公爵家當主である父親が弔問客と挨拶をわす隣で、喪服にを包んだクラウディアは兄のヴァージルと並んで目禮する。

記憶より若い父親と、青年になりきれていないヴァージルを見たときは、思わず笑いそうになった。

もちろん顔には出さなかったけれど。

弔問客を迎える合間に、隣に立つ兄を盜み見る。

（わたくしもお兄様も、これからの一年で急に背がびるのよね）

つきも大人になるが、殘念ながらクラウディアの長はそこで止まる。

斷罪がおこなわれた卒業パーティーでは、兄とは二十センチほど差がついていた。

見下ろしながら睨まれ、胃がんだのを思いだす。

（あのときは気圧されたけど、今のお兄様は可らしいわ）

クラウディアもヴァージルも、闇のような黒髪と青い瞳は公爵からけ継いでいるものの、きつい目元やしい顔立ちは母親似だった。

青年になれば誰もが見惚れる貴公子となるヴァージルも、若さが殘る今の姿はらしい。

（前はお兄様のようなサラサラした髪質に憧れたけど、お母様と同じだと思うと、クセで波打つ髪も悪くないわね）

軽蔑する父親との類似點は、ないほうが良い。

（まぁ、お父様の気持ちもわからないでもないけど）

母親は禮儀にうるさく、気が強い人だった。

亡くなった今でも、屋敷に張を殘すほどに。

息苦しさを覚えた父親が、外で人を作ったとしても仕方ないのかもしれない。

実際、娼館ではそういう客も多かった。彼らは人を作らない代わりに、娼婦に癒やしを求めたのだ。

（でもわたくしやお兄様を放って、フェルミナだけをしたのは納得いかないわ）

母親似の顔が気にらなかったのかもしれないが、を分けた子どもであるのに変わりない。

外へ逃げられる父親とは違い、子どもだった二人は、窮屈な屋敷で過ごすしかなかったというのに。

母親への不満があるとすれば、子ども相手にも容赦がなかったことだ。

（飴と鞭の「飴」がなかったのよね。お母様と姉妹(ちきょうだい)のマーサは、お母様の言いなりだし）

そこはバランスを考えて、マーサが飴役になるべきだろうと思わずにいられない。

公爵家の侍長を務めるマーサは、元は母親が実家から連れてきた侍だった。

（だから人が來るなりクビにされるのよ……）

父親にとって母親がしたものに未練はないのだ。

前は口うるさい人間がいなくなったことを喜んだけれど、今は間違いのような気がしてならない。

（まずはマーサを屋敷に引き留めましょう。彼が有用だとわかれば、お父様もすぐクビにはしないわよね？）

クラウディアが懐けば、マーサはきっと味方になってくれる。

昔からマーサは母親を崇拝しているような節があった。

人のこともよく思っていないだろう。

（ヘレンを助けるためにも、地盤を固めるのよ）

母親を亡くした悲しみを顔に湛えながら、クラウディアはまだ小さな手を握り絞めた。

葬儀が終わると、墓石の前には家族だけが殘る。

早々に帰ろうとする父親に心が冷めるのをじながら、クラウディアは母親の墓石にすがりついて泣いた。

時間が巻き戻る前、ヘレンの墓石にしたように。

いや、そのとき以上に大聲で泣きぶ。

「お母様っ、どうしてディーを置いていくの？　ディーをひとりぼっちにしないでぇっ」

突然のクラウディアの號泣に、父親とヴァージルが戸う気配が背後から伝わってくる。

二人とも癇癪を起こすクラウディアは見慣れていたが、涙ながらにを吐する姿を見たことがなかった。

（泣くときは、いつも一人だったものね）

誰でもない母親の教えだ。

貴族たるもの、人前で泣くことは許されない。

勉強嫌いなクラウディアであっても、洗脳に近い覚で教え込まれたことは、に染みついていた。

そしてそれは兄であるヴァージルも一緒だ。

「クラウディア、はしたないぞ」

ヴァージルはクラウディアの肩に手を乗せて咎めるものの、聲に覇気はない。

二つ上の兄は、母親の厳しさもの裏返しであることを察していた。

父親に関心を持たれない彼にとって、母親だけがを與えてくれる存在だったのだ。

失ったものの大きさは、ヴァージルもクラウディアと変わらない。

しかし母親亡きあとも忠実に教えを守ろうとするヴァージルに、クラウディアは涙を流しながら抱き付く。

「いやよっ、お兄様は悲しくないの？　ディーは寂しいわ！　お母様がいなくなったら、誰を頼れっていうのっ」

父親は人宅にり浸って屋敷には帰ってこない。

兄は習い事に忙しく、食事時ぐらいしか流がなかった。

「クラウディア……」

ヴァージルの聲が震える。

クラウディアの嘆きは、そのままヴァージルが抱えていたものでもあった。

次第にヴァージルの頬にも涙が伝い、嗚咽がれる。

母親を亡くした悲しみは本だったが、一方でクラウディアは冷めてもいた。

（お父様もお兄様も口では禮節をと言うけど、実際は型にはまらない弱々しいが好きなのよね）