《【書籍版4巻7月8日発売】創造錬金師は自由を謳歌する -故郷を追放されたら、魔王のお膝元で超絶効果のマジックアイテム作り放題になりました-》第33話「新素材のプレゼンテーションをする」

數日後。

俺は新素材のプレゼンテーションをするため、玉座の間に來ていた。

この前『創造錬金(オーバー・アルケミー)』でアイテムを作ったとき、新しい素材を錬(れんせい)できた。

それが意外と使えそうだったので、今回、魔王城の人たちに見てもらうことになったんだ。

「よくぞ參った。トール・リーガスよ。皆、そなたの來るのを待っておった」

正面には、仮面の魔王ルキエ・エヴァーガルドが座っている。

側で控えているのは、宰相のケルヴさんだ。

俺は赤い絨毯(じゅうたん)の上に膝をつき、発言の許可が出るのを待っている。

斜め後ろにはメイベルがいる。彼には助手として一緒に來てもらった。

俺とメイベルの左右には、數名の文と武が立っている。

エルフやミノタウロス、ドワーフもいる。

みんな、興味深そうに俺を見てる。正確には、俺がここに持って來た荷を。

「他の者も、集まってくれたことに謝する」

仮面をかぶったルキエは、皆を見回して言った。

「錬金師(れんきんじゅつし)トールが、皆に見てもらいたいものがあるというのでな。それが仕事の助けになればと思い。集まってもらったのじゃ。では、トール・カナ──いや、トール・リーガスよ、説明を始めるがよい」

「ありがとうございます。陛下」

俺は魔王ルキエに頭を下げた。

「魔獣討伐(まじゅうとうばつ)に向かう前の貴重なお時間をいただいたこと、謝しています。陛下、宰相閣下、お集まりの皆さま」

「うむ。今回はなにを見せてくれるのか、楽しみにしておる」

仮面を被ったルキエが、俺の方に顔を向けた。

「お主の作った『レーザーポインター』は、すでに今回の魔獣討伐で使うことが決定しておるが、その他にも新しいアイテムを作ったのか?」

「いえ、今回お持ちしたのは『新素材』です」

「新素材、とな?」

「そうです。『抱きま──』いえ、先日アイテムを作る過程で、新しい素材ができあがったのです」

「なに? あの『抱きま──』いや、アイテム製作の過程で、新素材ができた、と?」

「はい。今日は、それが実用に足るものかどうか、皆さまに見ていただきたいと思いまして」

俺は周囲を見回した。

宰相(さいしょう)ケルヴさんは、真面目な顔でうなずいている。

忙しい中、宰相さんはプレゼンの許可をくれた。いい人だ。

他の文・武たちも、興味深そうにこっちを見てる。

俺はメイベルに合図する。

は俺と一緒に立ち上がり、手にしていた包みを、玉座の前に置かれた臺に載せた。

それから、一禮して後ろに下がり、また、膝をつく。

公式の場で魔王にアイテムを見てもらうときは、こういう手順になっているらしい。

さすがにこの場で『超小型簡易倉庫』からアイテムを出すわけにはいかないからね。

「臺の上にあるのは……布か? 4枚もあるのか」

「……4枚もあるのですか?」

ルキエの聲に続いて、宰相ケルヴのあきれたような聲。

そういえば素材の數を伝えてなかったね。

この4枚の布が『抱きまくら』を作る過程で開発した新素材なんだ。

「これは魔石を溶け込ませた布で、名付けて『魔織布(ましょくふ)』と申します」

「魔石を溶け込ませた布……じゃと」

ルキエがはっとした顔になる。

気づいたみたいだ。

これは『抱きまくら』を作るときに錬(れんせい)した布と同じ種類のものだってことに。

「『魔織布』ですか。聞いたことのない名前ですね」

宰相さんは、不思議そうな顔をしてる。

さんや武さんも、『魔織布』を興味深そうに見てる。

この『魔織布』は『素材錬(そざいれんせい)』で魔石と合して、屬を付加したものだ。

簡易版だから『抱きまくら』のように変形したりはしない。

ただ、魔力に反応して、ちょっとした効果が出るようになってる。

「陛下の前(ごぜん)にあるのは、4枚の『魔織布(ましょくふ)』です。それぞれ『地・水・火・風』の屬を加えてあります。わかりやすいように、茶・青・赤・緑の染料で印(しるし)をつけてあります。ご確認ください」

俺は言った。

陛下と宰相ケルヴがうなずく。

俺は続ける。

「『地・水・火・風』それぞれの『魔織布』は、わずかな魔力に反応して、効果を発揮するようになっています。主な効果は次の通りです」

──────────────────

『魔織布(ましょくふ)』 (新素材)

魔石と合することで完した布。

が常に発している魔力に反応して、効果を現す。

・魔織布 (地屬

『地屬』の効果で強度アップ。

どんなに引っ張ってもちぎれない。

耐火効果もあり、たき火にかぶせると消火もできる。

・魔織布 (水屬

『水屬』の効果で(じゅうなんせい)アップ。自由にかたちを変える。

に沿って形を変えるため、きをまったくさまたげない。

服を作るのに適している。水著にもぴったり。

・魔織布 (火屬

『火屬』の効果で、保溫効果アップ。

どんなに寒い場所でも溫が逃げずに、溫かく過ごせる。

カーテンに使えば、寒い冬でも快適。

・魔織布 (風屬

『風屬』の効果で、通気アップ。

暑い場所でも涼しくすごせる。汗もすぐに蒸発する。

洗濯して生乾きのものでも、著ているうちに乾いてしまう。

──────────────────

「──以上です」

4枚とも、効果は確認してある。

魔石を溶け込ませて屬を付加しただけだけど、意外と使えそうだ。

錬金師(れんきんじゅつし)の仕事は、アイテムを作るだけじゃない。

こうやって新素材をみつけて、使ってもらうのも仕事のうちだ。

気にってくれるといいんだけど……さぁ、どうかな。

──俺はしばらく視線を落としたまま、反応を待った。

玉座の間には、しばらく、沈黙が落ちた。

最初にルキエがそれぞれの布にれて、それから、宰相ケルヴに渡す。

さらに布は文、武たちの手に渡っていく。

そうして、全員の手に渡った後で──

「「「「おおおおおおおおおおおっ!?」」」」

玉座の間に、歓聲が満ちた。

「な、なんと……われらミノタウロスの力で引っ張っても……ちぎれない。この『地屬』の布は、なんと丈夫なのですか……これなら、矢も通らないのでは……」

「ご覧なさい、この『水屬』の布のなめらかさを。われらエルフの(やわはだ)にはぴったりだ。川に済む人魚たちも、泳ぐのに邪魔にならない布を求めていた。これならば満足するだろう!」

「保溫の『火屬』と通気の『風屬』……なるほど。『風屬』は、暑い中で料理するのによさそうです。『火屬』の保溫効果があれば、冬の作業も快適ですな。これで服を作りましょう! 我らドワーフも、腕のふるいがいがある。ありがとうございます。トールどの!!」

みんな『魔織布(ましょくふ)』にれながら、うれしそうな聲をあげてる。

よかった。

気にってくれたみたいだ。

やっぱり、いいな。自分が作った素材をよろこんでもらうのって。

自分が作った素材が普及して、人の暮らしが変わっていく。

これが錬金の醍醐味(だいごみ)なんだ。

「皆の者。靜まるがいい」

不意に、ルキエの聲が響いた。

騒いでいた文、武たちが、ぴたりときを止める。

みんな宰相さんに布を渡して、それぞれの位置へと戻っていく。

「トール・リーガスの作りし『魔織布(ましょくふ)』は、確かにすばらしいものじゃ。じゃが、一気に皆が使い始めるというのも無理がある。新しいものを、すべての者がれるのは難しいからな」

仮面を著けたまま、ルキエが言った。

「まずは數の者が使ってみて、使い心地を確かめるのがよいと思うのじゃが。どうか」

「同でございます。陛下」

ルキエの言葉を、宰相ケルヴが引き継いだ。

「まずは試用の機會を設けるべきかと思います」

「とのことじゃ。錬金師トールよ。なにか意見はあるか?」

「でしたら、魔獣討伐の際に使っていただけないでしょうか」

俺は膝をついたまま、言った。

「近いうちに鉱山地帯で、魔獣討伐が行われると聞いています。そこは近くに火山もある、暑い場所だとか。風の『魔織布(ましょくふ)』で服や下著を仕立てていただければ、兵の皆さんも、多は涼しく過ごすことができるかと思います」

「……なるほど」

「良案だと考えます」

ルキエと宰相ケルヴがうなずく。

橫を見ると、武のミノタウロスさんが目を輝かせて、首を縦に振ってる。

現場の人も同みたいだ。

「よかろう。ならば、こちらで素材となる布を用意する。出発までに風の『魔織布(ましょくふ)』を用意せよ。できるか──いや、できそうじゃな。うれしそうな顔をしているものな。あんまり無理はするなよ……ちゃんと休むのじゃよ?」

「陛下(へいか)陛下」

宰相ケルヴが慌ててたしなめる。

ルキエ、地が出ちゃってるからね。

「そ、それと……これは個人的な興味で聞くのじゃが」

ごまかすようにルキエは咳払(せきばら)いして、

「『地・水・火・風』の『魔織布(ましょくふ)』があるのはわかった。じゃが、基本屬の『』『闇』の『魔織布』はないのか?」

「陛下。トールどのといえども、そこまでは……」

「そうじゃな。『地・水・火・風』の4屬を備えた布を作っただけですごいのじゃ。まさかそれ以上のものを……ん?」

気づいたようだ。

俺とメイベルが、今日はマントを著けていることに。

もちろん『』と『闇』の『魔織布』も作ってある。

念のため、マントの形にして著けてきてるんだけど──

ただ……これは、あんまりすごい効果じゃないんだよな。

だから、聞かれなかったら、そのまま黙っていようと思ってたんだ。

でも、しょうがないよなー。魔王陛下、気づいちゃったんだもんなー。

直屬の錬金師として、作ったものをにしておくわけにはいかないよなー。

魔王陛下の錬金師として、そんな失禮なことはできないよなー。

しょうがないなー。不本意だけど、公開しよう。

「メイベル。お願い」

「はい。トールさま」

メイベルがマントを外して、手に捧げ持つ。

「陛下。こちらが『闇屬(やみぞくせい)』の『魔織布(ましょくふ)』です」

にそっくりな、真っ白なマント。

それが一瞬で、黒に染まっていく。

「おお! これは……」

「これが、闇屬の『魔織布』ですか……」

「これは魔力に反応して、『を吸収する効果』を発揮する『魔織布』です」

俺はルキエと宰相さんに説明した。

闇屬の『魔織布』は、文字通りに闇に染まる布だ。

魔力を注ぐと、を吸収するようになる。

だから、真っ黒に見えるんだ。

さすがに吸収率100パーセントまでとはいかないから、微妙に布地が見えるんだけどね。

「完全にを吸収するようになれば、この布で闇に姿を隠すことができるんですけど……殘念ながら、今はこれが一杯です」

俺は言った。

「現在のところ、使い道は暗幕(あんまく)……つまりを遮(さえ)るカーテンくらいですね。これを窓辺につるしておけば、真っ晝間でも部屋が暗くなるので、のんびり晝寢ができると思います」

「晝寢用か……」

「あるいは、夜行の種族の方には、ちょうどいいかと」

「なるほど。では『』の布は、どうなるのじゃ……?」

「これは失敗作でした……」

俺は自分のマントを外した。

魔力を込めると──

「「「「明になった!?」」」」

「そうなんです。をほとんど通すようになっちゃうんです」

俺はの『魔織布(ましょくふ)』を、ルキエに向かって差し出した。

の『魔織布』は、半ば明になってる。

こっちも、完全にを通すわけじゃない。せいぜい80パーセントくらいだ。

手元に布があるのはちゃんとわかる。わかるんだけど……。

「ただ、使い道はないですね……」

俺が言うと、ルキエはの『魔織布』を見ながら、首を橫に振り、

「いや、明になれるのであろう? ならば、使い道はあるのでは……?」

明になるのは布だけなんです、陛下。中の人はそのままです」

「では、これで服を作ったら?」

「著てないのと変わらない狀態になりますね。それはまずいので、別の『魔織布』も作ってみました」

「他にもあるのか!?」

「はい。これは趣味(しゅみ)で作ったものなので、皆さまにお見せするのは恥ずかしいのですが……」

俺はの『魔織布』の下につけていた、もう一枚の布を取り外した。

「これは布に『』と『闇』の両方の屬を付加したものです」

手の中にあるのは、真っ白な『魔織布』だ。

失敗作だからね。あまり、人に見せたくはないんだけど……。

と闇の両屬とはめずらしいですな、トールどの」

宰相さんは興味深そうに、『・闇』の『魔織布』を見てる。

さっきからの様子を見ていると、宰相さんは、意外とこういうマジックアイテムが好きみたいだ。『魔織布』も、何度も手にとって確認してくれてるし。

額に汗がにじんでるのが、妙に気になるけど。

「この『両屬(りょうぞくせい)魔織布(ましょくふ)』には、どんな効果があるのですかな?」

「なんだかよくわからない確率で、真っ黒か明になります」

俺は布に魔力を注いだ。

・闇の『魔織布』が明になった。

布を空中に投げ上げて、魔力をカット。

落ちてくるのをけ止めると、今度は真っ黒になった。

明、真っ黒、真っ黒、真っ黒、明黒明黒黒明。

・闇の『魔織布』は、魔力にれるたびに変わっていく。

その変化は完全に不規則(ランダム)だ。

作ったとき、メイベルと一緒に計測してみたけど、法則は一切なかった。

「と、いうわけです」

俺は落ちてきた・闇の『魔織布』をけ止めた。

「殘念ながら、ふたつの屬を加えたものは能力が安定しないのです。また、屬ひとつを付加したものに加えて、作るのに時間がかかります。今のところ、実用は低いかと思います」

「そうですね……面白い素材ではありますが」

目を丸くしているルキエの代わりに、宰相さんが言った。

「私などでは使い道は思いつきません。トールどのは、なにかありますか?」

「そうですね。これで作った服を『魔力で黒くなる貴重な服』だと偽(いつわ)って、嫌いな人に送りつけるくらいですね」

「妙なトラップを考えないでください」

怒られた。

その時俺が向いていたのは、帝國のある南の方角だったけど。

父親の──バルガ・リーガスの名を騙(かた)って、・闇屬『魔織布の服』を帝國の大臣にでも送りつけてやろうかと思ったんだけどなー。

さすがに無理か。

「そ、そうじゃな。と闇の『魔織布(ましょくふ)』には、今のところ使い道がなさそうじゃな」

玉座の上で、ルキエがつぶやいた。

「じゃが、地・水・火・風の4屬のものには、有用な効果があるようじゃ。やはり、お主は魔王領にすばらしいものをもたらしてくれるのじゃな。本當に、この魔王領も……余も、良い方に変わっていくような気がしておる……」

ルキエが言うと、まわりのミノタウロスさん、エルフさん、ドワーフさんたちから同意の聲があがる。

みんな喜んでくれたみたいだ。

……プレゼンテーションは功だ。よかった。

「では、トール・リーガスよ、お主の希を葉えよう。風の『魔織布』で服を作り、それを魔獣討伐に使用することとする」

「ありがとうございます。陛下」

「報酬(ほうしゅう)はのちほど、宰相ケルヴの方から屆けさせよう。それと……各部隊で『魔織布』の下著と服を使用した者は、のちほどトール・リーガスにレポートを提出するように」

そう言って、ルキエはし考えたあと、

「それと、トールには『魔織布(ましょくふ)』を作ったあとで休暇(きゅうか)を與える。お主は、ここに來てから続けざまに々作っておるからな。息抜きに、ライゼンガの領地へ遊びに行くがよい。あそこは溫泉もある。のんびりできるじゃろう」

「私も同です。トールどの」

宰相ケルヴが続ける。

「將軍の領地に、あなたの工房を作ることになっていますからね。場所の下見に行かれるとよいでしょう。我々が魔の討伐に向かう際に同行されるのをおすすめします。そうすれば宿や荷の心配もないですからね。マジックアイテムのことは忘れて、のんびりと旅をしてください……」

「わかりました」

俺はルキエと宰相さんに向かって一禮。

「陛下と宰相閣下のご厚意に謝いたします。また、これらの素材が、皆さまのお役に立てば幸いです」

こうして『魔織布(ましょくふ)』のプレゼンテーションは、無事に終了した。

魔王領では風の『魔織布(ましょくふ)』を、魔獣討伐に使ってくれることになり──

俺はしばらくの間、素材の錬(れんせい)を続けることになったのだった。

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