《【書籍化&コミカライズ】偽聖とげられた公爵令嬢は二度目の人生は復讐に生きる【本編完結】》17話 作戦
「宜しくお願いしますお嬢様」
従者としてジャミルがリシェルの元にやって來たのはそれから1ヶ月後だった。
リシェルの部屋で気な挨拶をわす。
「ジャミル」
リシェルが驚きの聲をあげた。
マルクの勧めで従者が來るとは聞いていたがジャミルだとは思ってもいなかったからだ。
「今日からお嬢様の手足となって働きますので!」
と、薬屋で會った時とは比べにならないほどおどけた調子で言うジャミル。
「雰囲気が大分違うのですね?」
リシェルが聞けば
「そりゃ、単なるしがない薬屋が公爵令嬢様の従者になれたのですから。
テンションも上がりますよ」
そう言って微笑むが、言葉の中にシークとジャミルと三人しかいない狀態でも素を明かす気はないと語っていた。
つまり――ジャミルは屋敷の中も安心できないと念を押したいのだろう。
「あら、お嬢様。新しい従者の方ですか?」
お茶を持ってリンゼが部屋にってくる。
「はい。マルクとの裝合わせの時に知り合いまして。
彼と連絡が取りやすいように付き従ってくれる事になりました。
元はマルクが保証してくれています」
「お嬢様は本當に今回の王宮主催の舞踏會に力をいれておいでなのですね」
リンゼがニコニコと微笑む。
リシェルは彼には復讐の件は教えていなかった。
前世で共に殺される未來がどうしても脳裏から離れないからだ。
もうししたら――適當な理由をつけて自分のメイドから外そう。
そうすればともに殺される事もないと、リシェルは心に決めている。
母親代わりでずっと自分を支えてくれたリンゼを殺すわけにはいかない。
死ぬのは――自分だけで十分だから。
□■□
「――というわけです。
奇襲に備えればこのガルデバァム戦自ではそれほど損害はありません。
元々この戦いは、シャナーク國の王子が功を焦り仕掛けてきたものです。
ほぼすべてがこのイフリート部隊の奇襲に賭けていて、父たちの戦う部隊はそう兵力がありません」
地図を指し示しながらリシェルは説明しはじめた。
ガルデバァム戦
元々は隣國シャナーク國の王子達の王位爭いから端を発している。
第二王子に王位を奪われそうになった第一王子が起死回生を賭けてラムディティア領に仕掛けてくる。
第一王子の獨斷で、本國から本格的な支援があるわけではない。
なのに大きな打撃をけてしまったのは、第一王子が隠しもっていたイフリート部隊の存在が大きい。
本來イフリートは四足歩行のトカゲのような魔で、かなりの上位種で人間がせるものではない。
それを魔道に魔導士の魂を捧げるという非人道なやり方で、イフリートをる事に功したのだ。
斷崖絶壁をもやすやすと登ってしまい、本來ありえない位置から奇襲をうけ。ラムディティア軍は大打撃をけてしまう。
もしリシェルの父、グエン・ラル・ラムディティアでなければ、この戦いは負けていただろうと誰もが稱するほどイフリートの部隊は圧倒的強さを誇ったのだ。
グエンの今後一生分の魔力を捧げた広範囲魔法によってイフリート部隊を倒す事に功し、敵を蹴散らしはしたが、ラムディティアの被害も甚大だった。
リシェルの王子との婚約を斷れなかったのも、この戦爭でラムディティアは國に多大な借金をしてしまった事が関係している。
「確かにイフリート部隊を何とかできれば、被害はなくてすむでしょう。
ですがそれを私たちだけでやると?」
シークが地図を見ながらリシェルに尋ねる。
「はい。ジャミル達に働いてもらいます」
リシェルが答えれば
「ちょっと待ってくれ。俺たちを過大評価しすぎじゃないか。
いくら何でもイフリートなんて化け倒せないぞ。
俺たちの専門は人間だ。モンスターじゃない」
と、ジャミル。
「そこは心配しないでください。
直接イフリートとは戦いません」
「まず、イフリート部隊は、クラチェ峠を越えて、この巖場のルートを通って來たことが後にわかっています。
ここは道幅も狹い。
待ち伏せには最適な場所です。
しかも通過したのは夜。
罠を仕掛けるのは絶好のタイミングかと」
「なるほど。そこに罠をはっときゃいけますね。
しかしイフリートに効果のある罠などありますか?
並みの魔法なら跳ね返す鋼鉄のウロコの持ち主だったはずですが?」
ジャミルが地図を見ながら聞けば
「イフリートは無理でしょう。
狙うのは、イフリートではありません。
騎乗している人間の方です」
そう言ってリシェルは地図から視線を上にあげた。
「後の調査でイフリートは主が死ねば、きを止めるのはわかっています。
魔道に魔力を通さないとイフリートはきません。
私たちが倒さねばならないのは騎乗している騎士達です。
幸いな事にここは巖壁に囲まれた一本道。
弾で部隊ごと破すればイフリートは無事でも騎乗している騎士は助からないでしょう」
「なるほどな。
まぁ待ち伏せなら俺たちの得意分野だ。任せとけ。
それにしてもよく調べたもんだな」
ポリポリ頭をかきながらジャミルが言えば
「はい。父は完璧主義者でしたから。
勝った戦いですらどうやったらもっと被害をださないですんだのかいつも検証する人でした」
「リシェルお嬢様はお父上に似たのですね」
ジャミルが肩をすくめて言う。
「……いえ、私は父に遠く及びません。
いつも出來ぬ娘と怒られていましたから……」
「グエン様がですか?」
リシェルの言葉にマルクが尋ねる。
「……はい」
「だからでしょうか?
お嬢様。貴方はしご自分を過小評価する傾向にあります。
貴方は同じ歳の貴族と比べれば優秀です。
あまりご自分を過小評価しすぎぬよう。
自分への評価を間違えれば、周りへの評価も読み違えてしまいます」
マルクの言葉にリシェルはし驚いた顔で
「そ、そうでしょうか?
皆これくらいは普通に出來るのかと思っていました」
リシェルの言葉にその場に居合わせた一同が顔を見合わせるのだった。
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