《【本編完結済】 拝啓勇者様。に転生したので、もう國には戻れません! ~伝説の魔は二度目の人生でも最強でした~ 【書籍発売中&コミカライズ企畫進行中】》第17話 二人の冒険者
前回までのあらすじ
こうしてリタの重は順調に増え続け、今や立派なイカ腹になりつつあった。
「おいおい、本當に見つかるのかよ……なぁ……」
「うるっさいわねぇ…… あんたのぼやきはもう聞き飽きたわよ。ぐだぐだ言ってないで、しっかり歩きなさいよ、ほらっ」
「へいへい――」
鬱蒼(うっそう)と木々が茂る山道に男の聲が響き渡る。
ここはハサール王國の東の端に位置する小さな町「エステパ」へと向かう山道だ。
その長くびた下生えの目立つ荒れた道を、一見して冒険者とわかる裝備にを包んだ一組の男が歩いていた。
肩を並べて歩く二人のうち、片方は厳つい顔をした背の高い男だ。
に著けている鎧の上からでもわかるほどにがっしりとした軀が目立つ大柄な剣士で、年の頃は三十歳前後だろうか、無ひげの目立つその顔はなかなかに凄みが効いている。
もう片方は二十代半ばのだ。
隣の男と比べるとかなり小柄な格と短く切りそろえた赤の髪、そして軽さを優先した服裝がスカウトもしくはシーフ系の職種であることを表している。
くりくりとしたやや大きめの瞳が目立つ、なかなかに可らしい顔をしているが、やや吊り上がった瞳に彼の気の強さが伺える。
時刻は既に夕刻となり、あとしで夜の帳(とばり)も下りてくる。
そろそろ暗くなるまでにエステパに辿り著かなければ、彼らは三日連続で野宿することになるだろう。
もっとも彼ら冒険者は一度移を始めると一月以上宿に泊まれないことはざらなので、もしもここで野宿することになっても大した問題ではないのだが。
彼らが一つ前の町を発ってから既に二日が経っていたが、その間は整備された主要街道を歩いてきた。そのために大きな問題もなく、順調に距離を稼ぐことができた。
しかしいま歩いている道はそうではない。
田舎町のエステパへ向かう道は主要街道からは逸れているので、あまり整備が行き屆いておらず些(いささ)か荒れた印象だ。
それでも全く無人というわけではなく、彼らがこの道にってからも數人の行商人や町人とすれ違う程度には往來があった。
そんな道を朝からずっと彼らは休まずに歩いていた。
「あぁ――もうすぐ日が暮れそうだな。エステパまではあとどのくらいだ?」
「さぁ…… 私だって初めて來たんだから、知ってるわけないじゃない。それにこんな簡単な地図じゃ、正確な距離なんてわかるわけないし」
そう言って男の片割れ――冒険者のパウラが冒険者ギルドから支給される簡易な地図を手に持ってひらひらと揺らす。
それからすぐに真剣な顔に戻ると、再び地図を睨みつけた。
「そうねぇ、たぶんこの坂道を登り切ったらエステパの町が見えてくると思うんだけど……たぶんね」
「たぶんってなんだよ、たぶんって。ったくよぉ、地図の一つも読めねぇのかよ。使えねぇなー」
「なによ、うっさいわねぇ!! そんなに文句があるんなら、次の目的地はあんたに決めてもらうからね!! その時はあたしもがっつり文句言ってあげるから、今から覚悟しておきなさいよ!!」
眉を跳ね上げてヒステリックにパウラがび始めると、もう片方の男冒険者――クルスが慌てたように宥め始める。
無ひげが目立つ厳つい顔を歪めながら、パウラに向かって必死に聲をかける。
「わ、わかった、わかったよ…… それにしてもこんな旅を一いつまで続ければいいんだよ。本當に見つかるのか? その魔ってヤツがよ」
突然慌てたように自分を宥め始めたクルスに向かってわざとらしくため息を吐きながら、パウラが話を続けた。
「――さぁ、知らない。でもこうして各地を旅して歩くだけで報酬が貰えるんだからいいじゃない。魔獣討伐に命を懸けるよりもよっぽどマシよ。報酬だって決して悪くないんだし」
「確かにそうだけどよ。でもよ、思うんだが、どうせ見つからないんだから、こうして真面目に旅なんかしないで、探したふりをしてもわからないんじゃねぇか? ギルドには適當に『見つかりませんでしたぁ』なんて報告すればいいだけなんだし」
「……あんたさぁ、もしもそんなのがギルドにバレたら、一どんなことになるかわかってるの? 下手したら永久追放よ。あんたこの先どうやって食べていくつもりなのよ」
呆れて答えたパウラの言葉を聞きながら、クルスは諦めたような顔をした。
その顔はこの旅ではもう何度も見る顔だった。
「まぁな……そん時は農夫にでもなるさ。でもよ、探している相手の別も年齢もわからないどころか、この國にいるかどうかすらわからないなんて、こんな無茶振りもないだろ? しかも『アニエス』ってぇ名前も出すなってんだからよぉ。一どうやって探すんだよ……」
「そんなの知らないわよ。それがギルドの依頼容なんだから。――ほら、そうやってまたぼやかない!! そんな暇があったら、きりきり歩く!! ほらほら、今夜も野宿したいの!?」
「わ、わかったよ…… お前最近怒りっぽいよな…… そうだ、久しぶりに今夜どうだ? しばらくご無沙汰だったろ?」
「嫌よ。もう何日も水浴びもしてないし。疲れているから今夜はぐっすり眠りたいの、あたしは!!」
「……へいへい、そりゃすいませんね」
話の容からわかる通り、彼らはハサール王國の冒険者ギルドに所屬する冒険者のクルスとパウラのペアだ。
今から約半年前、二人は王國の首都アルガニルにある冒険者ギルドから直々の依頼をけていたのだ。
その容は、ブルゴー王國が誇る宮廷魔師「アニエス」の捜索だ。
いまから約一年前、勇者とともに魔國へと遠征したアニエスは遂に魔王を打ち滅ぼすことに功したのだが、その帰り道で勇者たちとはぐれてしまった。
そしてそのまま行方不明となった彼を、ブルゴー王國が他國にまで手をばして捜索していた。
もちろんブルゴー王國の名前では他國では活できない。だから國境を持たない冒険者ギルドを通して複數の國へ捜索の依頼を出したのだ。
クルスとパウラのペアは決して戦闘力もギルドランクも高くはなかったが、優れた渉能力と捜索系の依頼の達率の高さを評価されてギルドから白羽の矢が立ったのだ。
もちろん彼らの他にも數組が依頼をけて國を捜索中だが、その中でも特にこの二人はギルドからの信頼も厚かった。
しかしその依頼容は、聞いた瞬間に思わず二人が「無理」と口走ってしまうようなものだった。
まず、捜索相手の年齢も別もわからなければ、そもそもこの國にいるのかすらもわからない。そしてそれだけではなく、相手の「アニエス」という名前も大っぴらに出してはいけないという。
それはその名がブルゴー王國宮廷魔師の名前であることが広く知られているからだ。
そして魔王討伐戦以降、彼が行方不明になっているのも有名だったし、それを他國まで捜索の手をばしているのが知られるのを、依頼者であるブルゴー王國もんではいなかったのだ。
そんなわけで、彼らは全く功するとも思えないような無茶な依頼をけて、ここ半年ほどずっと國を旅して廻っていたのだった。
パウラが予想した通り、彼らが山道の中腹を超えると今回の目的地である「エステパ」の街並みが見えてきた。
夕闇に浮かぶ微かな明かりを見つけた二人は、久しぶりに今夜はベッドで眠れるかと思うとホッとをなで下ろしていた。
「あぁ、本當かどうかは知らないが、隣村の小さなの子が『魔力持ち』だったらしい。なんでも最近覚醒したそうだ」
なんとか宿屋の付が開いている時間にエステパに辿り著けたクルスとパウラは、部屋に荷を置くと早々に食堂に出掛けた。するとその隣に數人の町人がって來ると、酒を飲みながらそんな噂話を始めた。
「へぇ。『魔力持ち』ねぇ…… まず滅多にお目にかかれないと言うが、それがこんな田舎から出るとはねぇ。それじゃあ、その子の將來は安泰だな」
「そうだろうな。これから國に召し上げられて、訓練のために首都に連れて行かれるんだろう」
「でもよ、両親もその子もし可哀想だと思わないか?」
「あぁ。その子はまだ四歳だっていうしな。うちの子もそれくらいだけど、そんな可い盛りの子供を両親から引き離すのはどうかと思うがね」
「まったくだ。子供にとっては親と一緒にいるのが一番だからな……」
この場にいる全員に同じくらいの年齢の子供がいるのだろう。
彼らは勝手に噂話を膨らませては同するような溜息を吐いている。
その頭の中では偶然魔力を覚醒させた四歳のの子が、そのを國に召し上げられて無理やり両親と引き離される姿を想像していた。
「もしもそれがうちの娘だったらと思うと、俺なら絶対に我慢できないね」
「あぁ、俺もだ。もしもうちの息子が――」
「おっと、兄さんがた。すまねぇが、その話を俺にも詳しく聞かせてもらえねぇか?」
そんな調子で數人の町人が食堂でうだうだと酒を飲んでいると、後ろからクルスが大柄なをねじ込んでくる。そして興味津々に全員の顔を見廻した。
「な、なんだよあんた、突然……」
突然割り込んできた大柄な男から思わずを引きながら、町人たちは怪訝な顔をした。決して人相が良いとは言えない無ひげの目立つクルスの顔は、なくない威圧があったのだ。
「おぉ、突然わりぃな―― おぉい、主人!! ここの全員にエールを一杯ずつ頼む」
「い、いや、そんな」
「いやぁ、これから話を聞かせてもらおうってんだ。報料だよ。まぁ、飲んでくれ」
「あ、あぁ。なんだか悪いな――あんた、冒険者か?」
「まぁな。ちょっと人探しをしていてな――」
「あぁー、お腹いっぱい!! もう食べられないわ。ふぅー」
隣の席でクルスが町人から報を仕れている間、パウラは久しぶりに食べたまともな食事にすっかり満足していた。
報収集は相棒に任せて、彼はのんびりと寛いでいるように見える。
しかしそんな風に見えて実は彼も隣の席で話される噂話をしっかりと耳にれていた。そしてその容は彼の興味を強く引いていたのだ。
隣村に住む四歳のの子が、ある日突然魔力を覚醒させた。
彼もその両親もそれまで魔法とは全く縁のない人間だったらしいが、それが突然変わったのだ。
しかも、すでにもうこんな所にまで噂が広まっているのにもかかわらず、彼らは未だに周りに知られていないと思っているようだ。
から「魔力持ち」が出た場合、速やかに國に屆けを出さなければならないのだが、彼らはそれもまだしていないという。やはりい我が子を手元から離したくないのだろう。
一般には知らされていない報だが、ブルゴー王國宮廷魔師アニエスは魔國からの帰還中に行方不明になったのではなく、実は魔王戦で死にかけて転生の魔法で生まれ変わったと言われている。
だから彼が転生した先の人間が突然魔力を覚醒させることは十分あり得るし、むしろそうなるのが自然だ。
彼ほどの強力な魔力持ちがその力を隠し仰せられるわけもなく、その存在はすぐに人に知られるところとなるだろう。
しかしそこに若干の違和をじる。
彼は何故自ら名乗り出ないのか。
彼が間違いなくアニエスであるというならば、即座に名乗り出てそのの保護を求めるはずだ。そして母國に帰ろうとするだろう。
などと、そんなことをパウラが考えていると、何処か楽しそうな顔をしたクルスが隣の席から戻ってくる。
そして徐(おもむろ)に口を開いた
「よう、パウラ。次の目的地が決まったぞ。オルカホ村だ。明日一番にそこに向かうぞ」
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