（パンツスタイルの王妃殿下も素敵だったわ……）

視察団に混じるためか、王妃は乗馬するときに近い裝いだった。

シルヴェスターの母親だけあって、まだ若く貌も衰えていない。彼なら、年老いてもしさを損なうことはないだろう。

忙しい公務をこなしつつも失われない魅力に、クラウディアはただただ嘆する。

ほう、と拝謁した興を吐息で逃がしたところで、シルヴェスターの呆れた視線とかち合った。

挨拶後、二人はすぐに生徒會室へは戻らず、學園の空いた応接室で休憩を取っていた。

「私に対する態度と、差がありすぎるとは思わないか？」

「まずもって王妃殿下とシルヴェスター様を比べないでくださいませ」

國母でありの先達、象徴である王妃とその息子では、まずカテゴリーが違う。

憧れるにしても、意味合いが違ってくることをクラウディアは懇切丁寧に説明した。

息継ぎすら忘れて語り続ける姿に、シルヴェスターが両手を挙げて降參する。

「わかった。君が母上を敬しているのは、よくわかった」

「十分な準備ができなかった、わたくしの心もご理解ください」

「待機時間はあっただろう？」

「家から侍を呼ぶ時間はありませんでした」

「君はいつだってしいだろうに。母上だって褒めておられた」

それとこれとは別だ。

同であるからこそ、一番しい姿を見てもらいたいという考えを理解してもらえない。

男に限らず、憧れの人の前では、綺麗な自分でいたかった。

「そんなことより、考えるべきことがあるだろう？」

「そんなこと、とは何ですか。……フェルミナさんがいたようですね」

フェルミナを尾行していたものから報告が屆いていた。

ヴァージルの使いとは別に、フェルミナは生徒二人に會いに行ったという。そのどちらかか、両方が協力者で間違いないだろう。

「會話の容がわからないのが痛いな」

「尾行したものに、そこまでの能力はありませんもの」

リンジー公爵家の私兵ではあるものの、偵を専門にしているわけではない。

「我が家の影を使えれば良かったのだが」

「のめごとに、王家の影を使うなんて畏れ多いですわ」

「影」とは、正真正銘、偵など隠を専門とする職業を指す。

フェルミナの件は、あくまでリンジー公爵家のお家騒の面が大きく、できれば公にはせずに済ませたいことだ。

それは學園も同じで、偽証について公的機関がることにあまり良い顔はしていない。ただ犯罪を見逃すこともできず、協力しているだけだった。

「今回はわたくしのを守れればいいだけですから」

背後関係を洗う必要はあるけれど、フェルミナがいたとなれば、もうチェックメイトは近い。

これで文化祭後、クラウディアに何かあれば、彼が報を流したのは明白だ。

実行犯は協力者に繋がっていることだろう。

「私もヴァージルも萬全は期すが、注意は怠るなよ」

「もちろんです。囮を買っては出ましたけれど、ケガをしたいわけではありませんもの」

遅かれ早かれ文化祭後にはわかることだ。

窓から見える、日はまだ高い。

膝の上で拳を握っていると、シルヴェスターの手が重ねられる。

そのい手の平のに、以前ブティックで剣を攜えていたことを思いだした。

鍛錬しているらしく、手の平に豆ができている。

ふと、漂う空気が変わった気がして、黃金の瞳へ視線を向けた。

真摯に見つめ返される。

「心配するな、君は私が守る」

「シルヴェスター様も守られる側でしょうに」

「格好ぐらいつけさせてくれてもいいだろう」

「ふふっ、そうですわね」

真実、シルヴェスターは王子様であるが、だからこそ守られる立場であり、乙が理想とする「白馬にのった王子様」にはなりがたい。

ピンチに駆け付けるのは彼ではなく、彼に命令された誰かなのだ。

それでもシルヴェスターの言葉に噓はじられなかった。

だからこそ照れて、つい茶化してしまった。

「ありがとうございます。頼りにしています」

「うむ、任せろ」

そんなクラウディアの心はバレバレだったのか、頷くシルヴェスターの笑顔は眩しいほどに輝いていた。

至近距離で見てしまい、思わず顔を逸らす。

シルヴェスターの貌にあてられ、が高鳴った。

それを誤魔化すように髪を耳にかけながら、思考を巡らす。

「一つ問題があるとすれば……」

「ルイーゼ嬢か」

フェルミナが會った生徒の一人は、シルヴェスターの婚約者候補であるルイーゼだった。