《【書籍版4巻7月8日発売】創造錬金師は自由を謳歌する -故郷を追放されたら、魔王のお膝元で超絶効果のマジックアイテム作り放題になりました-》第31話「快適な寢をつくる」
「今回作るのはこれです」
俺はルキエとメイベルに、『通販カタログ』のページを開いた。
そこに掲載(けいさい)されていたのは──
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『最新型 抱きまくら』
最近枕が合わない、寢付きが悪い、そんなお悩みはございませんか?
それなら最新型の抱きまくらで、優しい眠りを験しましょう!
この抱きまくらは、魔法のような新素材で作られています!
表面はなめらかに、部は、包み込むようにやわらかく。
まるで大事な人を抱きしめているような覚を実現しました!
布地は人のように優しく、きめ細かに、自由にびみします!
部の特殊ビーズによって、お客さまの好きなように形を変えることもできます。
形狀は自由自在。あらゆるかたちに変化します。
毎日違う姿にするもよし、お気にりの姿にするもよし。
どんなふうに抱きしめるかは、あなた次第です!
あなたの心配ごとも悩みも、この抱きまくらがいやしてくれます。
大事な人が側にいないとき、どうぞ、この抱きまくらをお側においてください。
大好きな人と繋がっているような覚を、いつでも実できます!
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「「「……おおー」」」
俺とルキエ、メイベルは心しながら『通販カタログ』を見つめていた。
「なぁ、トールよ」
「はい。ルキエさま」
「これがどうして、余とトールが手を繋いで眠ることの代わりになるのじゃ?」
「俺はこの『抱きまくら』が、人の姿に変すると思っているからです」
「──な!?」
ルキエが目を見開いた。
「いや……確かに『大事な人を抱きしめているような覚』、『大好きな人と繋がっているような覚』とあるが、この『抱きまくら』が変するというのは考えすぎでは……」
「でも、この『抱きまくら』を見ていると、俺はある勇者の伝説を思い出すんです」
「勇者の伝説だと?」
「魔力をり、自由に姿を変化させていた……『形態変化(けいたいへんか)』の魔を使う勇者です」
「「──あ」」
ふたりとも、気づいたようだ。
かつて異世界から召喚された勇者の一部に、自由に姿を変える魔を使える者がいたことに。
「おった。確かにおったぞ。あやつは姿を変えて、魔王軍に潛したのじゃった」
「正がばれたら、ドラゴンに変したんですよね……。私も知っています」
「その勇者が使っていたのが『粒狀(つぶじょう)の魔力』でした。小さな魔力で、どんな形にもなり、どんなにも変化する魔力の塊です。勇者はそれで偽(にせもの)のを作り、著ぐるみみたいにかぶってたんです」
俺は『通販カタログ』を指さして、続ける」
「つまり『好きな形にできる特殊ビーズ』ですよね?」
「……た、確かに」
「言われてみれば……おっしゃる通りです」
伝説を思い出しているのか、ルキエとメイベルは真剣な顔でうなずいてる。
「あの勇者は正がばれたあと、偽りのが壊(こわ)れて、中から『粒(つぶ)のような魔力』が飛び散ったと言われておる……」
「トールさまはこの『抱きまくら』が、それと同じ能力を持っているとお考えなのですね?」
「うん。だから『通販カタログ』には、『魔法のような(・・・・・・)新素材(・・・)』って書いてあるんだ。その能力で『形狀は自由自在』『あらゆる姿に変化』するんだと思う」
変勇者の伝説は、帝國でもさんざん聞かされた。
その勇者が使っていた『魔力の粒』と同じように、この『抱きまくら』にも魔力で自由に配置を変えるビーズ──細かい粒がっているんじゃないかと思う。
だから、このカタログには『大事な人を抱きしめているような』って書いてあるんだ。
勇者の変能力は、家族でも見破れなかったって伝説があるからね。
「……確かに、勇者世界のアイテムが、ただの『抱きまくら』とは思えぬ」
「……では本當に、この『抱きまくら』には変能力が……?」
「それは作ってみればわかるよ。功すれば、この『抱きまくら』を俺の形に変形させて、ルキエさまは俺の手を握ったまま眠ることができますから」
「……ううむ」
「私は賛です! ぜひ、お手伝いさせてください!」
ルキエは難しい顔。
メイベルはやる気十分だ。
「陛下がご不要というなら……この『抱きまくら』はぜひ、私が使わせていただきたいです。トールさまがどんな抱きごこ──いえ、この枕がどんな抱き心地なのか、気になりますから」
「いやいや、トールの手を握って眠りたいと言ったのは余じゃから!」
なにか決心したように顔を上げるルキエ。
「なんだか當初の目的と違うような気もするが……許す! 寢心地のいい枕ができれば、魔王領のものたちもよく眠れるようになるじゃろう! そうすればみんな快適に過ごせるはずじゃ!」
「はい。ルキエさま」
「必要な素材は余が準備させる。やってみよ、トール!」
よっしゃ。許可が出た。
さっそく作り始めよう。
俺は必要な素材について、ルキエとメイベルに伝えた。
「持って來たのじゃ。取り出すぞ、トール……よいしょ」
しゅる、と、『超小型簡易倉庫』から、真っ白なシーツが飛び出した。
ルキエにお願いした、布の素材だ。
彼はメイドたちに命じて、余ったシーツを準備してくれたんだ。
「こちらも準備できました。トールさま!」
続けてメイベルが取り出したのは、樽(たる)にった豆(まめ)の殻(から)だ。
これはスララ豆と言って、軽くて中はスカスカで食べられない。
代わりに豆の殻(から)が、枕の中やクッションなんかに使われている。
魔王領にもあったみたいだ。よかった。
「ありがとうございます。ルキエさま。メイベル」
「他に必要なものはあるか?」
「なんでもおっしゃってください。トールさま」
「殘りの素材はこっちで用意しました。あとは見てて。それじゃ……魔石を用意して、と」
俺は宰相さんから準備してもらった魔石を、テーブルの上に並べた。
これらの魔石に、魔力は含まれていない。
魔力を使い切ったからっぽの魔石だ。今回はこれを使おう。
「それじゃはじめます。発──『創造錬金(オーバー・アルケミー)』!」
俺はスキルを起した。
まずはテーブルの上にシーツを広げる。
その上に、魔石を並べていく。
シーツと魔石を合して、魔力に反応する布を作ろう。
「──『素材錬(そざいれんせい)』」
ふるん。
スキルを発すると、シーツに乗せた魔石が震え出す。
氷が溶けるみたいに、薄く、広がって、シーツに溶け込んでいく。
よし。『素材錬』功だ。
『鑑定把握(かんていはあく)』すると──シーツを構する繊維(せんい)のひとつひとつと、魔石が融合してるのがわかる。魔力を注ぐと……思ったように、形を変える。
魔力に反応して『自由にびみする布』の完だ。
次にスララ豆の殻(から)にも同じことをする。
こっちも同じく『素材錬』して、っと。
「ルキエさま。ちょっとこの豆に手をかざしてみてください」
「う、うむ。こうか?」
「はい。それで、好きなかたちになるように念じて──たとえば、丸とか三角とか」
「丸と三角? 丸と三角………おおおおおおっ!? な、なんじゃこれは!?」
「豆の殻(から)が! 丸と三角になりましたよ!?」
よし。できた。
小さな豆の殻(から)は寄り集まって、思った通りのかたちになってる。
「いいみたいです。じゃあ、仕上げをしますね」
俺は『通販カタログ』の『抱きまくら』のページをじっと見つめる。
頭の中にイメージを焼き付けて──
「『抱きまくら』のイメージ図を展開!」
宣言すると、空中に半明の『抱きまくら』が浮かび上がった。
大きさは、俺の長と同じくらい。太さも、俺の回りと同じくらいでいいだろう。
俺はイメージ図を、テーブルの上に移させる。
置いておいたシーツと豆の殻(から)が、イメージ図に飲み込まれる。
シーツは抱きまくらの外側に、豆の殻(から)は中になる。
それと、『抱きまくら』がやわらかくなるように、水屬を付加しよう。
水はなめらかで、どんな形にもなることができる。
水屬を付加することで、同じような特を與えることができるから。
続けて通気が良くなるように、風屬も付加。
これで暑くて寢苦しい夜も安心だ。
ついでに抱きまくらカバーも作っておこう。
カバーには魔力を蓄積(ちくせき)する能力を付與する。
魔力には、その人ごとの特があるからね。誰かがカバーに魔力を注して『抱きまくら』にかぶせることで、形が変わるようになるはずだ。
最後に『創造錬金』で、これでいいか再確認。
うん……よさそうだ。じゃあ、仕上げといこう。
「実行。『創造錬金(オーバー・アルケミー)』──」
ふわさっ。
テーブルの上に、長さ約2メートルの『抱きまくら』が出現した。
「おおおおおおおおっ! す、すごいのじゃ……」
「これが勇者世界の……『抱きまくら』なんですね……」
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『抱きまくら (本)』(レア度:★★★★★★★★★★★☆)
(屬:水水・風)
魔力に反応する布と、魔力に反応する豆の殻(から)で作られた抱きまくら。
強い水屬により、なめらかなりと、自由な変形能力を持つ。
風屬により、すばらしい通気を持つ。
使用者の魔力や思考に反応して、形を変えることができる。
最高クラスの抱きまくらであり、普通の枕としても使用可能。
頭の下に敷けば首のかたちに沿って変形し、背中に敷けば、背骨のかたちに沿って変形する。
理破壊耐:★★★★★ (あらゆる衝撃を吸収してしまうため、とても壊しにくい。
耐用年數:5年
備考:丸洗いOK。
・オプション
『抱きまくらカバー』(レア度:★★★★★★★★★★★★★☆)
(屬:水水・風・)
強い水屬により、なめらかなりと、自由な変形能力を持つ。
風屬により、すばらしい通気を持つ。
屬により、表面のや模様を自由に変えることができる。
『抱きまくら』専用のカバー。
本よりも、魔力を溜める能力が高くなっている。
『抱きまくら』本にかぶせることで、抱きまくらそのものを、好きな姿かたちに変えることができる。
・使い方
(1)対象者がこのカバーにれて、魔力を注します。
(2)使いたくなったときに、カバーを『抱きまくら』にかぶせます。
(3)カバーと本が、魔力を注した人そのものに変わります。
変形持続時間:1時間。
魔力を注した人が近く (同じ建の中くらい)にいて、本人が同意した場合のみ、枕と本人の覚共有が可能です。
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「それじゃメイベル。実験につきあってくれる?」
「はい。トールさま。どうすればよろしいですか?」
「この『枕カバー』を持った狀態で、魔力を注いでくれればいいよ」
俺は無地の『枕カバー』を、メイベルに手渡した。
「そ、それでは、やってみますね」
メイベルはそれを、ぎゅ、っと抱きしめる。
彼が目を閉じると──『枕カバー』が白くり始める。
「トールよ。なにが起こっておるのじゃ?」
「布地に溶け込んだ魔石が反応してるんです」
「そうか! 魔石には、魔力を吸収する能力があるから──」
「はい。カバーがそれを吸収してるんです」
「魔力には個人の報も含まれている。だからメイベルの魔力を吸い込んだカバーをかぶせれば……『抱きまくら』がメイベルの姿になるということか……?」
「……うまくいくといいんですけど」
やがて『枕カバー』のが消えた。
十分にメイベルの魔力を吸収したみたいだ。
俺はそれをけ取って『抱きまくら』にかぶせる。
カバーの口を閉じると──
ふるふる。
『抱きまくら』が震え始めた。
を放ちながら、ゆっくりと、かたちを変えていく。
所要時間は、數十秒。
が消えると『抱きまくら』は、メイド服を著たメイベルに変化していた。
長も、流れる銀の髪も、本人そっくりだ。
真っ白な手足をばして、曲げて、テーブルに腰掛けてる。
「わ、私がいます! 陛下……私が、もうひとりいますよ」
「す、すごい。メイベルそのものじゃ。これが勇者世界の『抱きまくら』か……」
「しかも、私が思った通りにきます。右手を挙げて、左手を挙げて──すごいです。本當に、私にそっくり……」
「おそるべきは勇者の力──いや、すごいのはそれを実現してしまうトールか……」
「大功ですよ! トールさま。すばらしいです!!」
メイベルは目を見開いて、自分そっくりの抱きまくらを見つめてる。
ルキエもしてる。彼から見ても、『抱きまくら』はメイベルそっくりに変形してるみたいだ。
目の前にいるのは、メイベルそっくりの人型(ひとがた)。
しかも魔力を與えたメイベルの意志の通りにいてる。座ったり、両手を挙げたり。
『抱きまくら』は完した。
これを俺の姿に変えれば、一緒に手を繋いで眠るというルキエの願いも葉えられるはず。
だけど──
「──失敗だ」
「「えええええええっ!?」」
俺は敗北に打ちひしがれていた。
だめだ。
完はしたけれど、これは勇者世界の『形態変化』スキルの足元にも及ばない。
「ど、どうしたんですかトールさま! ちゃんと『抱きまくら』は私になってますよ!?」
「そうじゃ。これはメイベルそのものになっておる。なにが不満なのじゃ!?」
「……これは、メイベルのかわいさの半分も表現しきれてないんです」
確かに、外見はメイベルそのものだ。
でも、なにかが違う。
製作者である俺には、それがわかってしまうんだ。
「トールさま……? な、なにをおっしゃっているのですか!?」
「メイベルのかわいさの半分も……? え、え、えええっ?」
「俺は……初めてメイベルに出會ったとき、森の妖が現れたんだと思ったんです。こんなきれいな人が、この世界にいたのか。自分はまだまだ知らないことがいっぱいだ、って。それまで十數日間、馬車に閉じ込められていたことも忘れて、世界が広がったような気がしたんですよ」
「あ、あのあの。トールさま!?」
「い、いきなりなにを言っておるのじゃ!?」
「きらめく銀の髪と、白い。きれいな長い耳。でも、メイベルの魅力ってそれだけじゃないですよね?
魔王領の森の中で、俺が転ばないように手をさしのべてくれたやさしさとか、大事なペンダントがこわれても、俺を心配させないように笑ってくれるけなげさとか、そういうものもメイベルの魅力(みりょく)のひとつですよね?
そんなメイベルが側にいたから、俺は魔王領でもやっていけるかな、って思ったんです」
「──え、えっと。えっと。あのあの……!」
「う、うむ。むむむ」
「メイベルはいつも俺を支えてくれて、俺の実験にも付き合ってくれてます。がかわいたな、って思ったらお茶を出してくれて──いつも、俺を気遣ってくれて。そういうところなんですよ。メイベルの魅力って。そこにいてくれるだけで安らげるような……いてくれるだけで、うれしいなって思うようなところですね」
「……トールさま。も、もう、やめて。ゆるしてくださいぃ」
「……メイベルが照れてもだえるのは初めて見たぞ。貴重な経験じゃ……」
「で、そのメイベルの魅力が、この『抱きまくら』からは、あんまりじられないんです。
勇者世界のアイテムであるからには、やっぱりそういうところも表現されるべきですよね?
それができない俺はまだまだ未(みじゅく)なんです。
思わず『失敗』って言っちゃったのはそういうわけなんです。あ、でも『抱きまくら』のメイベルが可いことには変わりないですよ? ただ、本人の足元にもおよばないってだけで…………って、あれ?」
「………… (ぴくぴく。ぴくぴく)」
「……トール。もう許してやれ。メイベルが限界じゃ」
気づくと、メイベルがテーブルにつっぷしていた。
ルキエは片手で俺の肩を叩いて、片手で俺の口をふさごうとしてる。
それで俺も、自分が語り過ぎてたことに気づいた。
「……ご、ごめん。メイベル。つい……語りすぎたら止まらなくなったんだ……」
「…………は、はい。だいじょぶ、です。ドキドキしてる、だけです」
でも、メイベルはまだ顔を上げない。
テーブルにつっぷしたまま、片手でを押さえてる。
隣で『抱きまくら』のメイベルも同じようにしてる。
そっくりだけど、やっぱり違いは一目で分かる。本の方がかわいいからね。
やっぱり俺はまだ勇者には及ばない。
『形態変化』能力を使ってた勇者は、ドラゴンそのものにさえ変したことがあるらしいから。
そのときは、鱗の一枚一枚まで完全に再現して、その正をまったく気づかれなかったという。
それに比べれば、まだまだ俺は及ばないんだ……。
「というわけです。ルキエさま」
「なんの話じゃったっけ」
「いえ、この『抱きまくら』を使えば、ルキエさまは俺の手を握ったまま、自室で眠れるんじゃないかと」
「そういえばそうじゃった。そのために作ったのじゃよなぁ」
「どうしますか? 『枕カバー』をつけなくても、枕としてはかなり高機能だと思いますけど」
「……せっかくトールが作ったのじゃ。使わせてもらおう。でも!」
ルキエはなぜか、じっと俺の方を見て、
「『抱きまくら』とお主とでは、やっぱり違うのじゃからな! 本の方がずっと……その……余にとっては大事で、重要人なのじゃ。わ、忘れるでないぞ!」
「……は、はい」
俺は思わずうなずいた。
「……面と向かって言われると、恥ずかしいですね」
「メイベルの気持ちがわかったか」
「わかりました。じゃあ、次は『抱きまくら』をルキエさまの形にして──」
「また語るつもりじゃろう!? お主は余の心臓を止める気か!?」
そんなわけで、ルキエは『抱きまくら』『枕カバー』のセットをもらってくれた。
とりあえずは『メイベル型』になってたのを元に戻して、代わりに俺の魔力を注。
あとは、寢る前に『枕カバー』をつければ、俺のかたちになるはずだ。
「……陛下。お願いがあるのですが」
「よいぞメイベル。今夜は一緒に寢るか?」
「わ、わかっちゃいましたか?」
「うむ。右手と左手、どちらが良いか決めておくがいい」
「はい。陛下」
「余も……久しぶりにメイベルとゆっくり話がしたかったからの。ちょうどよい」
「ありがとうございます。陛下!」
こうして、俺が製作した『抱きまくら』『枕カバー』の2點セットは、無事、ルキエに引き取られていった。
カバーをかけるまでは、ただの無地の『抱きまくら』だから、ルキエが自室に持ち込んでも問題なしだ。
メイベルがルキエの部屋に泊まるのも、メイド長に申請を出せば可能らしい。よかった。
ふたりとも、よろこんでくれてよかった。
作ったマジックアイテムをよろこんでくれるのは──うれしいな。
帝國や親父がなにをしようと、これが俺の仕事だ。
魔王領にこういうアイテムを普及させていって、ここをもっと快適な場所にする。
それが俺の仕事で、やりたいことだ。
帝國のことは、もう関係ない。
俺は自分の仕事ができて、それをよろこんでくれる人がいればいいんだから。
「さてと」
夜までにはまだ時間がある。
それまでに何枚か、魔石を溶かした布を作っておこう。
この素材は、抱きまくら以外にも使い道があるかもしれないからね。
そんなことを考えながら、俺はまた素材の錬(れんせい)を始めたのだった。
第32話は、明日の午後6時ごろに更新する予定です。
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