その日の放課後。

部活へ行く生徒や、どこかで遊んでいく相談をしている生徒たちの合間をうようにして、俺はりこの席へ向かっていった。

のんびりと帰り支度をしていたりこが、自分の上にかかった影に気づいて顔を上げる。

「り、りこ！　よかったらそのっ、一緒に帰らない！？」

張しまくっているのがバレバレの早口でそうぶと、りこが反応するより先に周囲がザワッと聲を上げた。

あれ！？

俺、そんな聲張ったか！？

ちゃんとカップルだとアピールするためにったところはあるものの、注目されるのはやはり恥ずかしい。

やってしまったと後悔していると、制服の裾をクンっと引かれた。

あっと思って振り返れば、りこが照れくさそうな上目遣いで俺を見上げていた。

「湊人くんからってくれるなんて、夢じゃないよね……？」

「……っ」

なんでそんな可いこと言うんだよ。

顔がける。

そう思って慌てて口元を抑えると、煩いをしているようなため息があちこちから聞こえてきた。

ぎょっとして周囲を見回すと、男子たちがうっとりとした顔でりこを眺めている。

な、なに人の彼（噓だけど）でときめいているんだ……！

どうやら俺はりこのこととなると、人格が変わってしまうらしい。

獨占なんか、今までは無縁の存在だったのにな。

でも、やっぱりどうしてもこの狀況は面白くないのだ。

彼なのが偽りでも、りこはれっきとした俺の嫁だ。（契約結婚だけど）

なんてめちゃくちゃ心の狹いことを考えた俺は、りこの前にサッと移して、不埒なやつらの視線からりこを隠してしまった。

あっという間にブーイングが上がったが知ったことか。

自分に余裕があったらこんなを抱かなかったのかもしれないけれど、俺には微塵もそんなものはない。

「りこ、行こう！」

りこをちょっと急かして、教室の口に向かう。

「あ、待って……！」

ぱたぱたと後を追いかけてきたりこは、俺に置いていかれないようにと思ったのか、腕にしがみついてきた。

「えへっ。人同士で帰るんだから、これぐらいいいよね……？」

ちょっと舌を出して、いたずらっこのように言う。

また教室中からもだえる聲が聞こえてきたので、俺はりこを引き連れて、逃げるように教室を後にしたのだった。

◇◇◇

昇降口で靴を履き替えるために、りこは離れて行ってしまったけれど、そのあとすぐにまた俺のそばに戻ってきた。

教室と違って、今は周囲に人目がない。

だから腕を組んだりする必要もなくなっていた。

「湊人くん、かっこよかった……」

「……！？　な、何言って……？」

「ちょっと強引に私を連れだしたの、ドキッとしちゃった。えへへ」

不意打ちの弾を食らい、しどろもどろしてしまう。

「そ、そそそそれより、りこ、さっきありがとう」

「え？」

「ほら、腕組んできてくれただろう？　人同士のアピールをしたほうがいいってりこも思ってくれたんだよね」

「人同士のあぴーる？」

りこが不思議そうに首を傾げたので、あれっと思いつつ、澤と話したことを説明してみた。

「あ、そ、そっか。だから一緒に帰ろうってってくれたんだ……」

「あれ？　りこ？」

なんだか元気がなくなってしまったような……。

「ううん！　大丈夫！　私しずつ湊人くんの天然攻撃に対応できるようになってきたから！」

天然攻撃ってなんだ？

「落ち込むより、付け込んじゃうんだから！　というわけで――えいっ」

「わぁ！？」

もうくっつく必要はないと伝えたのに。

なぜかりこは俺の腕を取って、指の間が絡むように手を繋いできた。

これって、いわゆる人繋ぎじゃないか！？

「今日はこのまま人っぽく帰ろ？」

「もう誰も見てないのに？」

いいのかなと思って尋ねると、りこは俺の耳元にを寄せて囁きかけてきた。

「だって、どこで誰が見てるかわからないでしょ……？　だからいつもちゃんと人のふりしないとね」

「な、なるほど……」

もはや理由なんてどうでもいい。

りこと手を繋いで帰れるのなら。

そう思ったことは心のうちにとどめて、りこから繋いでくれた手にぎゅっと力を込めた。

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