《【書籍化】誤解された『代わりの魔』は、國王から最初のと最後のを捧げられる》26 王妃の帰還 1

その後、私はディアブロ王國に一週間滯在した後、スターリング王國へ向けて出発した。

本當は、すぐにでもフェリクス様のもとへ向かいたかったのだけれど、目覚めたばかりでがふらふらしていたため、家族も侍醫も許可してくれなかったのだ。

そして、やっと今日、『一時間ごとに休憩を取るならば』という條件付きのもと、馬車へ乗る許可が下りた。

「ある日突然いなくなり、2年間も不在にしておきながら、たった一週間しか滯在しないなんて!」

と父は涙目だったけれど、珍しく兄が父を説得していた。

「戦略的譲歩です、父上! ここは一旦嫁ぎ先に帰しておいて、ルピアには改めて我が國を訪問してもらい、一年ほど滯在してもらいましょう」

違った。私が母國に長期滯在する計畫を立てられているのだった。

勝手なことを言って、とは思ったものの、一方では、ゆえの言葉に思われて嬉しくなる。

私は「また來ますよ」と告げると、ディアブロ王國王家の紋が付いた馬車に乗り込み、一路スターリング王國を目指したのだった。

ありがたいことに、私が眠り続けていた間、バドは定期的に母國の家族と連絡を取り合ってくれていた。

そのため、家族の皆は私が無事であることを理解していたけれど、それでも心配な毎日を過ごしていたと口々に訴えられた。

一方、スターリング王國へは、ディアブロ王家の名前で私が無事である旨を、書簡にしたためて定期的に報告していたとのことだった。

私が眠り続けている間も、誰もが様々に手助けしてくれたことに謝を覚える。

そうして、晝は多くの休憩をれ、夜はその地の領主の館に泊り……と想像以上の日程を掛けて、私はスターリング王國へ戻ったのだった。

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スターリング王國の王宮に到著して初めに確認したのは、掲げられている旗の種類だった。

見上げた先で、國王旗がはたはたとはためいていたことから、既にフェリクス様が戦場から戻っていることを理解する。

一瞬、彼より先に王宮に到著できなかったわ、と殘念な気持ちを覚えたけれど、すぐに彼の無事を喜ぶ気持ちに切り替わる。

私が戻ってくることは、事前に連絡がっていたようで、馬車から降りると顔なじみの騎士や侍たちに出迎えられた。

「ミレナ!」

になって世話をしてくれ、別れの時には涙まで浮かべてくれた専屬侍を見つけ、嬉しくて名前を呼ぶ。

すると、ミレナは別れた時と同じように涙を浮かべて近寄ってきたけれど、すぐに驚いたように目を見開いた。

「ル、ルピア様、どうしてそんなに痩せられているのですか!?」

「えっ、あ、ええと」

そういえば、私の外見は2年前と比べて驚くほど変わっているのだった。

―――私が代わりで眠っている間、一切の食事を摂ることはない。

そのことで栄養不足になることはないけれど、人として不自然な生活のためか、はみるみる痩せていくのだ。

同じく魔であった母からそのことを知らされていた家族は、いざという時のためにと、私がい頃から、しでも多くのを付けさせたがった。

そんな風に彼らに餌付けされ続けた結果、この國に嫁いできた當初はそれなりにが付いた型をしていたのだけれど、今は驚くほど細くなっているので、ミレナは驚愕しているようだ。

けれど、彼はすぐに気を取り直すと、私を私室に案してくれた。

ミレナの説明によると、フェリクス様が戦場から戻られたのは、わずか數日前のことらしい。

そのため、王宮は未だ、戦後処理のために引っくり返ったような騒ぎとのことだった。

彼の邪魔をするわけにはいかないと、まずは私室に戻ることにしたのだけれど、部屋に著くとすぐに、ミレナは私を椅子に座らせた。

それから、涙目になって私の全に目を走らせる。

「ルピア様、お久しぶりでございます。よくぞスターリング王國へお戻りくださいましたわ。でも……驚くほど痩せてしまわれて」

「ええと、ミレナ。病気をしたとかではなくてね」

あまりに心配してくれる様子を見て、申し訳ない気持ちが沸き起こる。

けれど、全てを言い切る前に、ミレナは分かっているとばかりに大きく頷いた。

「ええ、分かっております。國王陛下の傷を治されたのですね」

「まあ、フェリクス様から聞いたのかしら?」

驚いて尋ねると、ミレナは首を橫に振った。

「いえ、陛下はお忙しく、戦場から戻られて以降、一度も話をする機會はありませんわ。けれど、陛下が敵兵の剣で大きな傷を負われ、その傷が跡形もなく消え去ったことは誰もが知る話です」

「まあ、そうなのね」

私が眠り続けていた間の出來事は、ほとんど把握していなかったため、素直に驚きの聲を上げる。

すると、ミレナは真剣な表でうなずいた。

「殘念ながら、ルピア様の貴重な能力を広めるわけにはいかないため、表向きは神の加護という話になっておりますが、その話を聞いた時、私にはすぐにルピア様のお力だと分かったのです!」

ミレナは忠実な侍らしく、欠片も疑わないまっすぐな瞳で私を見つめてきた。

2年ぶりにスターリング王國に戻ってきた私にとって、無條件に私をれてくれる彼の存在は、非常に嬉しいものだった。

「ミレナ、ありがとう! 私が魔であることを信じてくれて、凄く嬉しいわ」

笑顔でお禮を言うと、全てを肯定するように大きくうなずかれる。

「ルピア様が誰よりも誠実で、心から國王陛下のことを思われていることを存じ上げておりますから」

それから、ミレナは見たこともないドレスを差し出してきた。

「長時間馬車に揺られて、さぞお疲れでしょう。ドレスを著替えられたら、しはすっきりするかもしれませんよ。……ああ、こちらは、ご婚前にしつらえていたドレスのうちの一著になります。嫁いでこられる前にサイズをうかがっておりましたが、何らかの理由でサイズが変わることもあるでしょうからと、幾つもサイズ違いのドレスを用意していたのです。その中でも、こちらは一番細いものですわ」

なるほど。確かに私のスタイルは驚くほど変わっているので、以前のドレスではぶかぶかになってしまうことだろう。

ミレナの有能さに服しながら、長時間の移でくたびれてしまったドレスを著替える。

すると、その作業の途中で、ミレナがびくりと全直させた。

それから、驚愕した様子で私の左肩を見つめてきたため、思い當たることがあった私は「ああ」とつぶやいた。

続いて、左肩からにかけて殘った傷痕を手でなぞる。

「そうね、傷痕が殘ってしまったわね。でも、これは私が悪いのよ。フェリクス様に會いたくて、時が満ちる前に目覚めてしまったのだから」

「ル、ルピア様……」

「ふふ、ミレナが選んでくれたドレスは、肩が隠れるデザインだからちょうどいいわね。ミレナ、お手間でしょうけど、今後はこの傷痕が隠れるようなデザインのドレスを選んでちょうだいね」

あえて軽い調子で口にしたけれど、あまり効果はなかったようで、ミレナはぽろぽろと涙を零し始めた。

「あ、も、申し訳ありません。それほど恐ろしい傷……どれほどの激痛であったかと想像して、取りしてしまいました」

ミレナが慌てたようにハンカチで涙を押さえる姿を見て、初めてフェリクス様の傷を見た時の衝撃を思い出す。

「……そうね。私も初めてフェリクス様の傷を見た時は、が竦んだのだったわ」

それから、ミレナの涙を止める役に立てばいいのだけど、と思いながら言葉を続ける。

「フェリクス様は川に落ちた後、自力で川岸まで這い上がってこられたのよ。代わりになって痛かったけれど、これほどの痛みを抱えながらも必死になって生きたいと願われたならば、彼のみを葉えるのが魔の役目だとじたの」

だから、私は自分のみ通りに行しただけなのよ、と明るい調子で続けたけれど―――それからしばらくの間、ミレナの涙は止まらなかった。

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