに言った。
サリとラッセに名殘惜しそうな視線を投げ、セルジュは大人しくアンジェリクの後をついてきた。
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