《【書籍版4巻7月8日発売】創造錬金師は自由を謳歌する -故郷を追放されたら、魔王のお膝元で超絶効果のマジックアイテム作り放題になりました-》第35話「『魔獣ガルガロッサ』討伐作戦(2)『帝國側の出來事』」

──約1時間前、帝國からやって來た兵士たちは──

「作戦の目的は魔王領の者たちに帝國の強さを示すことにある」

兵団の本陣で、軍務大臣のザグランがんだ。

ここは、魔王領山岳地帯の近くにある巖場。

なだらかな平地になっていて、南に下ると帝國との境界地域にる。

魔王領との合流地點からは、かなり離れた場所だ。

帝國の兵団は、ここに陣地を作っていた。

彼らが到著したのは數時間前。

駐留(ちゅうりゅう)のための天幕(テント)を張ることもなく、魔王領に到著の知らせを告げることもなく──帝國の兵団はすでに、魔獣討伐(まじゅうとうばつ)作戦を開始していたのだった。

「魔王領での魔獣討伐(とうばつ)は得がたい経験である。帝國の強さを見せつける他にも、魔王領に恩を売る意味もある。また、今回の戦は勇者が行っていた通り、敵を包囲(ほうい)しての各個撃破(かっこげきは)だ。魔獣討伐の良い訓練となろう」

「「「はっ!!」」」

「それではリアナ殿下、お言葉をお願いいたします」

軍務大臣ザグランに導(みちび)かれ、第3皇リアナ・ドルガリアが前に出る。

リアナ皇は15歳。やや細で、小柄なだ。

が兜(かぶと)をぐと、長いプラチナブロンドが現れ出る。

にまとっているのは、銀の鎧。この戦いのために作らせた一級品だ。

帝國の紋章(もんしょう)が刻まれたしい鎧に、兵士たちは嘆(かんたん)のため息をつく。

だが、鎧(よろい)のしさも、彼が両手で握りしめている大剣には敵わない。

リアナ皇が手にしているのは『聖剣ドルガリア』。

かつて、異世界からやってきた勇者が使っていた剣だ。

この剣の能力を引き出すためには、強力な『の魔力』を必要とする。

そして、リアナ皇は、それにふさわしい魔力の持ち主だ。

の強すぎる『の魔力』によって、崩壊(ほうかい)してしまった魔法剣もあるほどだ。

だから、帝國と魔王領が共同で魔獣討伐をするという話が來たとき、帝國の首脳部は考えた。『これは魔王領のものたちに帝國の強さを見せつける好機だ』──と。

魔王領が手こずる魔獣を、大兵力をもって一蹴(いっしゅう)する。

さらに魔王領の者たちに、偉大なる聖剣のを見せつける。

それが、帝國首脳部の計畫だった。

その結果、リアナ皇は教育係であるザグランや兵士たちと共に、魔王領の山岳地帯までやってきたのだった。

「火山からは距離があるが、ここはまだまだ暑い場所です。皆は、疲れてはおりませんか?」

リアナ皇が聲をかけると、兵士たちから聲が返ってくる。

「──否(いな)!」

「──我らは力に満ちている!」

「──皇殿下はわれら兵士の力をお疑いか!?」

──と。

軍事大國ドルガリア帝國にふさわしい、勇猛果敢(ゆうもうかかん)な兵たちだ。

その意気はうれしく思う。が、この地はとにかく暑い。

リアナ皇も鎧(よろい)の下は汗だくだ。

だが、著替えをする時間はない。すでに作戦は始まっているのだ。

それに、條件は魔王領の兵団も同じはず。

だからリアナ皇は兵に向かって聲をあげる。

「帝國の実力を、魔王領の者たちに示しましょう。かつての勇者と魔王がそうであったように、魔王領の者たちは、勇者を國の礎(いしずえ)とするドルガリア帝國には勝てないのだと。悪の魔獣を倒すのは、勇者を崇める帝國の使命であることを」

リアナ皇は兵たちに示すように、高々と聖剣を掲げる。

すべての兵たちは地面に膝(ひざ)をつき、異世界勇者が殘した剣に敬意を示す。

そうして帝國の兵団は次の行に移ったのだった。

「こちらの兵數は300名。兵力としては十分でしょう」

軍務大臣ザグランはヒゲをなでながら、つぶやいた。

作戦はすでに開始された。

今は『先遣部隊(れんけんぶたい)』の連絡待ちだ。

その間に軍務大臣ザグランとリアナ皇は、最後の打ち合わせをしていた。

「魔王領からの報では『魔獣ガルガロッサ』の配下の小蜘蛛は、20から30匹。小蜘蛛といえども人間サイズです。やつらには1匹につき、兵10人で當たることにします」

そう言って、軍務大臣ザグランはにやりと笑う。

「これで勝てるでしょう。もっとも、これは魔王領には不可能な戦ですが」

「魔王領はそれだけの兵を出せないと?」

「あちらは人口がないですからな。それに、多種族の寄せ集めでもあります。統一した行は取れないでしょうな。でなければ、共同作戦の提案などれるはずがありますまい」

それが、軍務大臣ザグランの予想だった。

魔王領が連れてくる兵力は、おそらく100名にも満たないだろう。

こちらがその3倍以上の兵力で魔獣を圧倒すれば、帝國の強さも伝わるはずだ。

「ですがザグラン。魔獣は本當に、ここまで來るのですか?」

軍務大臣の橫で、リアナ皇がつぶやいた。

「ずいぶんと時間がかかっているようです。先遣部隊は命令通りにいているのでしょうか」

の表に不安げな様子はない。

ただ、作戦通りに事が進まないのが不快なのだろう。

「ご安心ください。今、數名の者が魔獣の巣に近づき、奴らを挑発(ちょうはつ)しているはずです」

「先遣部隊(せんけんぶたい)の者たちの腕は確かなのですか?」

「部隊には罪をけ、罰(ばつ)を待っている貴族も含まれております。今回の戦いで功績(こうせき)を立てれば、罰を軽減する約束です。おそらくは、必死に使命を果たそうとするでしょう」

帝國の兵団は陣を敷き、魔獣が來るのを待ちけている。

彼らは數名の兵士を使い、『魔獣ガルガロッサ』と小蜘蛛を、ここまでおびき出そうとしていた。

魔王領の部に大兵力を送り込むわけにはいかない。

あちらはどうか分からないが、帝國側に魔王領に攻め込む意志は──今のところは、ない。『侵攻の意志あり』と誤解されても困る。

そもそも、魔獣の巣のあたりは巖だらけで、大兵力は展開できない。

だから彼らは自分たちが有利な地點まで、魔獣をおびき出す作戦に出たのだった。

「殿下、今後の手順はおわかりですね?」

「兵士たちが小蜘蛛(こぐも)を取り囲み、きを封じる。その隙(すき)にわたくしが『魔獣ガルガロッサ』に聖剣の一撃を浴びせる、ですね?」

「本を倒せば、殘るは小蜘蛛のみ。兵士たちは自の訓練──レベリングに努めることができるでしょう」

ささやくような聲で、軍務大臣ザグランは言った。

「殿下は特に、魔力殘量にご注意を」

「わかっています。ザグラン」

「また『聖剣ドルガリア』の発には多くの魔力を必要とします。『聖剣の刃(フォトン・ブレード)』を発できるのは2度……いえ、最大威力なら1度とお考えください──」

「何度も言われずともわかりますよ。ザグラン」

プラチナブロンドをひるがえして、リアナ皇は聲をあげた。

「今回の戦いには魔王も來るのでしょう? 魔族の王の前で、わたくしがぶざまな姿をさらすわけにはいきませんからね。帝國の名において『聖剣ドルガリア』を使いこなしてみせましょう」

「殿下。くどいようですが、(おんみ)を大切に──」

軍務大臣ザグランが話を続けようとしたとき──

「來たぞ!! 巨大魔獣(きょだいまじゅう)と小蜘蛛(こぐも)の群れだ────っ!!」

兵士たちのび聲があがった。

的に、リアナ皇と軍務大臣ザグランが、それぞれの剣を構える。

ふたりは張した顔で、うなずきあう。

戦闘が始まれば、話は終わり。

ただ戦い。目的を果たす。強者を目指す。それがドルガリア帝國のやり方だ。

「來ました。『先遣部隊(せんけんぶたい)』の者たちと、魔獣たちです!」

「──見えておりますよ。ザグラン」

山の方から帝國の陣地に向かって、歩兵と弓兵が走ってくる。

魔獣の巣に送り込んだ先遣部隊だ。

それを追いかけて、大量の魔獣たちがやってくる。

最初に見えたのは、人間サイズの蜘蛛だった。

の手足。甲羅のようなものに覆(おお)われた。複數の、真っ赤な目。

魔獣の配下の蜘蛛(くも)たちだ。

小蜘蛛たちの後ろから、小山のような影が、ゆっくりとこちらに向かって來る。

『魔獣ガルガロッサ』だ。

までの高さは數メートル。

すべての腳をばせば、その幅は數十メートルを超えるだろう。

赤い目玉の直徑は人は手腳の長さくらい。その口は巖をも砕くと言われている。

なによりおそろしいのは、奴が飛ばしてくる糸だ。

あの魔獣どもは勢いよく発した糸を、そのまま獲に巻き付ける。

そうしてきを封じた上で、引き寄せて殺すのだ。

「あれが『魔獣ガルガロッサ』……」

リアナ皇は聖剣を握りしめた。

「先遣部隊は無事──いえ、數がないようですが……?」

「魔王領に迷い込んだか……それとも、単獨で小蜘蛛を倒して功績(こうせき)を挙げるつもりか……」

軍務大臣ザグランは歯がみした。

「……面倒ごとを増やした者がいるようです。あとで救援(きゅうえん)を出しましょう」

「彼らは大丈夫なのですね?」

「弱きものは貴族にはなれませんよ。それより殿下、前線に向かいますぞ!!」

リアナ皇と軍務大臣ザグランが走り出す。護衛の兵士たちも一緒だ。

前線では、すでに兵士たちが小蜘蛛と戦っている。

作戦通り、10人ひとかまたりで小蜘蛛に立ち向かい、素早く取り囲んでいく。

帝國の作戦はシンプルだ。

最初に、後衛の魔法兵と弓兵が、遠距離から敵を攻撃する。

敵がひるんだ隙に、歩兵たちが小蜘蛛を集団で取り囲む。

その後、弓兵と魔法兵は『魔獣ガルガロッサ』本に攻撃を集中させる。

『魔獣ガルガロッサ』のきを止めたあとは、リアナ皇と軍務大臣ザグランの出番だ。

が魔獣を倒せなくてもいい。聖剣で、大ダメージを與えさえすればいい。

目的は『魔王がてこずる魔獣を、皇の聖剣が切り裂いた』という事実だ。

その後、兵が魔獣を倒そうと、魔王領の兵団がとどめを刺そうと、どうでもいい。

重要なのは聖剣の力を示すこと。

帝國が強力な力を持つことを、魔王領の者にわからせることなのだから。

「うおおおおおおおっ!!」

「皇殿下のために。帝國のために!!」

「魔族の連中に、帝國の強さを見せつけてやれ──っ!!」

兵士たちがんでいる。

おそらく彼らは、戦闘経験のない者たちだ。

彼らには小蜘蛛にとどめを刺すことでレベルアップしてもらわなければいけない。

「──防。『ノックバックキャンセル』。続けて防。支援をどうぞ」

「──凍結魔で糸のきを停止。攻撃どうぞ」

「──包囲に功。剣士部隊は攻撃を続行!!」

練(じゅくれん)の戦士たちは、淡々(たんたん)と戦闘を続けている。

小蜘蛛たちは包囲されつつある。

奴らの數は20弱。1匹を10人で囲んでも、兵力には余裕がある。

「蜘蛛どものきが止まりました。魔獣本への攻撃に向かいますぞ、殿下!!」

「わかりました!!」

リアナ皇は聖剣を手に走り続ける。

兵士たちは彼の周囲を守りながら、小蜘蛛の群れの間を進んでいく。

小蜘蛛はすでに4匹以上が倒されている。殘りも、兵士たちがきを抑えている狀態だ。

リアナ皇が『魔獣ガルガロッサ』に一撃を與えるにはちょうどいいタイミングだった。

「────が、すでに戦闘を──」

「────共同作戦──で──なかったのか?」

不意に、聲が聞こえた。

一瞬だけ振り返ると、斜面に多數の人影が見えた。

「あちらにいるのは……?」

「魔王の軍勢です。我々のきに気づいたのですな」

「予定通りですね」

「あそこからなら、魔王領の者たちにも、聖剣のが見えるでしょう」

「では、闇を払い敵を撃つ『聖剣ドルガリア』の力を、彼らに示すといたしましょう。それがわたくしの役目なのですから!」

リアナ皇は、聖剣の鞘(さや)を払った。

黃金に輝く刀が現れる。

の魔力を込めると、さらに刀が輝きを増す。聖剣の刃が巨大化していく。

「魔王領の者たちもごらんなさい! 勇者が殘した『聖剣ドルガリア』の力を──!!」

『聖剣ドルガリア』は『の魔力』で巨大な刃を作り出すことができる。

異世界の勇者が使っていたころは、刀の長さが數十メートルにも達していたと言われている。

今、リアナ皇が生み出せるの刃は、十メートル弱。

それでも『魔獣ガルガロッサ』に大ダメージを與えるには十分だ。

「「「────おお!」」」

──聞こえた歓聲は、兵士のものか、それとも山上でこちらを見ている魔王領の住人のものか。

リアナ皇はそれを背にけながら、魔獣に向かって走り出す。

『魔獣ガルガロッサ』の全長は十數メートル。

振り下ろしてくる腳は、ザグランと直屬の兵士たちが剣で切り払う。

リアナ皇は問題なく、魔獣の正面へ。

そうして彼は聖剣を構える。

「わたくしの魔力に応えなさい。『聖剣ドルガリア』!!」

『グゥアアアアアアアアア!!』

迫った脅威(きょうい)に気づいたのか、『魔獣ガルガロッサ』が、後腳で立ち上がる。

だが、すでにリアナはの刃を生していた。

「魔獣よ、喰らいなさい!! 『聖剣の刃(フォトン・ブレード)』!!」

リアナ皇は下段から、聖剣を振り上げる。

この距離だ。逃れるすべはない。

リアナ皇の『聖剣の刃(フォトン・ブレード)』は、まっすぐに『魔獣ガルガロッサ』に屆いて──

「──え」

──そのまま敵を両斷する直前、リアナ皇は目を見開いた。

『魔獣ガルガロッサ』の腹の下に(・・・・)、無數の蜘蛛が(・・・・・・)隠れていた(・・・・・)からだ(・・・)。

リアナは、魔王領から屆いた資料のことを思い出す。

『魔獣ガルガロッサ』の強さは未知數。ただ、配下の小蜘蛛が増えるのが早すぎる。急いで討伐(とうばつ)しなければいけない。

だが、奴はこれまで一度も現れたことのない新種の魔獣。討伐には慎重を期すべき。

資料には、そう書かれていなかっただろうか──

「まさか配下の蜘蛛(くも)を……伏兵(ふくへい)として隠して……!?」

『ギィアアア!』『ギィア!』『ギギィ!』

腹の下にいた蜘蛛たちが、一斉にリアナ皇めがけて糸を飛す。

リアナ皇は『聖剣の刃(フォトン・ブレード)』を発したまま、一瞬、きを止めた。

このまま剣を振り上げれば『魔獣ガルガロッサ』に大ダメージを與えられる。

けれど、腹の下にいる蜘蛛たちをすべて消し去ることはできない。

糸が彼にからみつき、けなくなったところに──大量の蜘蛛が押し寄せるだろう。

リアナ皇は、この時點で作戦が失敗に終わったことに気づいた。

このまま『魔獣ガルガロッサ』を斬っても、致命傷は與えられない。押し寄せる糸と蜘蛛が彼勢を崩し、の刃の威力を削り取ってしまうからだ。

さらに──殘った伏兵蜘蛛たちは、他の蜘蛛を包囲している兵士たちを背後から襲う。そうなったら兵団は壊滅的(かいめつてき)な被害をけるだろう。

「──っ!!」

だからリアナ皇は、の刃のコースを変えた。

同時に、魔獣の腹の下にいた小蜘蛛たちが飛んでくる。

は必死に、小蜘蛛たちを切り払う。

『ギギギ!』『ギィ──ァ』『 (ボシュ)』

悲鳴をあげて、小蜘蛛たちが蒸発(じょうはつ)していく。

さらに、の刃は、『魔獣ガルガロッサ』本も傷つけた。

が噴き出し、リアナ皇に降り注ぐ。

それだけだった。の刃は、魔獣にかすり傷しか與えられなかった。

大ダメージにはほど遠く、しかも──『魔獣ガルガロッサ』を怒らせた。

『グゥオアアアアアア!』

『魔獣ガルガロッサ』は巨大な腳を振り上げ、リアナ皇に襲いかかる。

は後ろに下がろうとするが──そのきは鈍い。

伏兵の蜘蛛たちを切り払うため、『聖剣の刃(フォトン・ブレード)』にすべての魔力を注ぎ込んでしまった。

だが、魔力消費ので、すぐにくことはできなかったのだ。

「──殿下!」

軍務大臣ザグランの聲が聞こえた。

彼は皇に向かって駆け出す。

だが、魔獣の糸と腳が邪魔をしている。

怒った『魔獣ガルガロッサ』が大量の糸を飛ばし続けている。信じられない量だ。

生命の危機をじて、後先考えずに攻撃しているのだろう。

ザグランも、魔で糸を焼き払うのが一杯だ。

魔獣の巨大な目が、皇を見た。口が開いて、牙が見えた。

その迫力に、皇直する。

はじっと魔獣の顔を見つめて──不思議なものに気がついた。

「『魔獣ガルガロッサ』の頭に、あんな赤いの點(・・・・・)がありました……か?」

リアナ皇は振り返る。

は赤いがどこから來ているのかに気づいた。

からは赤い線がびて、魔王領の兵団に繋がっていたのだ。

「ドルガリア帝國の兵団を援護(えんご)する! あのの點に向かって撃(う)つのじゃ!!」

聲が聞こえた。

けれど──無理だ。遠すぎる。

魔王領の軍団からここまでは、魔程距離をはるかに超えている。

こんなに離れていては、攻撃魔が屆くわけ──

「放て────っ!!」

ずどどどどどどどっどどどっどごおおおおおおおおおおおんっ!!

大量の攻撃魔が、赤い著弾に命中した。

『魔獣ガルガロッサ』の頭の一部が、吹っ飛んだ。

「……え」

リアナ皇は目を見開いた。

自分が見ているものが、信じられなかった。

魔王領の軍団がいる位置からここまでは、魔程距離の倍以上ある。

なのに、彼らが放った攻撃魔はすべて、『魔獣ガルガロッサ』に命中したのだ。

すべての魔が(・・・・・・・)正確に(・・・)、赤いが(・・・・)示していた(・・・・・)場所へと(・・・・)。

『グゥアアアアアア! グガァアアアアアア!!』

『魔獣ガルガロッサ』が地面に伏してもがいている。

數十発の魔を一點(ピンポイント)に喰らったのだから當然だ。

頭の一部が吹き飛び、そこから大量のを噴きだしている。

「殿下! ここは退きますぞ。殿下!!」

気づくと、ザグランがリアナ皇の腕を引いていた。

「一旦退いて、陣形を立て直します! 立てますか、殿下!!」

「──ザグラン爺(じい)……でも、ここで退くのは……」

「魔獣本の怒りが伝染したのか、小蜘蛛どもが兇暴化しております。このままでは、戦線が維持できません……」

ザグランの言葉に、リアナ皇は兵士たちの方を見た。

『各個撃破包囲陣《かっこげきはほういじん》』が、突破されようとしていた。

『魔獣ガルガロッサ』と同じように、小蜘蛛たちが大量の糸を飛ばしているからだ。

兵でも焼き盡くせず、凍り付かせることができないくらい量を。

あんなものを処理できるのは勇者の極大魔か、伝説に聞く『収納スキル』くらいだろう。

兵士たちの包囲は、突破されつつあった。

「……魔王領の者たちの前で……なんと無様な……」

リアナ皇は聖剣を握りしめた。

「反撃を──このようなことでは、お父さまに申し訳が!」

「無理です! 今は引くしかありません」

軍務大臣ザグランはんだ。

「兵士たちは大混になっております! しかも、魔王領の兵団も現れたのですぞ!! 彼らはぬけがけした我々に怒っているでしょう。前面に魔獣、後方に魔王がいては戦えません! ここは一旦退くべきでしょう。ご決斷を!」

「……う、うぅ」

リアナ皇をかみしめた。

これは彼の聖剣使いとしての、初めての戦いだった。

それが見事に失敗した。

聖剣を使いこなせず、こともあろうに魔王領の者たちに助けられてしまったのだ。

「わかりました……包囲陣形から、集陣形に変更を。兵をまとめて『魔獣ガルガロッサ』から距離を取りましょう」

「承知いたしました。それに、戦いはまだ終わったわけではありませんぞ。殿下」

軍務大臣ザグランは、リアナの耳元にささやいた。

「魔王領が『魔獣ガルガロッサ』を弱化させた後で、とどめを刺すという方法もあります。その際には、ふたたび殿下の聖剣が必要となりましょう。ですから、今はお引き下さい」

「……わかっております」

「『魔獣ガルガロッサ』は我々でも手こずる相手です。魔王領の者が倒せるはずが……」

ずどどどどどどどどっどぉん!

魔王軍の攻撃魔が続けざまに『魔獣ガルガロッサ』の腳に命中した。

さらに2撃。3撃。

赤い(・・・)が示す一點(・・・・・)に攻撃が集中し、魔獣の腳を吹き飛ばす。

「──わかりません。彼らの使う魔は……未知數(みちすう)です。とにかく今は撤退(てったい)を」

「……は、はい。參りましょう。ザグラン」

兵士たちに守られながら、リアナ皇は戦場から離れていったのだった。

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