《無雙 ~仲間に裏切られた召喚師、魔族のになって【英霊召喚】で溺スローライフを送る【書籍化&コミカライズ】》第80話 勇者と魔王、戦う
とうとう魔王城の正面門が開かれた。
外部正面に立つ彼らの容姿は総じてまがまがしいものに変わっていた。
ハヤトは黒髪黒目だったはずなのに、いつの間にかは淺黒く、目はのような赤に変わっていた。
しかったエルフ、フォリンもは淺黒く不健康そうである。そして瞳は赤い。
魔導師のマリアも同様である。
そして、特に彼らの中で異彩を放つのは、ハヤトの持つ剣である。
黒くる刀に、何やら赤く発し謎の文字が描かれている。
そして、その剣は、見るからに兇々しい魔力を発していた。
「隨分と墮(・)ち(・)た(・)な。勇者とやら」
魔王陛下が彼らをみて、普(・)通(・)で(・)な(・)い(・)とすぐに見てとり、嘲笑する。
「はっ。力こそ全て。勝者こそ正義。歴史は勝者によって、偽りすら正史となる」
ニヤリと笑って嘲笑を跳ね除ける、ハヤト。
「……ほう。阿呆かと思っておれば、意外にも事の一面は知っているのだな」
もう一度陛下は嘲笑って、そう言い放ち。
「剣は、よしというまで鞘にしまえ。他の者に手出しはしないという約束だ。こっちだ」
そう言って、陛下はスタスタと歩き出す。
「訓練場。あそこでならば、思い切り殺(や)りあえるだろう」
ついてこい、という続く陛下の言葉に、ハヤトは剣を鞘に収め、フォリン達も素直に後についていった。
訓練場に、魔王陛下とハヤト達三人が対峙している。
そして、観覧席というか、訓練場が見える場所はどこも魔族で埋め盡くされている。
その一角、私達四天王と魔導研究所のメンバー、そして私の英霊(エインヘリヤル)達が集まっていた。
私達が集まっているのは、陛下を心配してのことだ。
そして、研究員達は、陛下に獻上した魔道兵の結果を……って、あ!
ーーやっばい!
例のイ(・)タ(・)ズ(・)ラ(・)解除しそびれた!
「もう、だめりゃ〜」
のちのことを考えて、ぐったりする私であった。
さらにもう一人、態度がおかしい人がいる。パズスだ。
「息子の、ルシファーの初陣だ! そのままで倒すだろうか、それとも第二裝甲、第三裝甲まで行くのだろうか……!」
息子の初陣にウキウキする様は異彩を放つ。
だが、彼は前魔王。誰も嗜めるものはいなかった。
「理障壁(フィジカルバリア)! 魔力障壁(マジカルバリア)!」
陛下がぶと、練習場の円形の闘技場部分に、堅固なバリアが展開された。
「……これで、外には被害は及ばん。……存分に行かせてもらう」
「行くぞ!」
ハヤトがそうぶと、一瞬見失うかと思う速さで、陛下に向かってまっすぐに疾駆する。
「遅い! 理障壁(フィジカルバリア)! 全能力上昇(オールアップ)!」
陛下は、後方へ跳躍しながら自分の正面に障害を作り、自らの能力をさらに上げる。
「それは、どうかな?」
ハヤトは直進していたかと思うと、陛下の直前でサイドステップをして、そこから軌道を変え、背後に回る。
そして、背中から。
「……豬突猛進ってわけでもないんでね」
ハヤトは剣を両手に持ち替えて、陛下の背中の腰の上の部分を上部から突き刺し、下へ切り裂き、剣を抜いた。
「そこは人間であれば急所。酷い痛みと出が……」
と、悅にいって説明するまでもなく、陛下が痛みにを折り、黒いローブを濡らして余ったが地面に滴り落ちる。
「……く……ッ。だが、これしき……」
陛下の顔が、苦痛に歪んでいる。だが、それに構わず、天に片手を掲げる。
「串刺し公の火刑場!」
すると、ハヤト、フォリン、マリアの足元が黒く影になり、そこから、黒い罪人を穿つ槍が無數に天へ向かって穿たれた!
三人ともその槍から逃れることはできず、串刺しになって宙に浮く。
「さあ、その罪ごと焼かれるがいい!」
陛下が口の端を上げると、影の中から地獄の業火のような轟々と燃え盛る炎が生まれる。
「「「ぎゃあああああああ!」」」
罪人達は、ただその痛みと熱にぶ事しかできず。そして、その刑の執行時間が終わるまでび続けた。
「……流石にこれで……」
痛みに顔を歪め、腰に手を添えながら陛下が呟く。
を焼き、そこから生まれる黒い煙が場の視界を悪くする。
その煙はやがて魔法の発現時間を過ぎると消えて行き……。
焼けた地面に、三人の黒焦げの死が転がっていた。
ーー可哀想だけれど、自分で対戦を求めた結果だもの。
そう、私が彼らにしの憐憫を覚えたときのことだった。
三人のが宙に浮く。
そして、空いたはが再生し、焼けたもも、元のに再生を始めたのだ。
「な……、どうなっている!?」
陛下が狼狽え、痛みも限界なのか、地面に片膝を突く。
場も大騒ぎになる。
そして、その間に、彼らは元の姿でその場に立っていたのだった。
「どうだ。俺達を簡単に倒せると思うな……よ?」
彼らの復活と同時に、陛下の出量が限界を迎え、第二形態への移行が始まる。
まずはフェルマーのパーフェクトヒールでと狀態異常が全て解除された。
そして、パズスの強化により、全の筋が上増しされる。
次に、ドワーフ達が全全霊で作り上げたミスリルアーマーを裝著され。
最後に、なぜか立派な鎧を覆い隠すように、くまの著ぐるみ姿になった。
「……は、これに助けられたな」
そう言って、陛下が腕にはめた腕を見ようとするが、それは何か茶いモコモコしたものに覆われて確認できなかった。
「ん? なんだ、これは……」
陛下が、自分ののあちこちを確認して回る。
そして、相対するハヤト達は口をあんぐりと開けて、呆然としている。
観覧席も、シーンとしている。
そして、私は、そーっと逃げようと……。
思ったら、ヒョイっとアドラメレクに抱き上げられた(確保された)。
「確か、君が所長だよね……。これはリリスちゃんのイタズラかな?」
にっこりと暗い笑みを浮かべながら、アドラメレクがベリトに向かって、両脇を両手で支えた私のをを差し出す。
「裝備の召喚魔法陣の作は、リリス様のお役目……ですから、おそらく……」
ちらっと私の方を申し訳なさそうな顔をしてみて、ベリトが答えた。
「リリスちゃん、どういうことかな?」
今度は、易々とお姫様抱っこに抱きなおされて、にっこり笑った顔(だが笑っているのは顔だけ)を寄せられる。
「かわいく、した、くて」
私は、追い詰められた囚人のように、しどろもどろ、やったことを白狀する。
「うん?」
にっこり笑ったクジャクの顔が怖い。
「よろいの、うえに……きぐるみをかぶせ、まちた」
その答えを聞くと、すぐさまアドラメルクが陛下に報告す(チク)る。
「陛下! リリスのイタズラで、鎧の上に著ぐるみを著せる仕様になっているようです!」
「なっ!」
ギンッと音がしそうな、きつい視線(くまのぬいぐるみの目だから可いけど)で、陛下が私の方を睨みつけた!
「リリス! お前かー!」
私は、なんとかアドラメレクの魔の手から逃れようと、無駄にジタバタするばかりだった。
勇者と魔王戦と、
魔王著ぐるみ事件と、
どちらが歴史に殘るのか。
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