《《書籍化&コミカライズ》神を【神様ガチャ】で生み出し放題 ~実家を追放されたので、領主として気ままに辺境スローライフします~》40話。【弟SIDE】王宮のモンスターたちが暴走。アルトの元に向かう
やっとの思いで、辺境から帰ってきたナマケルが、自室でくつろごうとした時。ついに恐れていた悪夢が現実となった。
「た、大変でございます! 今、王宮より知らせが屆きまして……王宮のモンスターたちが暴走しているそうです!」
執事がノックもせずに部屋に飛び込んで來る。
「なんだとっ!?」
ナマケルは頭をハンマーで毆られたような衝撃をけた。
「アンナ王殿下から、すぐに王宮に來るようにとのお達しです。來なければ、ナマケル様を公開処刑にすると!」
王宮に行ったところで、ナマケルにできることは何もない。
いっそ逃げようかと思ったが、逃げ道も塞がれた。
「ちくしょおおおっ! あのクソ王! オースティン伯爵家が、今までどれだけ王國に貢獻してきたと思っていやがるんだよ! 公開処刑だと!?」
頭を抱えながらも、ナマケルは馬車を用意するように執事に言いつけた。
◇
「ああっ! アルト様が……我らが王宮テイマー、アルト様がやってこられたぞ! 助かったあ!」
ナマケルの顔を見た衛兵が、喜びの聲を上げた。
衛兵たちは城門前で、巨大スライムにのしかかられて、きができなくなっていた。
「アルト様! お助け下さい! この事態をなんとかできるのは、あなた様をおいて他におりません!
クソォオオ! あの無能のナマケルが、アルト様を追放なんてするから!」
「誰が兄貴だぁ! オレっちはナマケル様だぞ!」
顔が同じために、アルトと間違えられたナマケルは怒鳴り返した。
「なっ!? この事態を招いたアホの弟の方かよ!」
衛兵たちは、激しく落膽する。
門をくぐったナマケルは、の気の引く思いとなった。
王宮に到著したは良いが、どこもかしこも手がつけられない狀態になっていた。
「きゃぁあああああ──っ!?」
メイドたちが貓型モンスター、トラトラキャットに追いかけ回されて悲鳴を上げている。
貴族の男が熊型モンスター、スモウベアーに襲われて、無理やり相撲を取らされている。
「ああっ、やめてくれ! それは姫様が大事にされている花壇……っ!」
うさぎ型モンスター、ビックラビットの群れが、花壇の花々をムシャムシャ食べていた。
「クソっ、やべぇな……」
王宮のロビーにると、飾られた國王夫妻の肖像畫に猿型モンスター、モンキッキーが落書きをしていた。
王家を完全にコケにした所業だった。
鎮圧に當たったと思われる兵士たちが、そこらじゅうに倒れている。
壯麗な王宮が荒らされ放題で、花瓶などの調度品や窓が割られ、壁にが開いていた。
もうムチャクチャである。
「ナマケル殿! 王宮テイマーなら、なんとかして下され!」
「あなたが、まともに仕事をしないから、こんな事態に!」
右往左往する人々は、口々にナマケルをののしった。
「うるせぇえ! って……こ、こいつはもう弁償できる被害じゃねぇ……」
ナマケルは自分へのダメージを減らす方法を必死に考える。
一番良いのは部下に責任を押し付けることだ。
「そうだオレっちは悪くない! 全部、モンスターの世話をしきれなかった下っ端のテイマーと世話係どもが悪いんだ!」
王宮テイマーは多種多様なモンスターの狀態を把握し、適切なケアや世話の指示をするのが役目だ。
ナマケルはしっかり指示を出していたが、部下が無能で対応できなかったことにすれば、傷は多なりとも淺くなる。
とにかく部下たちを見つけ出して、口裏を合わせなければならない。部下とは失敗の責任を取らせるために存在しているのだ。
しかし、そこでナマケルは気づいた。
(あれっ? オレっちの部下の顔と名前がわからねぇぞ……)
まったく王宮テイマーの仕事をしてこなかったためだ。
筋にあぐらをかいて、怠惰に過ごして來たツケが、一気に回ってきた。
「はぅああああっ!? やめろ、キサマら命令を聞け!」
王宮を駆け回っていると、ナマケルの父の悲痛な聲が響いた。
見れば父がゴリラ型モンスター、ベースボールゴリラの群れに捕まり、キャッチボールの球にされていた。
父のがゴリラの間で、空中を行ったり來たりしている。
これにはナマケルもあ然とした。
ベースボールゴリラは、野球を趣味とする変わった質を持つ。しかも、彼らは人間をボールに見立てて遊ぶ、危険極まりないモンスターだった。
一度野球を始めた彼らを止めることは、上位テイマーでも難しい。
「巨メイドハーレムを作って暮らす、ワシの夢がぁあああっ!?」
「ホームラン、うほ!」
父はバットを持ったゴリラに、かっ飛ばされて庭園の池に落ちた。
「オースティン卿がやられたぞ!」
「駄目だ! 元王宮テイマーのあの人がどうにかできないなら、もうどうにもできん!」
「オースティン卿、しっかり! か、完全に気絶している!?」
ナマケルの父は、兵士に助け出されていたが、もう戦力としては期待できそうになかった。
「うほ! うほ!」
ベースボールゴリラが、手を叩いて喜んでいる。
標的にされる前に、ナマケルは逃げ出すことにした。
「近衛騎士団は!? 宮廷魔導師団は何をやっているか!」
「近衛騎士団はすでに全員ノックアウトされています! 宮廷魔導師団は、城で魔法を使うと城に損害が出るが良いかと……」
対応に追われる武たちの怒聲が響く。
まさか近衛騎士団が、すでに負けてしまっているとは……
王宮のモンスターたちは、王國最強の獨立遊撃隊『獣魔旅団』と呼ばれている。その力は、すさまじかった。
だが、不思議なことに、モンスターたちは人間に致命的な怪我を負わせたりはしていなかった。
じゃれて遊んで、ストレスを発散させているようだった。
「くううううっ……! これは人間を傷つけるなというアルト殿の教育が行き屆いていたおかげね。不幸中の幸いだわ」
アンナ王が手モンスターに両手両足を拘束されて、うめいていた。ドレスが破れて、あられもない姿になっている。
彼の周りには、護衛の騎士たちが倒れていた。
「ああっ! お、王殿下っ!?」
ヤバい場面に出くわした。
ナマケルは王に怒られないうちに、その場を離れようとした。
だが、びた手に絡め取られての自由を奪われた。
「げぇ!? なんだこりゃ、気持ち悪りぃ!」
「ナマケル! ホントに役立たずな男ね! なんとかできないの!?」
「無理ッス! こいつらアルトの兄貴に訓練されて、野生種よりもずっと強くなってやがりますからね。
並のテイマーじゃ、言うことを聞かせるのは……」
「他人事みたいに言わないで頂戴! あなたの責任でしょ!? 市中引き回しの上で公開処刑にされたいのかしら!?」
「そ、それだけはご勘弁を!」
アンナ王に氷のような目を向けられて、ナマケルは危うく失しそうになった。
「こんなことなら、あなたをさっさと更迭して、アルト殿を無理にでもシレジアから呼び戻せば良かったわ!
あなたなんかにチャンスを與えたのが、間違いだったのよ!」
アンナ王が憤激にを震わせた時だった。
「アルト、シレジアにいる! アルト、シレジアにいる! 向かえ、シレジアに!」
人語がしゃべれるオウム型モンスターが、城を飛び回ってんだ。
すると好き勝手に暴れていたモンスターたちが、ピタリときを止めた。
「な、何……っ?」
アンナ王を手で締め付けていたモンスターも、興味を失ったように彼を解放した。
アンナ王が、怪訝な面持ちになる。
そのまま、すべてのモンスターたちが、怒濤の勢いで城から立ち去って行った。
ドドドドドドッ!
アンナ王と、ナマケルはそれを呆然と見送った。
後には、さんざんに荒らされ汚れきった王宮が殘った。
目もくらむほどのしさを誇った王宮は、もはや見る影もなかった。
「……ナマケル殿。王宮の修繕費、及び人的被害の補償は、すべてあなたに請求させていただきますわね。
私財のすべてを投げ売って、売りしてでも、この不始末の責任はとっていただきますわ。
公開処刑にするなどと言いましたが。ごめんなさい、撤回いたします。そう簡単に死ねるとは思わないことね」
アンナ王が、底冷えするような酷薄な目で告げた。
ナマケルにとって、これはさらなる地獄のり口に過ぎなかったのである。
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