「まさか【神様ガチャ】で、次は叡智の神メーティスを召喚してしまったというの……！？」

アンナ王は近衛騎士シリウスからの報告に言葉を失っていた。

「はっ！　溫泉宿にメーティス様の書を公開した漫畫コーナーなる施設が増設されました。私も読みたかったのですが、奪い合いが起きるほどの人気でして、まだ読めておりません！」

水晶玉に映るシリウスは、申し訳なさそうに腰を折る。

「メーティス様の書、それはわたくしもぜひ読んでみたいわ……というより、最優先で確認すべきものです！　今すぐに確認なさい！」

アルトの起こす數々の奇跡は、想像の域を超えていた。メーティスの叡智を手にれることができれば、シレジアだけでなく王國全にどれだけの恩恵が得られるかわからない。

メーティスの書については一刻も早く確認し、その知識が外部にれないように手を打たねばならなかった。

「はっ！　我々の総力をあげて漫畫を読んで、容をご報告申し上げます！」

シリウスは実直にお辭儀をして、通信を切った。

「ふぅ、ようやく時間ができましたし……今夜にでも、またアルト様と直接お話させていただかなくてはなりませんわね」

そう思うと、アンナ王のは高鳴った。

ずっと悩んできた帝國との和平渉が、ようやくまとまりかけていた。

ここ數日、アンナ王は監視の意味も込めて、帝國の使者であるアイザックをもてなしていた。怪しいきも無いし、明日にでも和平條約を結ぶことができそうだ。

これでようやく、アルトを落とすための策略を練ることに専念できる。

「わたくしをここまで本気にさせたのは、アルト様が初めてですわ」

まずはアルトとの接を増やすことだ。

視察と稱して、シレジアに赴くのが良いだろう。

ドラゴン運送業もさっそく開始され、シレジアで作られた農作や武などが屆けられていた。

驚いたことに武は、王都の武職人が顔を失う程の攻撃力を誇っていた。王國軍の武をすべてシレジア産にすることを、近衛騎士団長が強く進言している。

この狀況下なら、王としてシレジアを訪問することに反対する者はいないだろう。

「アルト様に喜んでいただくために、モンスターについて勉強しなくては……！　大変ですけど、これも大就のため」

アンナ王は分厚いモンスター図鑑を開く。

時間を見つけては、アンナ王はモンスターについて勉強していた。アルトがもっとも興味があるのは、モンスターの話題だからだ。

どぉおおおおおん！

その時、突如、音と共に王宮が大きく揺れた。

「なにごとですの！？」

階下から、なにやら爭うような怒號が響いてくる。

「王殿下！　大変です、曲者ぎゃあぁああ！？」

ノックもなしに王の私室にってきた騎士が、炎に包まれて燃え盡きた。

「邪魔するぜ、王様よぉおおっ！」

野な聲と共に、兇悪な人相の男がズカズカとり込んでくる。印象がかなり変わっているが、その顔と服裝はダオス皇子のモノだ。

「あ、あなたは、まさか……ダオス皇子なのですか？」

「あぁああ〜ん、違うなボケ王！　俺様は魔王リヴァイアサンだ」

「えっ……？」

一瞬、何を言われたか、アンナ王は理解できなかった。

そもそも魔法封じの結界を張った地下牢から、どうやって出してきたというのだろうか？

「細かいことは置いておいて王様。てめぇは今から、一生俺様の奴隷決定だ。ハハハハッ！」

魔王リヴァイアサンの手の平から炎が放たれた。

「きゃああああっ！？」

それはアンナ王にまとわりつき、猛烈な痛みを與える。

だが、不思議なことに彼のドレスには焦げ目ひとつつかず、髪もを焼くこともなかった。

炎が去った後、アンナ王は怪訝に思いながら無事なを見下ろした。

「これは【ペインフレイム】つってな。的なダメージはねぇが、痛覚を刺激して地獄の苦しみを與える。痛いのが嫌だったら、これからは俺様の命令にすべてイエスと応えることだぜぇ？　そら、この俺様をアルトよりしていると言ってみろ！」

「な、なんですって……この下郎！」

アンナ王は激怒して魔王リヴァイアサンを睨みつけた。

「ヒャアアアア！　いいねぇ！　俺様に絶対になびかねぇが、涙を流して屈服する瞬間が好きなんだ。俺様の嫉妬心が最高に満たされるぜぇ！」

魔王リヴァイアサンが、馬鹿笑いを上げる。

底知れぬ劣を向けられて、アンナ王は背筋が凍る思いがした。

「それじゃ。王様の調教開始といこうか？　いい聲で泣いてくれよ、ボケ王！」

魔王リヴァイアサンが再び、【ペインフレイム】を放とうとする。

「アンナ王をお救いしろ！」

その時、抜剣した近衛騎士団が突してきた。

たが、魔王リヴァイアサンが指を鳴らすと、全員が噴き上がった猛火に飲まれる。一瞬にして屈強な騎士たちが全滅した。

「バカが！　地獄の業火より熱い、俺様の【嫉妬の炎】（グラッジファイヤー）に、てめぇらごときが、あがらえるかよ！」

「おぉおおおおお──っ！」

唯一、その攻撃に耐えきった近衛騎士団長が、火に巻かれながら突撃を仕掛ける。彼はシレジアから屆けられたミスリル製の鎧を著ていた。

「はっ……？　まさかヴェルンドが造った鎧か！？」

魔王は近衛騎士団長の頭を摑むと、そのまま三階の窓の外に投げ捨てた。そして、頭を掻きむしる。

「チクショオオオオ！　うやましぃいぜ！　アルトの野郎、天界の名匠ヴェルンドに売るほど武を造ってもらっているのか！？　嫉妬をじ得ないぜぇ！」

「ま、まさか……近衛騎士団長が、こうもあっさりと！？」

アンナ王は怯えて後ずさった。

さらに、外から耳をつんざく砲撃音が聞こえてきた。ビリビリと窓ガラスが震える。

「始まったみてぇだな。帝國の飛空艇団の総攻撃がよ」

「なっ！？　和平渉の最中に総攻撃ですって……！」

あまりに非道な不意打ちだった。

『申し訳ありませんなアンナ王。和平の條件については、貴（あなた）がダオス皇子と結婚し、アルビオン王國が帝國の一部となることとさせていただきます。同意いただけますかな？』

驚いたことに帝國宰相カールが室してきた。その後ろには、帝國の使者であるアイザックが控えている。

どうやらアンナ王に聲をかけたのは、アイザックが持つ水晶玉から投影されたカールの立映像のようだ。

「カール宰相殿……！？」

『さすれば総攻撃については、即座に中止いたしましょう。ああっ、ご安心を。國王陛下に相談する必要はございません。貴以外の王族は、全員処刑させていただきます故に』

カールは禮儀正しく腰を折る。

「な、なるほど……そういうことですか。帝國はわたくしたちを謀っただけでなく、魔王と手を結んでいたのですね」

アンナ王はを噛んだ。

ダオスは魔王リヴァイアサンの依り代となったのだろう。そして、カールは魔王の力を使って王國を攻撃してきた。

まさか魔王をコントロールし、戦爭に利用することが可能だとは思いもしなかった。

『アンナ王は聡明であられますな。なら、抵抗は無意味であることもご理解いただけましょう』

「……ふふふ、これはおかしいですわ。カール宰相殿、まさかこれで勝ったとお思いですの？」

アンナ王は勝ち気に言い放った。

『なに……？』

「わたくしは以前、ダオス皇子に申し上げましたわ。我が國を敵に回すということは、アルト様を敵に回すということだと。あなた方こそ、その覚悟はできていらっしゃるのかしら？」

すでにアルトには誰かが連絡をしてくれているハズだ。

ドラゴン軍団を従えて、アルトはすぐにやってきてくれるに違いない。

「なんだと、小娘？　この俺様が、アイツに劣るとでも言うのか！？　ちくしょっおおおお、嫉妬でおかしくなるぜぇ！」

魔王リヴァイアサンが【ペインフレイム】を手にまとわせる。

「よせリヴァイアサン。その娘を痛めつけるならアルトの目の前でしろ。壊してしまっては、人質の価値が半減する」

「あん？　サタン。この俺様に指し図する気か？　今、俺様は嫉妬に燃えているんだぜぇ！　このボケ王に、思い知らせてやらなければ気がすまねぇえええ！」

『アルトに勝たねば、お前の嫉妬心は満足せぬのではないか？　なら、どうするのが得策か良く考えるのだな』

カール宰相の指摘に魔王リヴァイアサンは、振り上げた手を止めた。そして、苦々しく告げる。

「ちっ！　……まぁその方が、楽しめるってもんだからな」

アンナ王はほっとするが、同時に理解した。

魔王リヴァイアサンは、アルトを恐れている。まともに戦っては勝てないと考えているのだ。

それに、今、かなり重大なことをリヴァイアサンはらした。カール宰相の正は……まさかとは思うが、魔王サタンであるらしい。

リヴァイアサンは頭の回転はあまり良くないようだ。なら、アルトを支援するためにも、可能な限り報を引き出さなくてはならない。

「そうですわよね。あなたごときでは、わたくしを人質に取らなくては、アルト様に勝つことなど不可能ですわよね？」

嘲笑を浮かべて、アンナ王は魔王リヴァイアサンを挑発した。

「な、なんだと、てめぇええ……！？」

「よせ、その娘の思に乗るな。これはアンナ王。リヴァイアサンを挑発することで、狀況を有利にしようとでも？」

さすがにカール宰相には、見抜かれたようだ。

報を引き出せなくても、相手の冷靜さを失わせれば戦いは有利になる。

王都が帝國に攻撃されている中、王としてできる限りの手を打ちたかった。

「事実を申し上げただけですわ。そのことを、あなた方はすぐに思い知ることになるでしょう。後悔するのですね」

アンナ王は優雅に一禮した。

本當は膝が震えていた。しかし、きっとアルトが助けに來てくれるという信頼が、彼の心を支えていた。