《【書籍化】誤解された『代わりの魔』は、國王から最初のと最後のを捧げられる》33 誤解 6
しばらく扉の前で立ち盡くしていたけれど、そのままでいるわけにもいかない。
私は意を決して扉をくぐると、フェリクス様の正面にセットされた席へ向かって歩を進めた。
すると、私に気付いたフェリクス様が、朝の挨拶をしてくれる。
ただそれだけのことが、ものすごく嬉しい。
アナイスも席を立つと、臣下の禮を取った。
「王妃様、本日よりしばらく王宮に滯在することになりました。どうぞよろしくお願いしますね」
「……ええ」
短い返事をする私に、フェリクス様が滯在理由を説明してくれる。
「ルピア、事前に連絡をせずに、朝食の同席者を増やして申し訳ないね。つい今しがた、アナイスから王宮到著の挨拶をけたのだが、朝食がまだとのことだったため、一緒にどうかとったところだった。アナイスは『虹の乙』と呼ばれているから、しばらく君のために王宮に滯在させようと考え、そのように取り計らうよう昨日命じたのだが、予想外に早く到著してね。おかげで、君に説明する暇もなく、禮儀を欠いてしまったな」
「私のため、ですか?」
小さな聲で尋ねると、フェリクス様は頷いた。
「ああ、この國特有の考えだが、『虹の神』にされた者が近くにいることで、様々な祝福ができると、私たちは信じている。最近の君は調が優れないようだから、私やハーラルトに加えて、さらなる祝福をけられるようにと手配したのだ。とは言っても、神の恩恵は広範囲にわたって與えられるので、『神のし子』と同じ建の中にいればできる。君はこれまで通りの生活を送ればいいし、負擔はないはずだ」
「……ええ」
彼の説明を聞きながら、思わずフェリクス様の顔をまじまじと見つめてしまう。
けれど、自分の行の失禮さに気付くと、恥ずかしく思って視線を下げた。
フェリクス様は私に噓をつかないことを求めてきたけれど、それは彼自が決して噓をつかないことを信條にしているからだ。
そのことは十分分かっていたのに、ギルベルト宰相の言葉につられて、思わずフェリクス様の表を確認してしまうなんて。
宰相はアナイス嬢を側妃にと考えていて、フェリクス様と仲良く過ごせるかどうかを確認するため、王宮に滯在させると言っていた。
そのため、彼がこの場にいるということは、フェリクス様もそのことを了承したのかと一瞬考えてしまったのだ。
けれど、側妃についてれなかったということは、フェリクス様はその件を了承していないのだろう。
それとも、まだ私に話をする段階ではないと考えているだけだろうか。
「……お気遣いいただき、ありがとうございます」
いずれにせよ、フェリクス様が私のために「虹の乙」を呼んだことは、王宮での私の立場を良くするだろう。
「虹の神」を信仰するこの國の者たちにとって、私のために「神のし子」を呼び寄せてくれたことは、彼が私のことを気に掛けていることを示す、最も分かりやすい形なのだから。
そのことをありがたいと思いながらも、一方では、気分が沈んでいくのをじる。
宰相から側妃の話を聞いたことで、2人が仲睦まじく話している様子を見ると、々とあらぬことを想像してしまうからだ。
けれど、そんな私の心が分からないアナイスは、朗らかな笑い聲を上げると、食事の間中、フェリクス様にあれこれと楽しそうに話しかけていた。
アナイスの癖なのか、彼が提供する話題は、私の知らないフェリクス様と彼の昔話に終始する。
その度に、フェリクス様は辛抱強くアナイスを注意していたけれど、彼が同じことを繰り返すので、最後は困った様子でため息をついていた。
私はそんな2人に相槌を打つこともできず、黙って話を聞いていた。
―――その日以降、王宮のあちこちでアナイスを目にするようになった。
い頃から王宮に顔を出していたとの言葉通り、彼には多くの顔見知りがいるようで、いつだって誰かと楽しそうに話をしていた。
そんな姿を見る度に、なぜだか私の居場所が失われていくような気持ちを覚え、そんな心のきを殘念に思う。
……ああ、私は自分が思っていたよりも、心が狹いのだわ。
自分自の殘念な格に落ち込み、気付いたらうつむいている。
そんな毎日を過ごすうちに、私は自分がどうすべきかが分からなくなっていた。
私はい頃からフェリクス様のことを想ってきて、彼とともに人生を歩むことをんできたけれど、もしもアナイスを押しのけて得た場所だとしたら、それは正しいことなのだろうか。
もしかしたら私は、フェリクス様の幸福よりも、私自のみを優先させているのかもしれない。
そんな風に考える一方で、やっぱりフェリクス様とずっと一緒にいたいと考える。
ギルベルト宰相はアナイスを側妃に考えていると言ったけれど、フェリクス様はそのことについて、未だ一度もれてこない。
つまり、宰相の希と異なり、フェリクス様はアナイスをんでいないのではないだろうか。
分からない。答えが分からない。
けれど、フェリクス様に正面から聞く勇気も出せない……アナイスを側妃にんでいると答えられる可能を考え、怖くて尋ねることができないのだ。
最後には、そもそも今の私は手紙で全てを告白し、フェリクス様の結論を待っている狀態なのだから、このまま待っているのが正しいと自分に言い聞かせる。
そんな風に、常にまとまらない考えに囚われているためか、私はしずつぼんやりするようになった。
自分の考えにいっぱいいっぱいで、何事かを言われても言葉が素通りしていき、上手く理解できないことが増えるようになったのだ。
そんな自分に落ち込むことの繰り返しだったけれど、ミレナに加え、義妹弟であるクリスタとハーラルトが私をめてくれた。
ミレナはぼんやりとしている私をかいがいしく世話してくれたし、クリスタとハーラルトは時間を見つけては私のもとを訪れてくれた。
2人はいつだって、まだ膨らんでいない私のお腹をでては、赤ちゃんに話しかけてくれる。
そのため、2人といる時だけは、私は現実に戻ってきたような気持ちになって、會話を楽しむことができた。
「おはよう、ルピアお義姉様の赤ちゃん! 今日はとってもいい天気よ。お義姉様のお腹の中の次くらいには、気持ちがいいと思うわ。生まれてきたら、私が々と教えてあげるからね」
クリスタは私のお腹に頭をくっつけながら、得意気な表でお腹の子どもに話しかけていた。
対するハーラルトは、呆れたように姉を見やる。
「えー、だったら、クリスタお姉様はもうしお勉強をしないと。ルピアお義姉様とフェリクスお兄様の子どもだから、この子はきっと頭がいいよ」
弟の言葉を聞いたクリスタは、馬鹿にした様子で頭を上げた。
「はん、フェリクスお兄様が賢いですって? ああいうのはね、カチコチの現実主義者っていうのよ! 見えるものしか信じないうえ、王として目に映るものを限定されていることに気付いていないなんて、愚の骨頂だわ!!」
「うーん、お兄様が現実主義者であることはその通りだけど、今回これほど馬鹿になっているのは、ルピアお義姉様に傾倒し過ぎているからでしょう。自分が抱いているの大きさを理解していないから、あんな中途半端な行を取り続けているんだよ。でも、大丈夫。ルピアお義姉様には僕がいるから。お兄様が好きでなくなったら、僕と結婚しようね」
そう言って、甘えた聲を上げながらハーラルトが抱き著いてくる。
そんな弟を見て、クリスタは馬鹿にしたような聲を上げた。
「何言ってるの、ハーラルトはまだ6歳じゃない! お義姉様は17歳だから、11歳の年の差を超えて、結婚なんてできるわけないじゃない!!」
ハーラルトはきょとんとした顔をすると、私の手をぎゅっと握りしめた。
「そう? 僕は気にしないけど。だったら、僕が16歳になった時、お義姉様がフェリクスお兄様を嫌いだったら、僕と結婚しようね」
そんなハーラルトを、クリスタが面白そうに見やる。
「仕方がないわね! ハーラルトが相手だったら、ルピアお義姉様とは義姉妹のままでいられるから、許可してあげるわ!」
私の意見を聞きもせず、勝手なことを言い合う2人を、可らしくもおしくじる。
笑いながら抱き著いてくる2人の溫かいをじ、私の顔にも久しぶりに微笑みが浮かんだのだった。
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