《【書籍化】誤解された『代わりの魔』は、國王から最初のと最後のを捧げられる》16 虹のかかる理由 5
「……フェリクス様は、もう公務に出掛けられたのかしら?」
私はベッドに橫になったまま、テーブルの上に飾られた花を見つめると、ミレナに質問した。
―――「虹の神祭」で私が倒れた日から、5日が経過していた。
最初の3日間は高熱のためほとんど眠って過ごしたけれど、昨日からしずつ熱が下がり、上半を起こせるまでに回復していた。
そのため、しだけを起こそうとすると、すかさずミレナから注意される。
「ルピア様、目覚められたばかりですから、を起こすのはもうし後にされてください」
「……ええ」
この國で倒れたのは初めてだったため、皆に心配を掛けたようで、誰もが私を過保護に扱うようになってしまった。
特にミレナは「これほどの高熱が突然出るはずもありません。私が前兆を見逃していたのです」と申し訳ないほど気に病み、これ以上はないほど私の世話をしてくれた。
そのため、聲が出せるようになるとすぐ、私の調不良は魔法を使った代償で、ミレナが見逃していたものは何もないのだと説明した。
彼は一瞬戸ったような表を浮かべたけれど、すぐにしっかりと頷いた。
「大事なをお話しいただき、ありがとうございます」
……いつの頃からか、ミレナは私の言葉を無條件にけれてくれるようになった。
そして、彼がフェリクス様の姉弟として、どれほど彼を大事に思っているかを話してくれた。
恐らく、私の一番近くにいるミレナは、私がどれほど彼のことを思っているかをじ取っているのだろう。
だからこそ、彼が大事に思うフェリクス様を、私も大事に思っていることを理解して、けれてくれたのだと思う。
けれど、そんなミレナは言いにくそうに口を開いた。
「それが、國王陛下は昨夜、王宮に戻られていないとのことです」
「えっ!」
驚いて半を起こそうとすると、慌てて止められる。
「ルピア様、まだお熱がありますから、無理はなさらないでください! 陛下は昨日、レストレア山脈の周辺に視察に行かれております。あの地には、陛下が懇意にされている貴族家がありますので、恐らくそちらで話し込まれて遅くなれられ、宿泊されたのだと思います。陛下に大事がありましたら、知らせが屆くはずですから」
「そ、そうよね……」
ミレナの言う通りだ。何事かがあったのならば、早馬で知らせが來るはずだ。
そう自分に言い聞かせると、私は浮かせかけていた背中をベッドに戻した。
けれど、一度跳ね上がった心臓の鼓はなかなか戻らなかった。
なぜならフェリクス様がスケジュールを変更して外泊することは初めてだったため、何事かが起こったのかもしれないと、悪い想像が頭をよぎることを止められなかったからだ。
「お友達。……お友達と會ったならば、食事をして、お酒も飲んで、そうしたら眠くなるわよね。ええ、ただそれだけだわ」
私は自分に言い聞かせるように聲に出すと、もう一度花瓶の花を見つめた。
―――フェリクス様は元々優しい方だったけれど、私が倒れて以降、さらにその度合いが増したように思われた。
なぜなら凄く忙しいにもかかわらず、毎日時間を見つけては、私の側にいてくれたからだ。
さすがに申し訳なく思い、暫く黙っていようと思っていたを話そうとして―――魔法で虹をかけた代償で調不良に陥ったのだから、自業自得なのよと説明しようとして―――すんでのところで思いとどまった。
これほど心配してくれるフェリクスの様子から類推するに、もしも告白したら、今後は虹をかけることを止められるように思われたからだ。
そのため、私はやましさに顔を赤らめながらも告白した。
「詳しくは説明できませんが、私が無茶をしたのです」
「……では、今後は無茶を止めてほしい」
フェリクス様の答えは想像通りだったため、告白しないでよかったわと、私はをで下ろした。
また、フェリクス様はベッドに臥せたままの私のため、「一緒に朝食を取れない代わりに」と、毎朝、彼自が摘んだ花を屆けてくれた。
薔薇、ダリア、クレマチス、と次々に新たな花が増えていくのを幸せな気持ちで眺めていたけれど、先ほど見つめた花瓶の花は、昨日のものから増えていなかった。
そのため、今朝は花を摘む時間がないほどお忙しいのかしらとミレナに尋ねたところ、昨夜はお帰りでないとの回答が返ってきたのだ。
「大丈夫、フェリクス様は大丈夫」
そう何度も繰り返したけれど、時間の経過とともに心配な気持ちが大きくなってくる。
そして、お晝近くの時間になり、居ても立っても居られなくなった頃、ノックの音ともにフェリクス様が室してきた。
「フェリクス様!」
私は普段より大きな聲を上げると、勢いよくベッドから半を起こす。
そんな私を見て、フェリクス様は目を丸くすると、足早に近付いてきた。
「ルピア、そんなに勢いよくを起こしてはいけない。まだ熱があるのだから、橫になっていなさい」
困ったようにそう言いながら、私をゆっくりとベッドに橫たえる。
そんな彼を、私はじっと見つめた。
「……どうした? そんなに見つめて、私の顔に何か付いているか?」
不思議そうに質問されたものの、が詰まったようになって返事ができない。
すると、代わりにミレナが答えてくれた。
「陛下が予定を変更され、たった今まで王宮にお戻りにならなかったため、ルピア様は心配されていたのです」
「えっ、それは悪かったね。思い立って突発的に外泊したが、君へ言付けをすべきだったな。……予定より遅くなってしまったけれど、ただいま、ルピア」
「おかえりなさいませ、フェリクス様。ご無事で何よりだわ」
私は嬉しくなって、にこりと笑った。
彼の無事な姿を見た途端、その他のことはどうでもよくなってしまうなんて、我ながら現金だわと思いながら。
「お忙しいところ、顔を出していただいてありがとうございます。でも、公務があるでしょうから、これ以上は引き止めないわ。時間がある時にでも、お友達の話を聞かせてね」
「友達?」
「ええ、昨夜はご友人宅に泊られたのでしょう? 予定外に宿泊されるほどだから、楽しかったのだろうし、お話を聞かせてもらえたらと思ったのだけど……」
口にしてみると、彼の友人関係に口を出しているようにも思われ、図々しかったのではないかと心配になって語尾が途切れる。
けれど、フェリクス様は気にした様子もなく、ああ、と納得したように頷いた。
「確かに子爵邸に宿泊したが、親を深めるためというよりも、地理的に都合がよかっただけだ。あの館はレストレア山脈の麓にあるからね」
「え?」
どういう意味かしらと小首を傾げると、背中に隠されていた方の手を差し出された。
「ルピア、今日の朝摘みの花だ」
フェリクス様の手には、繊細なしさを持つ紫の花が握られていた。
「フェ、フェリクス様、この花は……」
「我が國の國花であるシーアだ。まだ一度も君に見せたことがなかったと思ってね」
「……でも、その花はレストレア山脈の積雪部分にしか咲かないと聞いていたけれど」
目を丸くして尋ねると、フェリクス様は悪戯が見つかった子どものようににやりと笑った。
「私の妃は博識だね。その通り、だからこそ昨夜は山の麓にある子爵邸に泊ったのさ。視察でレストレア山脈の近くまで行ったところ、君にまだ國花を見せていないことを思い出してね。そのため、いい機會だと、今朝は日の出とともに出発して、その花を採取してきたのさ」
……まあ、國王ともあろう方が何て無茶するのだろうと、あんぐりと口を開ける。
そんな衝的なことを軽々しくする立場ではないはずなのに。
私が驚いていることも、その理由も分かっているだろうに、彼は素知らぬ顔で説明を続けた。
「シーアは繊細な花でね。ストレア山脈から採取すると、1日ももたずに萎れてしまう。だから、しでも早く君に見せたくてね」
それから、彼は私の顔とシーアの花を互に見つめる。
「……ああ、ルピアの瞳は本當にシーアと同じをしている。この國で最も高貴なだな」
そう言うと、フェリクス様は爽やかに微笑んだ。
それから、わざとらしい真顔になる。
「ではね、ルピア。君の夫は、君に呆れられないように仕事に行ってくるよ。実際のところ、今日の予定は書類仕事だけだから、しくらい開始時刻が遅れても問題はない。ただ、その分遅くなるだろうから、先に寢ているように」
そう言うと、彼はつむじ風のように出て行った。
殘された私は、呆然として彼が出て行った扉を見つめる。
「すごいわ。……一瞬にして私を幸福にするなんて、フェリクス様の方が魔法使いじゃないかしら?」
―――その日、私は一日中、溫かい気持ちでシーアの花を眺めていた。
【書籍化・コミカライズ】誰にも愛されなかった醜穢令嬢が幸せになるまで〜嫁ぎ先は暴虐公爵と聞いていたのですが、実は優しく誠実なお方で気がつくと溺愛されていました〜【二章完】
『醜穢令嬢』『傍若無人の人でなし』『ハグル家の疫病神』『骨』──それらは、伯爵家の娘であるアメリアへの蔑稱だ。 その名の通り、アメリアの容姿は目を覆うものがあった。 骨まで見えそうなほど痩せ細った體軀に、不健康な肌色、ドレスは薄汚れている。 義母と腹違いの妹に虐げられ、食事もロクに與えられず、離れに隔離され続けたためだ。 陞爵を目指すハグル家にとって、侍女との不貞によって生まれたアメリアはお荷物でしかなかった。 誰からも愛されず必要とされず、あとは朽ち果てるだけの日々。 今日も一日一回の貧相な食事の足しになればと、庭園の雑草を採取していたある日、アメリアに婚約の話が舞い込む。 お相手は、社交會で『暴虐公爵』と悪名高いローガン公爵。 「この結婚に愛はない」と、當初はドライに接してくるローガンだったが……。 「なんだそのボロボロのドレスは。この金で新しいドレスを買え」「なぜ一食しか食べようとしない。しっかりと三食摂れ」 蓋を開けてみれば、ローガンはちょっぴり口は悪いものの根は優しく誠実な貴公子だった。 幸薄くも健気で前向きなアメリアを、ローガンは無自覚に溺愛していく。 そんな中ローガンは、絶望的な人生の中で培ったアメリアの”ある能力”にも気づき……。 「ハグル家はこんな逸材を押し込めていたのか……國家レベルの損失だ……」「あの……旦那様?」 一方アメリアがいなくなった実家では、ひたひたと崩壊の足音が近づいていて──。 これは、愛されなかった令嬢がちょっぴり言葉はきついけれど優しい公爵に不器用ながらも溺愛され、無自覚に持っていた能力を認められ、幸せになっていく話。 ※書籍化・コミカライズ決定致しました。皆様本當にありがとうございます。 ※ほっこり度&糖分度高めですが、ざまぁ要素もあります。 ※カクヨム、アルファポリス、ノベルアップにも掲載中。 6/3 第一章完結しました。 6/3-6/4日間総合1位 6/3- 6/12 週間総合1位 6/20-7/8 月間総合1位
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