《【書籍化】厳つい顔で兇悪騎士団長と恐れられる公爵様の最後の婚活相手は社界の幻の花でした》王族主催の夜會
「リラ嬢とはどう?順調?」
「はい。順調に侍やメイドの採用もできました」
「そういう事を聞いてるんじゃないんだけど。まぁいいや。2週間後の王族主催の夜會だけど、今年はヴァレリオは警備から外れていいよ」
今日は俺が陛下の護衛擔當の日だ。
普通の日に総騎士団長が自ら護衛につくことは普通はないが、陛下の希で時々こうして俺も護衛についている。
陛下曰く『真面目でお上品な近衛騎士たちばかりだと面白くないし息が詰まる~』とのことらしい。
俺だって真面目に護衛しているのだが。お上品さは…ないかもしれないけど。
俺が護衛の日は、決まって陛下に何かしら話しかけられる。
執務室では、大馴染の4人がいるので、皆で話しながらになるのが常だ。
アントニオとマルコも俺が警備擔當の日は気楽な気持ちになるらしい。
しかし、城で開催される夜會の警護となると話は別。
俺が近衛騎士に任命され、王太子殿下付きの小隊長をしているときから、王宮主催の夜會では護衛として今の陛下の近くに立っていた。
夜會の時に國王陛下を守るのは総騎士団長の役目だ。これを他の奴に譲るわけにはいかない。
「リラ嬢をエスコートしなくて良いの?」
「それは。仕事ですので」
「ふぅん?いいんだ?リラ嬢が貴族令息たちに囲まれても良いんだ?」
「えっ」
今し方、心の中で陛下の護衛役は俺しかいないと決意を改めた瞬間なのに、リラのことを持ち出されると揺さぶられる。
俺の揺に付け込むように、それまで書類の仕分けをしていたマルコとアントニオも話に加わってきた。
「ヴァレリオ、忘れたのか?彼が社界の幻の花って呼ばれていることを」
「いや覚えているけど………」
「貴族の令息令嬢が婚約したら普通ならどこからともなくれ広まるものだけど、ヴァレリオもリラ嬢の家も社を盛んに行ってないから、今のところ二人が婚約したって話は知られていないから噂にもなってないよ。ヴァレリオが婚約もしていないのに公爵夫人付きの侍を募集してるらしいって話は誰かが言ってたから、數だけど『兇悪騎士団長がついに婚約か!?相手は!?』って噂してる人はいるけどね」
「そうなのか……」
「そう。だから年に一度のチャンスにリラ嬢にどうにかしてお近づきになりたいって令息達はたくさんいるだろうな。そんな中にリラ嬢を一人で參加させるなんて、ヴァレリオは余裕だな」
「そういう訳では……。それに1人ではなく例年通りサランジェ伯爵夫妻と一緒に行くと言っていたが」
「うん!だから、今年はヴァレリオは護衛を休んでリラ嬢をエスコートすること!これは王命だからな。わかった?」
王命なんて大げさに言われてしまったが、陛下の気遣いはありがたくけよう。
うん。王命なら仕方ない。
そうと決まれば、まずはどうしたら良いんだろうか。
「分かりました。ありがたく、リラと參加させてもらいます」
「お?おやおや〜?リラって呼び捨てしてるんだ~。なんだなんだ、結構仲良くやってるんだな。ヴァレリオは何で呼ばれてるんだ?ん?」
「くっ。揶揄わないでくれ」
「照れた顔も怖いな……ところでヴァレリオ。リラ嬢をエスコートするのに、ダンスはできるのか?」
「―――できる…………自信がない」
「そうか。では俺から講師に依頼しておこう。これから夜會までみっちりレッスンするんだな」
ニヤニヤしながら言うな、アントニオよ。
絶対楽しんでいるだろう。
◇
「まぁなんとか合格ってところね!頑張ってちょうだい!あの兇悪騎士団長のクローデル公爵が優雅にダンスを踴るなんて、話題になる事間違いないわ!私の評判にもかかわるんだから」
「今日までありがとうございました………」
アントニオが依頼してくれた講師はパートも踴れる小柄な中年男で、小柄で中的な見た目とは裏腹にスパルタだった。
貴族の端くれとして子供の頃にダンスは習っていたが、夜會には警備で參加する方が多く、と実際に踴った事は殆どなくて、講師に酷いと嘆かれた。
それでも夜會當日の午前中までレッスンをした甲斐があり、2週間で何とか様になるところまではできるようになった。これで今夜の夜會での一番の憂いは何とかなりそうだ。
「ふぅ……」
公爵家の馬車でサランジェ伯爵家にリラを迎えに行く俺は慨深く思っていた。まさか公爵家の馬車で夜會用の騎士服を著て、エスコートの為にを迎えに行く日がくるとは……。こんな張は味わった事がない。婚約を申し込む時は張するかと見えぬ未來を想像した事もあったが、実際は流されて婚約が決まったし。男関係の張はこれが初めてかもしれない。
「ヴァレリオ!迎えに來てくれてありがとう!わぁ、夜會用の騎士服、似合ってるね!凜々しくて素敵だよ」
今日もリラは可い。
見た目の印象は楚々として儚げなしいなのに、口を開くと無邪気で結構元気いっぱいだ。俺と話している時には病弱の噂も噓だと分かる。
そのギャップもまたいい。おしさが発する。
今回はドレスの発注が間に合わなかったが、今度は俺ののドレスをにつけてしい……。
今度は俺のを纏ってくれと言ったらリラはどんな反応をするだろうか。嫌がられる事は無いと思うが、獨占の強い男は嫌がられるだろうか。
「リラもそのドレス、似合っている」
「ほんと?嬉しい。ありがとう」
「―――今度……」
「ん?」
「いや、何でもない」
「そう?ねぇ、次から夜會に一緒に行ける時はヴァレリオのをれたドレスを著てもいい?」
「えっ、う、うん。勿論」
「良かったぁ。実はもう一著発注しちゃってるの。一緒に行けるってもうし早く分かっていれば、今日に間に合うようにして貰えたんだけど殘念」
今度一緒に夜會に行ける時は、絶対にもっと早く伝えようと決意した。夫婦になれば、いくらでもその機會があるだろう。むしろ普段著からそうしてしい位だ。
ふたりで馬車に乗り込み、王城へ向かう車でも暫くは楽しく話をしていたが、王城が近づくにつれてリラの表がっていく。
「リラ?もしかして馬車酔いした?」
「ううん。酔った訳じゃないから大丈夫」
「でも。どこか合が悪いとか?」
「違うの。その、王城が近づいてきたから。夜會が始まると思うと、張というか……」
(あぁ。そういえば、人見知りで社が苦手と言っていたな。元気がなくなるほどに嫌なのか。俺が張している場合じゃないな)
「リラ。大丈夫だ。俺が付いているから」
「ヴァレリオ」
「なんてったって、俺の側には人が近寄ってこないからね。だから俺の側にいれば大丈夫だ」
「やだっふふふっ。ありがとう」
「事実だしね」
「もぉ。どうしてみんな見る目がないんだろう。でも、今となっては見る目がない人たちばかりで私には良かった」
「え?」
「だって、ヴァレリオの魅力は私が知っていればそれで充分。ヴァレリオが他の誰かに先に見つけられていなくて本當に良かった。だから、私よりも先に出會ってきた達が、見る目がない人達ばかりで良かった」
ふふふっと笑いながら見上げてくるのは反則だと思う。
夜會に行くのをやめてリラを連れて屋敷に帰りたくなった。今なら3日位ふたりで部屋に閉じこもっていられそうだ。結婚前だしどっちにしても無理だけど。
馬車を降りると、その途端に車でり始めていたリラの表がまた変わった。
気持ち俯き加減で伏し目がちにして、口元は軽く口角を上げて微笑を模っている。
れると簡単に壊れてしまいそうで近寄り難い程に儚げでとてもしいが、ヴァレリオにはそれが作られた顔であることがすぐに分かった。
思えば、リラは貴族令嬢にしては無邪気でが表に出やすい娘だ。あはは!と聲を出して歯を見せて笑うこともあるし、怒って頬を膨らませる事もある。拗ねてを尖らせた表もらしく、わざと拗ねさせてしまった事もある。
今の微笑もしいとは思うが、作られていないいつもの笑顔の方が、くるくると変わる表の方が、よほど魅力的だとヴァレリオは思った。
その作られていない笑顔や々な表を自分には見せてくれるという優越が、こんなに男として自信を與えてくれるのだとは知らなかった。
今のリラは明らかに作りこまれた淑の仮面をかぶっている。
人見知りなリラができる一杯の防が、この伏し目がちな微笑なのだろう。
ますますリラを守っていくのは俺なのだと決意を新たにした。
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