《【書籍化】盡くしたがりなうちの嫁についてデレてもいいか?》嫁の好きな人
昨日の夜中の出來事は、夢か現実か。
尋ねられたりこは、俺を一瞬瞳を揺らしてから、絞り出すような聲で質問を返してきた。
「な、なんで……?」
「え」
まさか、「なんで」なんていう切り返しをされるとは思っていなかったから、俺は怯んだ。
今の質問、どう考えてもイエスかノーかの二択だったよな……?
この狀況、どうしたらいいんだ。
りこがくっついてくる夢を見たんだけれど、もしかしてそれって現実だったのかな――なんて言えるわけがない。
……そんな夢を見てる時點で、りこへの想いがバレバレだし。
りこからしたら「夢の中の私に変なことさせないで!」という気持ちになる案件だ。
馬鹿だな、俺。
これは軽々しく聞いていい質問なんかじゃなかったのに……。
自分がりこに向かって抱いている想いを、彼に打ち明けるための覚悟なんて微塵もできていないくせに、りこから特別に想われていたいと期待し、それを確認しようとするなんて図々しすぎた。
そもそも俺はりこが好きなのか。
澤がりこに憧れる気持ちと、俺の気持ちが別なのかどうかさえ、今の俺にはわからない。
どう考えても、りこの気持ちを探るより、自分のと向き合うほうが先だよな……。
つくづく素人な自分にため息がこぼれる。
「……やっぱり、なんでもない。忘れて」
「……ほんとに忘れたほうがいい……?」
「あ、う、うん。変なこと言ってごめん」
慘めな気持ちでそう謝ると、りこはもの言いたげに俺を見つめた後、「……そっか」と言って背を向けた。
――この數日後、俺は激しくを揺さぶられ、自分の気持ちを自覚することとなる。
◇◇◇
きっかけは、一枚のメモだった。
その日の休み時間、普段どおり自分の席で映畫雑誌を眺めていると、クラスメイトの広瀬輝が話しかけてきた。
「新山、ちょっといい?」
ぎょっとしながら視線を上げる。
アッシュ系に染めた髪を今風にワックスで固めている広瀬は、軽音楽部の爽やかイケメンで、學園ヒエラルキーの頂點にいるタイプの生徒だ。
今まで一度も個人的に口をきいたことがない。
その広瀬が一なんの用だというのか。
「これ、おまえから花江さんに渡してもらえない?」
差し出された紙を見下ろし、首を傾げる。
「……なんで俺?」
「だって花江さんと馴染なんだろ?」
そうだ。
そういう設定だったのだ。
だとしても、な。
「や、でも、麻倉さんとかに頼んだほうがいいんじゃない?」
「いやーそれが麻倉には門前払いにされるんだよ。『告白ぐらい、本人に直接言って』ってさ」
なんとも麻倉らしい対応だと頷く。
――って、この紙、そういう容のことが書かれているのか。
だったら、け取りたくないな……。
「麻倉の言うとおり、花江さんに直接渡したら?」
「花江さんって男子が話しかけると、めちゃくちゃ警戒するし、二人で話したいっていうと絶対斷るって有名だから」
「あー……」
學以來、數えきれないほど呼び出しをけ、告白されてきたりこが、そういう態度を取るようになったのも致し方ない。
「とにかくこれ、よろしくな!」
「わ、ちょ、え……」
強引に押し付けられてしまった……。
はぁ……。
け取ってしまった以上、りこに渡すしかないけれど、気が滅る。
……今までりこはどんなイケメンが相手でも、告白を一刀両斷斷りまくってきた。
だからって今回も、そうなる保証なんてどこにもない。
◇◇◇
――普段はバイトが終わったら、りこが待つ家へ逸る気持ちで向かうのに、今日は預かったメモのせいで足が鉛になったんじゃないかって思うぐらい重かった。
よっぽど死にそうな顔をしていたのか、出迎えてくれたりこに開口一番、大丈夫かと聞かれてしまった。
「どうしたの……っ。何かあった……?」
「や、平気」
先延ばしにしたって、の苦しみと戦い続ける時間が増えるだけだ。
俺は深く息を吸ってから、制服のポケットにしまっておいたメモを取り出した。
「りこ、これ」
「……?」
りこは不思議そうに差し出されたメモをけ取り、その場で開いた。
直後、彼の顔が真っ赤に染まり、揺した涙目で俺を見上げてきた。
な、何この反応。
まさか……りこ、広瀬のこと好きだったのか……?
「こ、これ……湊人くん……ほんと……?」
「……ああ、うん。休み時間にちゃんと本人からけ取ったから」
「………………えっ。本人って誰のこと……?」
「え? 広瀬だけど……」
まさかあいつ、メモに自分の名前を書かなかったのか……?
俺が改めて、休み時間にあったことを話すと、りこは聲にならない聲をあげて、その場にしゃがみ込んでしまった。
「りこ、どうした……!?」
「……ううっ、ひどい……。いっきに天國から地獄だよ…………」
「……? どういう意味?」
「……な、なんでもない……! ……湊人くん、これはけ取れないので、お返ししてください」
広瀬はフラれた。
見苦しいけれど、俺はガッツポーズをしそうになったほどうれしかった。
「わかった。明日返しとく。――でもさ、なんで誰の告白も斷り続けてるんだ?」
それは単純な疑問だった。
まさかまた自分が考え無しに口にした問いが、予想外の方向で己の首を絞めに來るなんて、このときは微塵も想像していなかった。
りこはなぜかちょっぴり不機嫌そうな顔でむすっとしてから、上目遣いに俺を睨んで言った。
「……私……好きな人、いるの……っ」
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