《斷罪された悪役令嬢は、逆行して完璧な悪を目指す(第三章完結)【書籍化、コミカライズ決定】》21.悪役令嬢は活路を提示する
(あら、でも腹筋は割れてるのね)
鍛えているらしく、レステーアのお腹周りには脂肪が存在しない。
ここまで贅を落としているは、クラウディアから見ても稀だった。
「このように布を重ねて巻きます。ぼくはが小さいので厚みを抑えられますけど、クラウディア嬢やシャーロット嬢ほどの大きさになると、厳しそうですね」
シャーロットにげとは言えないので、服の上からレステーアに布を巻いてもらう。
クラウディアもヘレンを呼んで、それに倣った。
「ふう、やっぱり圧迫されますわね」
「コルセットをにつけているようなものですから。一応ぼくなりに々試して、長時間巻いていても苦しくない巻き方にはしています」
「ちょっと苦しいですけど、元に比べたらだいぶ高さがなくなってますのっ」
谷間を布で隠せるのもあって、シャーロットの反応は上々だ。
しかし。
「しくないわ」
レステーアも同意見だったらしく、苦笑を浮かべた。
「クラウディア嬢で、ちょうどラウルくらいの厚さでしょうか」
男裝するならともかく、これでドレスは著られない。
元が大きい分、布でを押し潰すと、どうしてもアウトラインが歪になってしまうのだ。
卒業パーティーで、シャーロットが著ていたドレスが思いだされる。
「だ、ダメですの?」
「ダメとは言わないわ。でも鏡で前後左右、全像を確認してから判斷するのよ」
まだ正面しか見ていなかったシャーロットは、橫を向いて聲を詰まらせた。
「うぅ、しくないですの……」
「著る服にもよるでしょうけど、まずドレスは似合わないわね」
でも何かの際に役立つかもしれないと、巻き方は覚えておく。
布を外し、人心地ついたところで、次の手だ。
「デザイナーは到著しているかしら?」
「お呼びしてまいります」
ヘレンに確認し、デザイナーがダンスホールへ來るまでの間に、クラウディアは考えを説明する。
「理的な方法は、布を巻くぐらいしか思いつかなかったの。次はデザイナーに協力してもらいながら、錯視を試しましょう」
「へぇ、面白そうですね」
レステーアの出番は終わってしまったけれど、興味がありそうなので引き続き付き合ってもらう。
頷くレステーアの隣で、シャーロットは小さく手を挙げた。
「あの、クラウディアお姉様……さくし? って何ですの?」
「目の錯覚のことよ。服のデザインに錯視を取りれて、を小さく見せられるか検討するの」
デザイナーが來たので、普段クラウディアが服のデザインを任せている人だと紹介しつつ、錯視についても例を見せる。
同じ長さの直線を二本描き、両端に底辺のない三角形を加えたものだ。
それぞれ三角形の頂點を直線の両端におき、一本は底辺が線のへ向くように、一本は底辺が線の外を向くよう左右対稱に描けば完だ。
「どう? 同じ長さの直線だけど、三角形が外を向いているほうが、長く見えるでしょう?」
「えええっ、本當です! 不思議です!」
「服でいえば、橫向きのストライプ柄は、縦向きと比べての橫幅が広くじられるわ」
柄だけではなく、でも見える印象は大きく変わる。
白は膨張、黒は収という合に。
クラウディアは膨張を著るとき、必ず髪を下ろすようにしていた。自の黒髪で背景を作ることにより、のラインを際立たせるためだ。
「きっとロジャー伯爵家では、お母様の意向でが目立つデザインで服が作られているでしょうから、逆にが目立たないデザインを考えましょう」
デザイナーも初の試みに気合いをれる。
今までを大きく見せたいご令嬢はいても、小さく見せたいご令嬢はいなかった。
余談だが、娼婦時代のクラウディアは、収である濃い味のドレスでスレンダーに見せ、ぐと実はボリュームがあるというギャップを演出したりしていた。
デザイナーには布をはじめとした服飾素材を持ってきてもらっていたので、その場で簡単に合わせていく。
「凄いですっ、です! やラインの有無だけで、こんなに印象って変わるんですね!」
用意されたデザインから選ぶしかなかったシャーロットにとって、新しいデザインを作るという発想はなかった。
デザイナーと二人三腳で、試行錯誤を重ねていく。
目をキラキラと輝かせるシャーロットに、もう背中を丸めていた頃の面影はない。
手持ち無沙汰になったレステーアが、そっと耳打ちしてくる。
「シャーロット嬢が羨ましいです」
悩みが解消される様子を目の當たりにしたからか、レステーアは珍しく嫉妬のようなものを滲ませていた。
「正解がわかっていたのに、どうしてぼくに協力を仰がれたんですか?」
「正解を決めるのはシャーロットだもの。それに考えれば、んな方法があることを教えたかったの」
答えが一つとは限らない。
視野狹窄に陥っていたシャーロットの視野を、クラウディアは広げたかった。
その點で、レステーアは価値観を広げる意味でも助けになってくれた。
「自分で考えさせないで、クラウディア嬢が答えを用意したわけは?」
「考え方を知らない人間に、答えを求められるかしら?」
シャーロットは決して、頭が悪いわけじゃない。
シルヴェスターの婚約者候補に選ばれるぐらいには、下地がある。
しかし勉強ができるからといって、新しい発想を生み出せるかは別問題だ。
特にコンプレックスに関しては、嫌な記憶のせいで、認識が偏ってしまっていた。
外見の報は、著る服で上書きできることを、シャーロットはまず知る必要があった。
「ほら、今ではもう自分で考えているわ」
時折クラウディアに意見は求めるものの、既にシャーロットは鏡を使ってデザイナーの提案を検討し、判斷を下している。
正面からだけでなく、の向きを変えてクルクルいてる様は可らしい。
「それに今日はシャーロットにとって、第一歩でしかないのよ」
たとえ気にるデザインが見つかったとしても、彼の母親はそれをけれないだろう。
家族と、自分の心とどう向き合っていくのか。
シャーロットの戦いはこれからだ。
「コンプレックスの解消は、自分にしかできないわ。けれど知識が多ければ多いほど、視野が広ければ広いほど、問題と向き合いやすいと思うの。わたくしは、その方法を示しただけ」
「なるほど、クラウディア嬢の考え方がわかった気がします。……そこで折りって相談があるんですが、このあとでお時間を頂戴できますか?」
「予定は他にありませんから、大丈夫ですわ」
「ありがとうございます。ラウルのことで、お話ししたいことがあるんです」
ラウル、と聞いてレステーアを見上げる。
淡い碧眼には、決意が込められていた。
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