《【書籍化】誤解された『代わりの魔』は、國王から最初のと最後のを捧げられる》15 虹のかかる理由 4
「虹の神祭」とはその名の通り、「虹の神」に謝するお祭りだ。
國中のあらゆる町や村で數日にわたって開催され、誰もが神に日頃からの謝を捧げる。
また、その祭りの初日には、國王が國民を代表して「始まりの地」にて祭祀を執り行うこととなっていた。
「スターリング王國創世記」に綴られている、『神が空の端から端まで大きな虹をかけた』という「始まりの地」は、正しくその場所が伝えられており、現在もかな大地が広がっている。
つまり、王都から馬車で3時間ほど走らせたところにある、王都とレストレア山脈との中間地點が「始まりの地」であり、王國でも有數の農業地帯となっていたのだ。
その場所は國の水源である大きな2本の川が最も近付く場所でもあるため、見渡す限りの大地に青々とした作が生い茂っていた。
「ルピア、こちらに」
フェリクス様は私に向かって手をばすと、しっかりとを支えてくれた。
「この辺りは足元が悪いから、私につかまっているのだよ」
どうやら灑落たブーツを履いてきた私の足元を心配してくれたようだ。
バドはポケットから抜け出すと、私の肩に移して、ひくひくと鼻をうごめかしていた。
―――これまで、私の「虹をかける魔法」には欠點があった。
それは、虹をかける場所と時間が最適と言えなかったことだ。
原因の一つは、これまでスターリング王國を訪問したことがなかったため、地理的な位置関係を把握できていなかったことだ。
なぜなら自分でも把握できていない場所を、虹をかける場所として指定することは非常に困難だからだ。
そのため、イベントが行われる場所がどこであろうとも、スターリング王國王宮を唯一の定點として、必ず王宮に虹をかけることにしていた。
また、もう一つの原因は、私が夢の形でフェリクス様の言を見るのは過去の事象のみのため、「これから行われるイベント」の詳細をリアルタイムで把握することができなかったことだ。
そのため、イベントについての事前報だけをもとにして、虹をかけていた。
つまり、たとえ天候が悪くて翌日にイベントが延期されたとしても、出席者の到著が遅れて開始時刻がズレたとしても、遠く離れたディアブロ王國から把握することができなかったため、元々の予定日時に虹をかけていたのだ。
けれど、今日の私は現地にいて、フェリクス様の隣に立っている。
場所と時間を間違うことなく、虹をかけることができるはずだ。
そう考えた私は、最適なタイミングを見計らうことにした。
―――集まった貴族たち、國民たちが數多く見守る中、祭祀は時間通りに開始された。
まずは、この地を通っている2つの川から汲まれた水を、大地に捧げることから始まる。
その役割は「神のし子」が執り行うとの説明をけていたけれど、綺麗な虹のグラスを手に持って現れたのは、私と同じくらいの年齢のご令嬢だった。
彼の髪は橙をベースに赤と黃のメッシュがったもので、フェリクス様以外に3の虹髪を初めて目にした私は、そのしさに目を見張った。
「まあ、フェリクス様もそうだけど、虹の髪はしいものね」
思わず呟くと、隣にいたフェリクス様が私の耳元に口を近づけて囁いてきた。
「私を褒めてくれてありがとう。けれど、私はルピアの白い髪をしいと思うよ」
「……っ」
そうだった。フェリクス様は甘い言葉を囁くタイプだったのだわ。
私は赤らんだ頬を隠すように俯くと、自分のを守るために、これ以上何事も呟かないことを心に決めた。
祭祀は粛々と進められ、しばらくすると、フェリクス様が場の中央に進み出て片手を上げた。
「スターリング王國の民を代表して、フェリクス・スターリングが『虹の神』に、いついかなる時も変わらぬ敬をお捧げいたします。
この國の大地がかで緑に覆われていることに、恒久なる謝をいたします。
そして、願わくは、この先も変わらぬご慈を、従順なるあなた様の民にお與えくださいますよう」
フェリクス様は朗々とした聲を発すると、定められた作法通りに、聖なる穀の種を大地に蒔いた。
それから、片手を差し出してきて、私の手を取った。
新たに王妃となった私を、この地の神に紹介する手順だ。
私は左手をフェリクス様の手に預けると、今が最適のタイミングだわと考え、もう片方の手を天に向かって上げた。
それから、まっすぐに空を見上げると、魔の言葉で呟く。
「新たなる契約を実行するわ!
代わりの魔、ルピア・スターリングが贄となりましょう。
慈の7からなるしきよ、天の端から端まで流れ、天穹に橋を掛けなさい!」
それから、ばしていた手を下すと、フェリクス様へ顔を向ける。
「……ルピア?」
私の発した言葉を理解できず、訝し気な表をしている彼に安心させるような微笑みを向けた後、私は目の前に広がる大地に向かって禮を取った。
それから、スターリング王國の言葉で続ける。
「新たに王國王妃となりました、ルピア・スターリングです。
生涯変わらぬ敬を、『虹の神』にお捧げいたします。
この忠義心にご慈をいだだきますよう、心よりお願い申し上げます」
手順通りの言葉を口にした私を見て、フェリクス様が安心したように微笑んだ。
その瞬間、―――その場に集まっていた人々の口から怒號のような歓聲が響いた。
「に……っ、虹だ! 『始まりの地』に虹がかかったぞ!!」
「何としたことか! いつだって王宮にかかっていた虹が、この地にかかるとは!!」
「神が、新たなる王と王妃のご誕生を祝福していらっしゃるのだ!!」
空を指さしながら、あるいは手を叩き鳴らしながら興したび聲を上げる國民たちを、フェリクス様は驚いたように見回した後、皆と同じように空を見上げた。
そんな彼の視界いっぱいに、空の端から端まで掛かっている大きな虹が映り込む。
その瞬間、フェリクス様は何らかのを呑み込むかのようにこくりとを鳴らした。
それから、勢いよく私に顔を向けると、した様子で見つめてきた。
「ルピア、君は凄いな……。私は毎年、父とともにこの儀式に參加していたが、この地で虹を見たのは初めてだ。私が王となった年に吉兆が現れたことに対し、國民は大きな意味を見出すだろう。……ありがとう、虹を連れてきてくれて」
フェリクス様の表から、虹がかかったことは驚くべき偶然で、実際に私が虹をかけたとは思っていないけれど、それでも私の存在が幸運をもたらしたと考えていることが理解できた。
虹をかける魔法について、フェリクス様に一度も説明していないにもかかわらず、そう好意的に考えてくれたことを嬉しく思う。
そのため、私は真っすぐに彼の謝をけ取った。
「しでもお役に立てたのならよかったです」
そう言ってにっこりと笑った―――ところまでが限界だった。
魔法を行使した際の疲労が一気に襲ってきたため、私はくたりとその場に崩れ落ちる。
「ルピア!?」
フェリクス様の焦ったような聲が聞こえたけれど、返事をする間もなく、私はそのまま意識を失った。
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