《【書籍化】盡くしたがりなうちの嫁についてデレてもいいか?》「私……もう気持ちを抑えない……」
「うん……。ずっと前から私の心にはその人しかいないんだ。湊人くん、覚えてる? 稚園のときに、一人ぼっちだった私を救ってくれた男の子のこと」
俺は無言で頷き返した。
りこがしてくれた話を忘れるわけがない。
その男の子というのは、まだ俺たちが一緒に暮らしはじめる前、りこが聞かせてくれた時の思い出話に登場した彼のヒーローのことだ。
「まさかその子のことを好きなの? でも稚園の時の話だよね? あっ、馴染ってやつ?」
そんなマンガやラノベみたいな関係が現実に存在するのかと思いながら尋ねると、りこはふふっと笑って否定した。
「私は稚園を卒業するのと同時に、また父の仕事で海外に引っ越すことになったから、それきりその男の子とは會えなかったの。でもね、中學生になって日本に戻ってきた後で再會できたんだ。――彼はちっとも変わらなくて、子供の頃と同じようにすごく優しかった。しはにかんだように笑うところを見たとき、がきゅんってなって……『あ、私、五歳の頃からずっとこの人のことが好きだったんだあ』って。そんなふうに自分の想いに気づいたの」
「……そ、そうだったんだ」
ショックなのを隠すのに必死で、引きつり笑いを浮かべるのがやっとだ。
淺ましいことに俺は、りこの好きな相手が自分だったりしないかなどと思った。でも、その希は一瞬で潰えた。
それに気づくのと同時に、暴力的な痛みが襲ってきた。
なんだこれ……。
人生で初めて味わう、衝撃的なの痛み。
の気が引いていって、地面の覚がなくなる。
目の前のの子に、好きな人がいるとわかっただけで、こんなにボロボロになるなんて……。
さすがの俺にもわかる。
この子に向け続けてきた想い、これは紛れもなくだ。
失の痛みでそれを自覚するっていうのが、いかにも初心者らしい。
そこからのことは、ほとんど覚えてない。
確か、ごにょごにょとよくわからない言葉を並べて、戸っているりこを殘して、自分の部屋に飛びこんだのだったけれど……。
記憶があやふやになるぐらい、本當にショックだったのだ。
◇◇◇
それから數日、俺はりこの顔をまともに見れていない。
話しかけられたら普通に會話をするけれど、前みたいにりこのほうが向けないし、そのせいで食後すぐ自室に逃げ込むことが多くなった。
そして今晩も同じように自室で暇を潰していたのだけれど――。
「……死ぬほど退屈だな」
前は一人の生活が普通だったのに。
りこと過ごす楽しさをしってしまったせいで、どうしようもなく時間を持て余してしまう。
「……はぁ。コンビニでも行くか」
獨り言を呟き、立ち上がる。
廊下に出た瞬間、見計らったかのようなタイミングで向かいの部屋の扉が開いた。
「湊人くん」
思わずビクッとなってしまう。
扉の隙間から顔だけを覗かせたりこは、迷うように黙り込んだ後、聲を震わせながら言った。
「……私のこと避けてるよね……?」
「や! そ、そそそんなことないよ……!?」
「……うそ」
大きな目でりこが俺を非難するように睨む。
そんな顔も可いなんてずるい。
しかもこれだけ俺を魅了するくせに、他の誰かのことを好きだなんてひどい。
ううっ。
む、が痛い……っ。
涙目になりそう。
「……湊人くん、私――」
「ご、ごめん! ちょっとコンビニ行ってくるから……!」
「あっ……」
ごめん、りこ。
……やっぱり俺まだ、平気な顔してりこと話せる狀態じゃない。
けないことは百も承知で、俺は彼の橫をすり抜け、逃げ出した。
◇◇◇
――それからコンビニで一時間。
俺は帰るに帰れなくて、立ち読みをして時間を潰し続けている。
……でも、朝までこうしてるわけにはいかないよな……。
何度目かわからないため息をついて、雑誌を置く。
それから必要以上に時間をかけて、とぼとぼと家に帰った。
エレベーターの中で、また重いため息。
……靜かに玄関の扉を開けて、りこに気づかれないように、こっそり自分の部屋にってしまおう。
細心の注意を払い、音を立てずに鍵を指して、慎重に扉を開く。
ところが――。
「りこ……!?」
玄関には膝を抱えて座ったりこの姿があった。
「……待ってたの」
「まさか、ずっと……!?」
りこがこくりと頷く。
まるで飼い主の帰りを、何時間でも待ち続ける忠犬みたいな行に俺は思いっきり揺していた。
そうまでして俺と話したかったってこと……?
……俺がりこを避けているのが、そんなに嫌だったのか……?
……いや、でも、そうだよな。
一つ屋の下で暮らしているんだ。
その相手にわけもわからないまま避けられていたら、気を遣うに決まっている。
俺はそんなことにも気づかず、自分が傷つきたくない一心で、勝手な行を取っていたのか……。
最悪だ。
りこに好きな人がいたって、いなくたって関係ない。
こんなデリカシーのない人間、好きになってもらえるわけがなかった。
「ごめん……」
いろんなことへの申し訳なさを含めてりこに謝ると、りこはゆっくり立ち上がった。
そのまま俺の前まで近づいてくる。
無意識にごくりとを鳴らす。
りこは悲しんでいるような顔をしている。
「湊人くん、私の話聞いてくれる……?」
「う、うん」
りこの言葉を待ちながら、ぐっと両手を握り締めた。
何言われるんだろ……。
正直、めちゃくちゃ怖い。
俺のクソみたいな態度について怒られるのかも。
「……湊人くんはまだの子のこと苦手?」
「え」
……なんでりこがそのことを知ってるんだ?
……俺の態度に滲んでいたのかな。
教室ではまったく子と話せないし、プリントのけ取りだけでも挙不審になってしまう俺だ。
りことまともに會話できるようになったのも、最近のことだし。
それもちょっと揺するだけで、すぐどもってしまう有様だ。
俺は自分の弱さをけなく思いながら、りこに頷き返した。
「……私のことも苦手?」
さっき以上にびっくりして、目を見開く。
りこを苦手――?
……最初は、そうだった。
はっきり言って、こんなと向き合ってるだけでプレッシャーで、他のどんな子より張する存在だった。
でも、今は……。
りこの優しさにれて、可らしさを知って、憧れ、いつの間にか好きになってしまって……。
他の誰にもできないぐらい、俺の心を傷つけてくる存在となった今は――。
「……違う」
好きで、だからこそ怖くて、その相反するを含めて、誰よりも特別なの子。
その他大勢の子たちと同じ「苦手」という枠にれて置けるわけがない。
「りこは他の子とは違う……!」
自分でもびっくりするぐらい、強い聲が自分の側から溢れ出てきた。
それまでただ悲しげな顔をしていたりこが、口元に手の甲を當てて、くしゃりと表を崩した。
「……それなら、私……もう気持ちを抑えない……」
「気持ちを抑えるって……?」
りこは首を橫に振ってから、ゆっくりと手をばしてきた。
わけがわからなくて棒立ちになっている俺の服の裾を、りこの手がきゅっと摑む。
「湊人くん、私がすること、嫌だと思ったら言ってね。そしたら私、もうそういうことはしない……。……何もしないでいても、今回みたいに離れそうになることがあるってわかったから……。……気持ちを伝えるのは許されないのだとしても、ただ我慢してるだけなのはやめる……」
「ま、待って。りこ。何言ってるのかわからなくて……」
りこは一、何の話をしてるんだ?
今回みたいなっていうのは、俺がりこを避けて、りこに気まずい思いをさせたってことだよな。
そこはわかる。
でも他の部分が謎過ぎて、まるで難解な暗號を聞いているかのような気になった。
りこはオロオロしている俺を見て、ふふっと苦笑した。
「そういうところ、ほんと湊人くんだよね……。……そこが……――きなんだけど」
「え……え……?」
「湊人くんにわかっていてほしいのは、私のすることで嫌なことがあったら教えてっていうところなのです。そこはいいですか……?」
りこがすることで嫌なことなんてないと思うけれど……。
真剣な顔で俺の答えを待っているので、「わかった」と返したら、りこは「絶対だよ……?」と言って、ようやくいつもの笑顔を見せてくれた。
……この笑顔が消えてしまったのって、俺がりこを避けたりしたせいなんだよな。
そう思ったら、改めて自分の馬鹿さ加減がに染みて、消えてしまいたくなった。
もうあんなこと二度としない。
りこへの片思いで、この先、どれだけ傷つくことがあっても――。
りこを苦しめるものか。
の、本気でそう決意した。
もし「りこすき!」「りこがんばれ!」と思ってくださいましたら、
スクロールバーを下げていった先にある広告下の☆で、
『★5』をつけて応援してくれるとうれしいです
想欄は楽しい気持ちで利用してほしいので、
見る人や私が悲しくなるような書き込みはご遠慮ください( *´꒳`*)੭⁾⁾
【書籍化】學園無雙の勝利中毒者 ─世界最強の『勝ち観』で學園の天才たちを─分からせる─【コミカライズ決定!】
【書籍版一巻、TOブックス様より8/20発売!】 暗殺一族200年に1人の逸材、御杖霧生《みつえきりゅう》が辿り著いたのは、世界中から天才たちが集まる難関校『アダマス學園帝國』。 ──そこは強者だけが《技能》を継承し、弱者は淘汰される過酷な學び舎だった。 霧生の目的はただ一つ。とにかく勝利を貪り食らうこと。 そのためには勝負を選ばない。喧嘩だろうがじゃんけんだろうがメンコだろうがレスバだろうが、全力で臨むのみ。 そして、比類なき才を認められた者だけが住まう《天上宮殿》では、かつて霧生を打ち負かした孤高の天才美少女、ユクシア・ブランシュエットが待っていた。 規格外の才能を持って生まれたばかりに、誰にも挑まれないことを憂いとする彼女は、何度負かしても挑んでくる霧生のことが大好きで……!? 霧生が魅せる勝負の數々が、周りの者の"勝ち観"を鮮烈に変えていく。 ※カクヨム様にも投稿しています!
8 149【書籍化】斷頭臺に消えた伝説の悪女、二度目の人生ではガリ勉地味眼鏡になって平穏を望む【コミカライズ】
☆8/2書籍が発売されました。8/4コミカライズ連載開始。詳細は活動報告にて☆ 王妃レティシアは斷頭臺にて処刑された。 戀人に夢中の夫を振り向かせるために様々な悪事を働いて、結果として國民に最低の悪女だと謗られる存在になったから。 夫には疎まれて、國民には恨まれて、みんな私のことなんて大嫌いなのね。 ああ、なんて愚かなことをしたのかしら。お父様お母様、ごめんなさい。 しかし死んだと思ったはずが何故か時を遡り、二度目の人生が始まった。 「今度の人生では戀なんてしない。ガリ勉地味眼鏡になって平穏に生きていく!」 一度目の時は遊び呆けていた學園生活も今生では勉強に費やすことに。一學年上に元夫のアグスティン王太子がいるけどもう全く気にしない。 そんなある日のこと、レティシアはとある男子生徒との出會いを果たす。 彼の名はカミロ・セルバンテス。のちに竜騎士となる予定の學園のスーパースターだ。 前世では仲が良かったけれど、今度の人生では底辺女と人気者。當然関わりなんてあるはずがない。 それなのに色々あって彼に魔法を教わることになったのだが、練習の最中に眼鏡がずれて素顔を見られてしまう。 そして何故か始まる怒濤の溺愛!囲い込み! え?私の素顔を見て一度目の人生の記憶を取り戻した? 「ずっと好きだった」って……本気なの⁉︎
8 136継続は魔力なり《無能魔法が便利魔法に》
☆TOブックス様にて書籍版が発売されてます☆ ☆ニコニコ靜畫にて漫畫版が公開されています☆ ☆四巻12/10発売☆ 「この世界には魔法がある。しかし、魔法を使うためには何かしらの適性魔法と魔法が使えるだけの魔力が必要だ」 これを俺は、転生して數ヶ月で知った。しかし、まだ赤ん坊の俺は適性魔法を知ることは出來ない.... 「なら、知ることが出來るまで魔力を鍛えればいいじゃん」 それから毎日、魔力を黙々と鍛え続けた。そして時が経ち、適性魔法が『創造魔法』である事を知る。俺は、創造魔法と知ると「これは當たりだ」と思い、喜んだ。しかし、周りの大人は創造魔法と知ると喜ぶどころか悲しんでいた...「創造魔法は珍しいが、簡単な物も作ることの出來ない無能魔法なんだよ」これが、悲しむ理由だった。その後、実際に創造魔法を使ってみるが、本當に何も造ることは出來なかった。「これは無能魔法と言われても仕方ないか...」しかし、俺はある創造魔法の秘密を見つけた。そして、今まで鍛えてきた魔力のおかげで無能魔法が便利魔法に変わっていく.... ※小説家になろうで投稿してから修正が終わった話を載せています。
8 88ステータス、SSSじゃなきゃダメですか?
最強にして至高。冷酷にして無比。従順にして高潔。人間の間でそう伝わるのは、天魔將軍が一人《瞬刻のヴィルヘルム》。これまでにステータスオールSSSの勇者達を一瞬で敗北へと追い込み、魔王の領土に一切近付けさせなかった男である。 (……え? 俺その話全然聞いてないんだけど) ……しかしその実態は、ステータスオールE−というあり得ないほど低レベルな、平凡な一市民であった。 スキルと勘違い、あと少々の見栄によって気付けばとんでもないところまでのし上がっていたヴィルヘルム。人間なのに魔王軍に入れられた、哀れな彼の明日はどっちだ。 表紙は藤原都斗さんから頂きました! ありがとうございます!
8 157蛆神様
《蛆神様》はどんなお願いごとも葉えてくれる...........???--- 隣町には【蛆神様】が棲んでいる。 【蛆神様】はどんな願いごとも葉えてくれる神様で、町の人々は困った時に蛆神様にお願いごとをするそうだが……。
8 51サウスベリィの下で
罪深いほどに赤く染まった果実の下、人生に背を向けて破滅へと向かう青年小説家と彼の最愛の”姉”は再會する。古び、色褪せた裏庭にて語られる過去の忌々しい事件と、その赤色の記憶。封じられた蔵書の內奧より拾い上げた、心地よく秘密めいた悪夢幻想の手記。
8 62