《【書籍版4巻7月8日発売】創造錬金師は自由を謳歌する -故郷を追放されたら、魔王のお膝元で超絶効果のマジックアイテム作り放題になりました-》第17話「アグニスの悩みを聞く(1)」
今日は2話、更新しています。
(予約の設定を間違えて、明日の分を公開してしまったのです……)
なので、今日、はじめてお越しの方は、第16話からお読みください。
「これで『魔王城案ツアー』はおしまいです。お疲れさまでした。トールさま」
數時間後、俺たちは自室に戻ってきた。
メイベルのおかげで、城のほとんどの部屋を回ることができた。
バルコニーでは、魔王領の景を楽しんで。
ドワーフの料理長が管理する廚房(ちゅうぼう)では、ふかしたイモをわけてもらって。々な調理道を見せてもらって。
図書室では、魔王領の歴史書を読ませてもらって。
魔王ルキエの執務室に寄ってあいさつをして。ついでに宰相のケルヴとも顔を合わせて。
魔王と上位の魔族、魔王城の賓客だけが使える風呂場に案してもらって (まだ風呂は沸いていないので、見學だけ)。
俺たちは、部屋に戻って來たのだった。
とりあえず、魔王領にはいろいろな種族がいることがわかった。
魔王陛下直屬の錬金師としては、その種族の特徴に合わせたアイテムを作る必要がありそうだ。このあたりはまだまだ研究しないと。
「々と參考になったよ。ありがとう。メイベル」
「どういたしまして。わからないことがあったら、なんでも言ってくださいね」
そう言って、メイベルは笑った。
「トールさまがこれから一番よく使われそうなのは……お風呂場でしょうか」
「そうだね。お風呂は好きだから、たまに使おうと思ってるよ」
「はい。あの場所は基本的に、自由に使っていただいて大丈夫です。ただ、り口に『使用中』の札が出ているときは注意してくださいね。ってすぐのところは、広い休憩スペースになってますので、他の方と出會うことも多いと思いますので」
「気をつけるよ。ありがとう」
「それと……將軍さまと、アグニスさまのことですけど」
ライゼンガ將軍と、その娘のアグニスさんか。
將軍に睨(にら)まれたのも気になるけど、アグニスさんの鎧(よろい)にも興味はあるんだよな。
「……トールさまには、お話しておいた方がいいと思うんです。実は──」
メイベルが言いかけたとき、ノックの音がした。
「失禮いたします。トール・リーガスさま。メイベル・リフレインはおりますでしょうか?」
「メイド長? し、失禮しますね。トールさま」
メイベルがドアを開けると、額に角の生えたメイドが廊下に立っていた。
「どうされましたか。メイド長」
「魔王陛下がメイベルをお呼びです。重要な相談があるそうです。『ティーカップは3人おそろいにした方がいいのではないか?』だそうですが……」
「もぅ。陛下ったら」
メイベルが笑みを浮かべて、トールを見た。
お茶會の話だろう。トール、ルキエ、メイベルの3人でティーカップをおそろいにするかどうか、メイベルに相談したいらしい。
「行っていいよ。メイベル。ちなみに俺はおそろいがいいと思う」
「承知いたしました。トールさま」
メイベルはメイド服のスカートをつまんで、一禮。
それからメイド長と一緒に、魔王ルキエの執務室の方へと歩き去った。
「それじゃ俺は、倉庫の整理でも──」
と思ったけど、今日は城を歩き回って疲れてる。
慣れない場所だからか、妙にくたびれた。汗もかいている。
著替えて、ゆっくりしたいところなのだけど──
「お風呂、使えるかな」
最後に案してもらった風呂場のことを思い出す。
あの場所は、自由に使っていいらしい。
魔王や上級魔族が使う場所だけれど、魔王ルキエは個人用の浴室があるし、上級魔族──たとえば、ライゼンガ將軍なんかは、川での水浴びで済ませてしまう。
だから滅多に使う者はいないと、メイベルは言ってた。
行ってみるか。
『使用中』の札が出てたら戻ってくればいい。
それに、せっかく魔王城の歩き方を教えてもらったからね。忘れないうちに復習しよう。
俺は著替えとタオルの準備をはじめた。
風呂場は魔王城の1階にある。
両開きの扉には『使用者なし』の札がかかっている。扉の橫には掲示板があり、そこには浴可能な時間と、主に使う人たちの名前が記されている。
お風呂が使えるのは午後6時から。それ以前は、行水なら可能。
6時から8時までの使用者はほとんどいなくて、8時以降は宰相のケルヴが使用する。
扉を開けると中は休憩スペース。その先が所になる。
左側が男湯で、右側が湯。ただし魔王陛下が使用される場合は、男湯・湯ともに使用不可になる。これは魔王の正を隠すためだろう。
あとは『酔っ払っての浴止』『鱗(うろこ)やい皮を持つ種族は、隣の人のを傷つけないように距離を取ること』『人魚は20分以上の潛水止。みんなが心配する』『使い魔との混浴止』──々と細かいルールが記されている。
今は6時ちょっと過ぎ。お風呂の使用可能時間。浴中の札はなし。
し考えてから、俺は風呂場のドアを開けた。
ドアを開けると、広い休憩スペースがあった。
寢椅子があって、壁際には水分補給用の水場がある。その向こうにはドアがふたつ。男それぞれの所へのり口らしい。
休憩スペースに人の気配はない。
思わずほっと息をつく。
これで落ち著いて汗を流せるかな──と、思ってまわりを見ると、床の上に鎧が落ちていた。
火炎耐を持つ鎧(よろい)だった。
ライゼンガ將軍の娘、アグニスさんが著けていたものだ。
近くで見ると、詳しい報がわかる。
この鎧には、『地屬』は2つ、付加されている。地屬を重ねることで強力な火炎耐を実現しているらしい。きやすいように、素材はやわらかめになってる。かなりの貴重品だ。
でも、やっぱり鎧の留め金がゆるんでいる。
おそらく、耐えきれないほどの火炎を浴び続けているのだろう。
修復したくなるけれど──この鎧の持ち主はライゼンガ將軍の娘さんだ。 勝手にれたらただじゃ済まない。
それに、置いてあるのは鎧だけじゃない。
鎧の隣には兜(かぶと)が、その後ろには手甲と腳甲もある。
持ち主はどこにいるんだろう?
風呂場のドアには確かに、『浴者なし』の札がかかってたはず。それに所はドアの向こうで、ここは休憩スペースだ。鎧をぐ場所じゃない。
そんなことを考えながらまわりを見ると……俺は休憩スペースの隅に、小さなドアがあること気づいた。
開きっぱなしのドアの上には『サラマンダーの湯わかし場』の文字がある。風呂のお湯は、この部屋で湧かしているらしい。
サラマンダーといえば火炎巨人(イフリート)の配下だ。
アグニスさんが訪ねて來てもおかしくない。
それに……晝間のライゼンガ將軍の様子を見ると、あいさつしないで素通りしたら怒りを買うような気がする。
お風呂を使わせてもらうんだから、せめて一聲かけるべきだろう。
そう思って、開いたままのドアに近づくと──
「こ、こら。いたずらしちゃだめだよ。もーっ」
はしゃぐような聲がした。
薄暗い部屋の中を、3のサラマンダーが飛び回ってる。
サラマンダーの大きさは1メートル前後。赤い鱗(うろこ)を持つトカゲで、背中にはコウモリのような羽がある。
深紅の炎をまとい、息をするたび、口と鼻から火炎が噴き出している。
サラマンダーたちの中心には、赤い髪を持つがいた。
炎を宿した髪を揺らしながら、踴るようにをかしている。
彼が手をばすたびに、指先から火炎が噴き出す。
炎はかまどに吸い込まれ、ぐつぐつという音と共に、釜(かま)から蒸気が噴き上がる。
釜からは金屬製の管がびている。方向からすると、風呂桶に繋がっているのだろう。なるほどああやってお風呂を沸かしているんだな。參考になるなぁ。
炎が強すぎると、湯沸かし役のサラマンダーが彼の頬をぴたぴたとなでる。
は「ごめんね。コントロールが苦手で」と笑いながら、かまどから距離を取る。
肩にとまったサラマンダーは、満足そうに「ぐるる」と聲をあげる。
の髪から浮かぶ炎と、サラマンダーの羽からあふれる炎が絡み合い、ひとつの炎になる。
それがうれしいのか、はサラマンダーを抱きしめる。やわらかいに包まれたサラマンダーが照れたように首をかしげるのを見て、俺は今さら、彼がなのに気づいた。
そりゃそうだ。
もサラマンダーもに炎をまとっている。火炎巨人の子孫と炎霊の炎に耐えられる服なんて存在しない。
炎をまとったの姿があまりに自然すぎて、彼がだって、しばらく気づかなかった。
きれいなもの──人もアイテムも機能も含めて──に夢中になってしまうのは悪い癖(くせ)だよな……そう思いながら俺は急いでドアの前から移する。
だけど、遅すぎた。サラマンダーはすでに俺の存在に気づいてた。
だから俺がいたとき、サラマンダーたちもいた。
彼らは一斉に俺の方を見て「ぐるる」と頭を下げた。
それを見たもドアの方を見て──俺と、目を合わせた。
深紅の目──ライゼンガ將軍と同じの目だ。
アグニスのが、桜に染まっていく。次いで朱に。深紅に。
恥に染まったそのからオレンジの鱗のようなものが浮き上がる。深紅の髪が炎のように持ち上がり──揺れて──炎を浮かび上がらせて──
「────っ!?」
アグニスの全から、炎が噴き出した。
「「「ぐるる────っ!!」」」
直後、サラマンダーたちがドアに當たりする。
火炎が湯沸かし部屋の外に出る寸前、鉄のドアがそれを食い止める。
それでもしだけ、火炎があふれ出したので、
「『超小型簡易倉庫』を起。火炎を収納!」
俺はポケットから、手のひらサイズの『簡易倉庫』を取り出した。
爪の先で倉庫のドアを開けると、しゅる、と音がして、火炎が吸い込まれる。
吸い込まれた火炎は『簡易倉庫』の中でしばらく燃え続けていたけれど──広い広い収納空間には燃え移るものもなく、すぐに消えた。
「うん。意外と使えるな」
『簡易倉庫』を作ったあと、念のため小型版も作っておいたんだ。
もちろん、能は大型の『簡易倉庫』と変わらない。
小さくても、中には広い収納空間がある。
火炎を吸い込むには十分だ。
「──あ、ああああああっ! なんてことを。魔王陛下のお客人に炎を。ど、どうしたら……」
ドアの向こうから、涙聲が聞こえた。
「す、すぐに回復師を呼ばないと……ああ。でも、お父さまになんと言えば……アグニスが、サラマンダーさんたちと遊んでいたことがばれたら……この子たちが罰(ばつ)を……」
「大丈夫ですから」
「……え?」
「こんなこともあろうかと、準備をしてたから、無事です」
俺はドアをノックしてから、聲をかけた。
「それと……すいません。つい見とれちゃって。聲をかけるのを忘れてました」
「……い、いえ」
「とりあえず、服を著てから話をしませんか?」
「あ、はい。あの、その、わたし……アグニスは……」
ドアの向こうから、戸うような聲。
「服は……そこにある鎧だけ、なので」
「鎧だけ」
「アグニスは、炎がうまくコントロールできなくて……火炎耐がないものは、につけてても、すぐ、燃えちゃう……ので」
「……なるほど」
晝間、『鎧を直したい』と言ったとき、ライゼンガ將軍が怒った理由がわかったような気がする。
アグニスさんは火炎巨人(イフリート)のを引いてるから、発火能力がある。でも、自分で炎をうまくコントロールできないらしい。
だから普通の服をにつけられない。すぐに燃え盡きてしまうからだ。
アグニスさんがにつけられるのは、火炎耐を持つ鎧だけ……ってことかな。
仮にそうだとすると、俺が鎧を直すためには、彼をにしなきゃいけない。
……そりゃライゼンガ將軍も怒るよな。初対面で『あなたの娘さんの下著をいじらせてください』って言ったようなものなんだから。
「俺は外に出てます。鎧を著終わったら呼んでください」
「…………はいぃ」
「「「ぐるるー」」」
ドアの向こうからはかすかな返事と、サラマンダーのうなり聲。
それを確認して、俺は廊下へと出たのだった。
第18話は、明日の午後6時ごろに更新する予定です。
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