《【書籍化】誤解された『代わりの魔』は、國王から最初のと最後のを捧げられる》22 夫とデート 2
「いい演奏だった」
フェリクス様が楽団のメンバーに稱賛の言葉を贈ると、彼らは大袈裟なくらいに深く頭を下げた後、恐した様子で部屋から出ていった。
殘されたフェリクス様と私のもとに、すかさず新しい紅茶とお菓子が差し出される。
そういえばが渇いていたのだわと気付き、やっと離してもらえた手でカップを摑むと一気に飲み干した。
それから、何か話題を作らないと、と考えてお皿に並べられていたクッキーを口に運ぶ。
「フェリクス様、このクッキーはとっても味しいわ。さすが王宮のクッキーね」
努めて朗らかな口調で想を述べると、フェリクス様は頷いた。
「ああ、君が卵全でなく卵黃部分のみを使用するといいとアドバイスをしてから、王宮のクッキーは各段に味しくなったな」
まあ、どうしてそんな細かい話を知っているのかしら。
「そ、それはディアブロ王國の作り方を示しただけだわ」
まさか知られているとは思わなかったので、……だとしたら、頻繁に彼に差しれていた木の実りクッキーが、私の手作りだということまでバレているのかしらと心配になり、あわあわと答えると、フェリクス様は小さく微笑んだ。
「ルピア、全てを種明かしする必要はないから、ここは私に褒められて微笑んでいる場面だよ。そもそも王であった君が、クッキーの材料を知っていること自、稱賛に値することなのだから」
「い、いえ、それはさすがに」
否定しようとすると、フェリクス様から片手を上げて遮られる。
「なくとも、私にとっては驚くべきことだったよ。普段は無口な料理長が、わざわざ君からクッキーの斬新な調理法を教わったと伝えに來るなんてね。……彼はそんなタイプでなかったのに、何としても君の手柄なのだと伝えたかったのだろう。たった數か月で料理長を変えてしまうなんて、本當に魔法のようだな」
「…………」
料理長は無口でないし、そして、確かに私は魔だけれど、人格を変える魔法は使えないわと考えていると、フェリクス様は小さく微笑んだ。
それから、申し訳なさそうな表を浮かべる。
「ルピア、私は一つ告白……というか、懺悔をしてもいいかな?」
「懺悔、ですか?」
フェリクス様は何か悪いことをしたのだろうかと、驚きながらもうなずく。
すると、彼は言葉を選ぶかのように口を開いた。
「実は君に會うまで、私は『ご令嬢』についての固定的なイメージを抱いていて、程度の差こそあれ、皆そのイメージに當てはまるものだと考えていた。つまり、ご令嬢というものは、侍の手作りだろうが、従僕の作品だろうが、全て自分が作ったのだと口にしてはばからず、『あなたのために』と好意を押し付けてくるものだと。さらには、微笑むことで上手に父親や夫をり、自分の思い通りに事をかすものだとね」
「まあ」
微笑むだけで、フェリクス様をることができるのですって?
それこそ、どこの魔の話かしら。
びっくりして目を見開いていると、フェリクス様は苦笑した。
「ああ、今となっては馬鹿げた思い込みだと思う。一つ言い訳をさせてもらうと、これまで私が目にしてきたご令嬢方は、皆そのようなタイプばかりだったのだ。……私は自らに近寄っていかないので、私に近寄ってくるご令嬢方が、そのようなタイプだっただけかもしれないがね。だが、私は君に會って意見を変えた。私が知らなかっただけで、君のように深く、與えてくれるもいるのだと理解したのだ」
「えっ」
何だか素敵な言葉をフェリクス様から言われた気がする。
なのに、ドキドキし過ぎて、言葉の意味を上手く理解できない。
真っ赤になって元を押さえていると、フェリクス様が話を続けた。
「始まりは政略結婚だったけれど、今ではこの出會いに謝している。私にとって君以上の妃はいない。だからこそ、これまで偏見を持って君に接していたことを、大いに反省している。ルピア、本當に申し訳なかった」
そう言うと、フェリクス様は深く頭を下げた。
「えっ! い、いえ、私がどのような相手かよく分かっていなかったのだから、當然のことだわ」
い頃からフェリクス様をずっと見てきた私と、結婚式で初めて私と顔を合わせた彼とでは、結婚相手に対する報量が全く異なる。
私がどのような人なのか分からない以上、構えるのは仕方がないことだろう。
「だが、君は初めから私をけれてくれたじゃないか。君と比べると、自分の態度は何て酷いものだったのだろうと、自分が恥ずかしくなるよ」
しょんぼりと肩を落としてうなだれている彼の姿を見ると、申し訳ない気持ちが沸き起こる。
「い、いえ、それは………………、じ、実は、私はい頃からフェリクス様のことを、ちょっと、し、毎日くらい、覗き見ていたのです。だから、よく知っているのです。ごめんなさい。すみません」
反省しているフェリクス様の姿を見て、彼を騙しているような気持ちになり、黙っていようと決めていた行為を告白してしまう。
張し過ぎて止されていた敬語になったけれど、彼はそのことにれることなく、不思議そうに尋ねてきた。
「嫁ぎ先候補である私の人となりを調べるため、間諜を忍び込ませていたということ?」
「ええっ!? い、いえ、もちろん違います! そうではなくて、魔として、お相手の夢を毎晩見ていたのです」
必死になって答えると、フェリクス様は一瞬ぽかんとした後、おかしそうにくすくすと笑い出した。
「これはまた、……思ってもみないほど可らしい話に切り替わってしまったな。君の夢に出てきた私が、お行儀が良くしていたのならばいいのだけど」
それから、彼は笑いを収めると、甘さを含んだ視線で見つめてきた。
「ルピアは優しいね。君への態度が悪かったと謝罪したため、気にしないようにと気遣ってくれるのだね」
その言葉から、どうやら私の言葉は冗談だと思われていることに気付いた私は、真剣な表で訴える。
「フェリクス様、私があなたに噓を言うことはありません。絶対に、何があろうともです。ですから、あなたをずっと夢で見てきた話は本當です。それも魔の能力の一つなのです」
「……うん、噓がない関係というのはいいね。私も君には絶対に噓をつかないことを約束しよう」
フェリクス様は私の手を握ると、額がくっつくほど顔を近付けてきた。
「次の機會には、い頃の私は一の髪だった話をしよう。君の同を引ける話だと思うので、しは私を憐れんで、これまでの態度を大目に見てもらえるかもしれないからね」
彼は軽い調子でさらりと口にしたけれど、―――それは、彼の生き方を変えた、重要で重い話のはずだ。
そんな大事な話を、私と共有してもいいとフェリクス様が思ってくれたことに目頭が熱くなる。
「フェ、フェリクス様……」
「おや、『同を引ける話』と聞いただけで、涙目になるのかい? 君は私が思っているより何倍も、が強いのだね。うん、だが、話は次回だよ。私の態度が悪かったのは事実だから、しばらくは君から冷遇されるべきだと思うからね」
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