《【書籍化】盡くしたがりなうちの嫁についてデレてもいいか?》二人の夜⑥
私は大丈夫。
りこにそう言われて、俺の頭は真っ白になった。
「なんで……。……だって、俺たち結婚してはいるけど、付き合ってるわけじゃないのに……」
「……うん。……彼じゃなくても……いいの……」
そんなふうに言われて、喜べるわけなかった。
々あって熱くなっていたと頭が、急速に冷えていく。
だってりこは、全然よくないって顔で、無理して笑ってるんだ。
一人だけ浮ついた気持ちでいられるわけがない。
ただ、俺にはりこの気持ちが理解できなかった。
付き合ってなくてもいいから、したいってこと?
いや、りこの表を見てみろ。
絶対にへの好奇心で言ってるわけじゃない。
それじゃあ、俺をムラムラさせたお詫びに、相手をしなくちゃって思ったのか……?
いやいや、ありえない。
いくら盡くしたがりなりこだって、そんなことは考えないだろう。
そもそも他に好きな男がいるのに、別の奴とそういうことをしてもいいって思える理由はなんだ。
……………………まさか、りこの好きな相手は俺とか……。
一瞬、そんな調子に乗った発想が脳裏を過ったが、慌てて首を振る。
りこが前に言っていた好きな相手の人像と、俺は真逆だったじゃないか。
どの面下げて、りこの好きなイケメンが自分だと思えるのか。
自意識過剰すぎて、自分で自分に引いた。
『そうやってすぐ自分が好かれてるって勘違いする男って、だいぶキツイから』
トラウマになっているあの言葉が俺を嘲笑う。
……俺、過去の失敗から何も學んでないんだな。
でも、じゃあどうしてりこは、好きでもない俺としてもいいなんて思えたんだ……。
まさかやっぱり盡くしたがりの度が超えた結果だったり……?
確信は持てないけれど、それだけはやめたほうがいいって伝えておいたほうがよさそうだ。
「りこ、相手が求めるならしてもいいなんて思ったらだめだよ。りこはんでないんだから、絶対よくないと思う」
「あ……! ち、違うよ……!? 私もんでるもん……!」
「え」
「あっ……」
慌てたようにりこが自分の口を両手で押さえる。
でも零れ落ちた言葉は戻ってくれない。
んでたって……俺とすることを……?
となると今度は、好奇心からしたかったエッチなりこという選択肢が復活する。
でも、あの時の表はすごく寂しそうだったし……。
はっきり言って、もはやキャパオーバーだ。
頭から湯気が出そうだし。
もういい。
ストレートに聞いてしまおう。
「好きな人がいるのに、俺としたいって思ったってこと?」
「……うあ、う……」
「それってなんで?」
「そ、そそれは……」
「そういうことに興味があるから?」
「……! そ、そう……! そうなの!!」
……!?
それまで追い詰められた小みたいな顔をしていたりこが、なぜか突然、助っ人を見つけたみたいな表を浮かべた。
でもとにかく俺は知りたい答えを手にれられた。
りこは意外とエッチなの子で、そういうことをしたいという好奇心を持っていたのだ。
けないことにまたが熱くなってくる。
俺ってなんて単純なんだろう。
でも、喜んでそれに飛びつくわけにはいかない。
自分を落ち著かせるために深呼吸をしてから、俺はりこの前に正座した。
りこも同じように座り直して、真顔になった。
「それでもやっぱり、そういうのは思いが通じ合ってる相手としないと後悔するよ」
「でも振られちゃってるから……」
「そんなに好きなら、もう一度告白できないの?」
本當はそんなこと死んでもしてしくないのに、りこのためを思うとそう言うしかなかった。
俺がどうなりたいかじゃなくて、最優先はりこだから。
でもりこは俺の言葉に力なく首を振った。
「もう気持ちを伝えることはできないの」
「どうして?」
「だって……前にそういうことを言ったら、私の前からいなくなっちゃったから……。あんなふうに失うのはもう嫌……」
「……」
今にも泣きそうな顔をしているりこを見て、どうしようもないぐらいの悔しさがこみ上げてきた。
りこ、なんでそんなやつ好きなんだよ……。
俺だったら、絶対りこにこんな顔をさせないのに。
多分、今、りこの心の隙間を利用すれば彼にれることはできるのだろう。
世の中の男は、こういう狀況を據え膳というのかもしれない。
でも、俺はこんな狀況でりこに手を出すなんて絶対にしたくなかった。
だって俺はりこが好きだから。
好きなの子を、自分のを満たすためだけになんて利用できない。
そりゃあ死ぬほどりこにれてみたいけれど。
俺がしたいのはを満たすことじゃなくて、を伝えあう行為だから。
どこかの誰かに心を覗かれた、非モテの貞が何を偉そうにって笑われそうだな……。
この先ずっとの子との縁なんてなくて、四十ぐらいになったとき「余計な事考えず、あそこで手を出しておけばよかった」って見苦しい後悔をすることになる可能もある。
でも十八歳の今の俺は、こういう純な気持ちでりこを想ってしまっているのだから仕方ない。
幸いりこは、やけくそなら俺にれられても大丈夫らしい。
図々しいのは百も承知だけど、その程度にはりこの中で俺はありだってことだ。
可能はゼロではないんだ。
だったら俺は――。
なんとか努力して、りこを惚れさせたい……!
今までは好きな人がいるのなら仕方ないって思っていたけれど、多分りこの好きな相手はろくでもないやつだ。
そんな男にをさせておくわけにはいかない。
だってりこには幸せになってもらいたいから。
俺がそうできるかはわからないけれど、そのろくでなしよりは絶対にマシなはずだ……!
『なんの拠があって自分が好かれてるとか都合よく思い込めるのかなあ。笑える』
あの子が頭の中で俺を嘲笑う。
でもそうじゃない。
好かれてるなんて微塵も思ってない。
好かれる自信だってまったくない。
それでも好きだから、行を起こしたいんだ。
の程知らずだって笑われても別にいい。
こんなふうに思えるような俺になれたのは、りこにができたからだ。
正直、今も心臓の辺りが苦しくて仕方ないけれど、それでもりこを好きになれてよかったって心から思っている。
「りこ、ごめん。やっぱり俺にはできない」
「……それは、私に魅力がないから……?」
「ち、違う……! りこはすごく魅力的なの子だよ! 正直、俺はりこにめちゃくちゃれたい。でも、今はまだできない」
「今は……?」
うっ。
そこ食いつくのか。
でも、誤魔化したってしょうがない。
俺はりこに頷き返した。
「それじゃあ、いつか私にってくれるの?」
「……っ」
り、りこぉおお……。
しょうがないから、目をぎゅっと瞑って、ぶんぶんっと頭を縦に振った。
もうこれ何の修行かな……。
「……じゃあ、予約」
「え?」
瞑っていた目を開けようとした直後――。
俺のに、らかい溫もりがむにゅっとれてきた。
な……っ………………いま……なにがおきた……………………?
息を止めたまま目を開くと、真っ赤な顔をしたりこと目が合った。
りこは恥ずかしそうに自分のを指先でりながら言った。
「フライングで奪っちゃった……」
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