《斷罪された悪役令嬢は、逆行して完璧な悪を目指す(第三章完結)【書籍化、コミカライズ決定】》35.悪役令嬢は責められる

登校すると、學園のエントランスでシルヴェスターに聲をかけられた。

後ろでは、トリスタンが和な笑みを浮かべている。

「おはよう、クラウディア」

「おはようございます」

それぞれと挨拶をわす中、驚くことにフェルミナがシルヴェスターの前から辭する。

「友人を待たせていますので、お先に失禮します」

友人? と首を傾げそうになったものの、またあとでね、とクラウディアは走り去る彼を見送った。

しかし、シルヴェスターに近付く機會があれば、絶対逃そうとしないフェルミナらしくない行に、青い瞳を細める。

そもそも友人と呼べるような相手はいないはずだ。

デビュタント前に領地送りになっていたフェルミナに、誰かと親を結ぶ時間はなく、學園に學してからはこれ幸いと、シルヴェスターの傍を陣取っていた。

婚約者候補でもないフェルミナの図々しさに、他のご令嬢は不満を募らせており、友好が築けるとは思えない。

(どこかのご令息でも手懐けたのかしら?)

トリスタンのように、フェルミナの外面しか知らないご令息は、彼の可らしい見た目に好を持っていた。

人の娘でも、今は公爵令嬢だ。

リンジー公爵家と誼を通じたい家のご令息には、見逃せない件でもある。

「私の前だというのに、妹君が気になって仕方ない様子だな」

「み、耳元でお話しにならないでください!」

いつの間に近付いたのか、シルヴェスターの吐息が耳にれた。

答えながら咄嗟にをかわせば、ちょうど薄く付いたが映る。

(っ……!)

馬車でのことが思いだされ、意図せず頬に朱が走った。

熱くなった頬にづかれないよう片手をあて、もう一方は髪で隠す。

けれど絶対、面白がられている気がした。

(もう、これぐらいのことでけない……! 今のは初心過ぎるわっ)

それもこれも若いせい、とクラウディアは自分に言い聞かせる。

「……シルヴェスター様もご存じでしょう? あの子、あまり友人と呼べる相手がおりませんの」

「トリスタンなら相手が誰かわからないか?」

「僕がですか?」

よく話してるだろうと言われ、トリスタンは頭を捻る。

シルヴェスターの傍にいるので、フェルミナがトリスタンに話しかける機會も多かった。

將をんとすれば先ず馬をよ、の神かもしれない。

「話はしますが、ご友人のことは聞いたことがありませんね」

フェルミナの行に気を付けているクラウディアが知らないぐらいだ。

話題に上がらなければ、トリスタンもわからないだろう。

何をするつもりなのか。

シルヴェスターを置いて走り去ったところを見るに、急ぐ必要があったらしい。

これは教室にったら何かありそうね、と予想を立てる。

「トリスタン、私たちはし遅れて行こうか」

「え、どうしてです?」

「そのほうが楽しめるかもしれないからな」

同じことを考えたのか、シルヴェスターが歩みを止める。

クラウディアも、そのほうが相手の出方を探れそうな気がしたので、案にのった。

二人と別れて、一人で教室へ向かう。

教室でクラウディアを出迎えてくれたのは、フェルミナではなかった。

かといって馴染みのご令嬢でもない。

同じクラスにいるもう一人の婚約者候補。

絹のような金髪に翠の瞳を持った、侯爵令嬢のルイーゼその人だった。

普段は表面的な流しかない相手が、扇で口元を隠しながら近付いてくる。

明らかに挨拶だけで終わる雰囲気ではない。

「おはようございます。クラウディア様、聞きましてよ。妹さんの案を橫取りしたのですって?」

「おはようございます。ルイーゼ様、橫取りとは、穏やかではありませんわね?」

思い當たることがないと首を傾げながら、さり気なくフェルミナを探す。

視界の端にピンクブロンドを見つけ、彼の正面に座る相手へ意識を向けた。

(なるほど、大人しく自分の話を聞いてくれる相手を見つけたのね)

フェルミナの前にいるのは、気弱なご令嬢だった。

なら一方的に話しかけられても文句を言えず、聞き役に徹するだろう。

そうしてフェルミナは、わざと周囲に聞かせるよう、生徒會室でのことを話したに違いない。

これにルイーゼは、まんまとつられた。

(他人にわたくしを責めさせるなんて……)

直接手を下さないフェルミナの姿勢に、今までにない嫌悪が募る。

それでも報元がバレているあたり、杜撰な計畫だ。

「お祭りでしたかしら? 人の案で點數を稼ぐなんて、程度が知れてましてよ」

「あらっ、フェルミナさんも同じ案だったの?」

やはりフェルミナの頭にも、祭りの案はあったらしい。

どこまでクラウディアと同じかはわからないが、それなら、と言葉を続ける。

「お兄様に言って、共同案ということにいたしましょう! 同じ考えだったなんて嬉しいわ!」

フェルミナに駆け寄って優しく手を取れば、目に見えて彼は狼狽した。

しかしクラウディアは気にしない。

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