《【書籍版4巻7月8日発売】創造錬金師は自由を謳歌する -故郷を追放されたら、魔王のお膝元で超絶効果のマジックアイテム作り放題になりました-》第36話「『魔獣ガルガロッサ』討伐作戦(3)『魔王兵団 VS 巨大魔獣』」
──魔王ルキエ視點──
「おかしい。なんなのじゃ、この威力(いりょく)は……?」
魔王ルキエは目の前の景に首をかしげていた。
『レーザーポインター』で魔獣(まじゅう)に狙いを定めて魔を撃ったら、見事に命中した。
さらに、十數人分の攻撃魔が一點に集中し、魔獣の腳(あし)を吹き飛ばしてしまったのだ。
「トールが作った『レーザーポインター』とは、魔の程をばすだけではなかったのか?」
「このケルヴには、全員の魔が連続して、一點に向かって飛んでいったように見えましたが……」
「トール。説明をせよ。トール……?」
呼びかけてから、ルキエは彼がここにいないことを思い出す。
トールには、後方にさがってもらったのだ。
戦闘が近くなったため、ルキエの側にいるのは危険。そう考えての処置だった。
「陛下。トールどのはこの『レーザーポインター』について、どのように話しておられましたか?」
「と闇の魔力が一直線に、敵に向かって飛んでいくと言うておった。その魔力の流れに乗ることで、魔の程がびるのじゃと」
「では、多數の者が一斉に魔を放ったら……?」
「そうじゃな……魔力の流れに乗った魔が列を作り、一點に向かって収束(しゅうそく)するじゃろうな……」
「「……あ」」
気づいてしまった。
この『レーザーポインター』は、魔の程をばすだけではない。
複數の者が放った攻撃魔を赤いの線──つまりは魔力の流れに乗せて、収束させてしまうのだ。
それは、十數人分の攻撃魔を、一點に叩き付けるのと同じだ。
「十數人分の攻撃魔を一點に喰らったら、いかなる魔獣でも耐(た)えられるわけがありません!」
「トール! お主は……なんというものを作ったのじゃ……!」
訓練中は、ひとり1臺で『レーザーポインター』を使っていたから、気づかなかった。
このアイテムを集団で使うと、全員の魔が連続して、一點に命中するのだ。
しかもその程距離は、通常の3倍から4倍。
しかも線にった小蜘蛛(こぐも)を貫通して、『魔獣ガルガロッサ』に著弾している。
この『レーザーポインター』は攻撃支援アイテムなどではない。
魔用に特化された『攻撃増幅用(ブーストアタック)マジックアイテム』だ。
「と、とにかく。今のうちに『魔獣ガルガロッサ』を攻撃せよ! 帝國の兵団の撤退(てったい)を支援(しえん)するのじゃ!」
「陛下……彼らは我々を出し抜こうと……」
「わかっておる。じゃが、見殺しにするわけにもいくまい」
魔王ルキエは自分に言い聞かせるようにうなずいた。
彼も、帝國が勝手に『魔獣ガルガロッサ』と戦いはじめるとは思っていなかった。
おそらくは聖剣使いの皇に箔(はく)を付けようと思ったのだろう……というのは、別行を取る前のトールの意見だ。おそらくはそれが正しいのかもしれない。
「助けなければ、話を聞くこともできぬからな」
「本當に帝國の兵団は、自分たちだけで『魔獣ガルガロッサ』を倒すつもりだったのでしょうか」
「おそらくはそうじゃろう。一部の兵が魔獣(まじゅう)を挑発し、群れをここまでおびき寄せたのじゃろうよ。そうでなければ、この狀況に説明がつかぬ」
「確かに、大兵力を展開するにはこの巖場に敵を引き込むしかありませんね」
宰相ケルヴはうなずいた。
「小蜘蛛を包囲して、ボスである『魔獣ガルガロッサ』を聖剣で攻撃する──最大火力を最大効率で使おうとした、ということでしょうか。『ガルガロッサ』に致命傷を與えることができるなら、有効な戦ではありますね……」
「大兵力を利用しての包囲殲滅戦(ほういせんめつせん)と、一點突破じゃな」
「計算違いは『魔獣ガルガロッサ』が思った以上に強かったことでしょう」
「無理もない。あの魔獣は魔王領の記録にもない。歴史書にも存在しない。突然現れた、規格外の魔獣じゃ。一、どこから來たのじゃろうな……」
規格外の魔獣だから、魔王領では討伐に慎重を期した。
多くの兵を集めて、偵察(ていさつ)を出して、魔王ルキエとライゼンガ將軍までもが現地に來たのだ。
「その危機は、帝國にも伝えたはずじゃったが……もっとしつこく書狀を出すべきであったか」
現在、ルキエたちは高臺から戦場を見下ろしている。
眼下では、帝國軍が後退をはじめている。
盾持ちの兵士たちが壁になり、他の兵士が逃げるのを助けている。それは訓練された、あざやかなきだったが、それでも小蜘蛛たちに押されている。
やはり、援護(えんご)が必要だろう。
「帝國に言ってやりたいことがあるが……それは後じゃな」
「同です。文句を言うためにも、彼らには生き延びていただきましょう」
「こちらの作戦に変更はない。遠距離の魔で敵を足止め。相手がきを止めた時點で、ライゼンガ將軍の部隊と、ミノタウロスたちの部隊が突撃じゃ。よいな!」
ルキエは兵と將軍たちに向かって告げた。
「ははっ! このライゼンガの炎の力、陛下にお見せいたしましょう!!」
「ミノタウロス部隊……『健康増進ペンダント』を、裝備済みです」
「エルフ部隊も魔力が盡きるまで魔を放って見せましょうぞ!!」
ライゼンガ將軍、ミノタウロスの隊長、エルフの隊長が聲をあげる。
トールとメイベル、ふたりの護衛に回ったアグニスの返事がないのが殘念だが、やむを得ない。
ルキエは指示を出す。
手元にある3個の『レーザーポインター』のうち、1個は『魔獣ガルガロッサ』に向ける。
目的は魔による足止めだ。
2個目はエルフの隊長が持ち、き回る小蜘蛛に照準を合わせる。
最後の1個は宰相(さいしょう)ケルヴが持ち、ルキエの魔のサポートをする。
「余の『闇の魔』は威力が強い。ひとりでも、小蜘蛛くらいは倒せよう」
「わかりました。おそれながら、このケルヴが『レーザーポインター』をお持ちします」
「將軍とミノタウロス部隊は突撃準備をせよ。小蜘蛛をある程度倒したら『魔獣ガルガロッサ』本に攻撃じゃ。よいな」
「「了解いたしました!!」」
「エルフ部隊は攻撃開始じゃ。魔を放て!」
「「「おおおおおおおおっ!!」」」
エルフ部隊が一斉に攻撃魔を発する。
狙いは『魔獣ガルガロッサ』の表にある、赤いの點だ。
遠距離だ。なかなか當てるのは難しい。
遠すぎてが見えない者もいる。
わずかに狙いが逸れた者もいる。
それでも『レーザーポインター』は、的(まと)を外すことを許さない(・・・・)。
目標に向かってびる魔力の流れは、大量の魔を強引に巻き込んでいく。
狙いが逸れたものも、タイミングが遅れたものもまとめて、むりやり軌道を直していく。
さらにその魔力の流れが魔の飛距離をばして──
ズドドドオオオオオオオオオン!!
『ギィアアアアアアアアアアアアアア!』
殺到(さっとう)した攻撃魔は、『魔獣ガルガロッサ』の腳のひとつを、吹き飛ばした。
「おそるべきはトールどのですな……」
「……うむ。この『レーザーポインター』は、戦(いくさ)のかたちを変えてしまうかもしれぬ」
「ですが、解せませぬ」
宰相ケルヴは首をかしげた。
「帝國にも錬金師(れんきんじゅつし)はいるはず。なのにどうして帝國の皇は、同じようなマジックアイテムを使わなかったのでしょう」
「予想はつく」
「と、おっしゃいますと」
「今回の戦で、帝國はわれらを出し抜いた。我ら魔族や亜人と話し合い、作戦を決めることを拒否したのじゃ。そんな頭の固い連中が、こんな『びっくりマジックアイテム』を、使いこなせると思うか?」
「……あ」
「余は、先人(せんじん)が『人間から學べ』という言葉を殘してくれたことに謝しておる。さもなければ、余もトールの才能を見逃していたかもしれぬからな」
もしもトールに力を使うことを許さず、その才能を活かせずにいたら……たぶん、あの『簡易倉庫』でのお茶會もなかっただろう。
今のようにメイベルと話すこともできず、トールの友にもなれなかった。
そんな狀況を想像して、ルキエは思わず寒気をじた。
「さてと、余も働かねばならぬな。ケルヴよ。頼む」
「意(ぎょい)!」
宰相ケルヴが『レーザーポインター』を掲げる。
照準は、一番手前にいる小蜘蛛だ。
「帝國の皇は聖剣の力を見せつけてくれた。ならば、魔王は闇の魔を見せねばなるまい」
帝國側が魔王領に無斷で戦い、聖剣を使ったのは、自分たちの強さを見せるためだろう。
両國は和平の約束をしているとはいえ、友好國ではない。
相手が攻めてこないように、力を誇示(こじ)しようとするのは理解できる。
(じゃが、約束を守らずしてなにが皇か!)
それに、ルキエ個人としても、気になることがある。
さっき、トールは聖剣のを見て、目を輝かせていた。
聖剣を參考にルキエの魔剣を作るため──と言っていたけれど、彼が皇の姿をじっと見ているのは……なんとなく、嫌だった。
だから、彼も自分の力を見せておくべきだと思ったのだ。
「『魔王ルキエ・エヴァーガルドの名において、煉獄(れんごく)の炎を呼び覚ます』」
ルキエは中空に向かって、手を挙げた。
彼のから、闇の魔力があふれだす。
闇の魔力は『無』『空白』『なにもない空間』を意味する。
それをる魔王ルキエの魔は、敵の存在そのものを削り取る『漆黒(しっこく)の炎』を生み出すことができるのだ。
程が短いという欠點があるが──『レーザーポインター』はそれを補ってくれるはずだ。
「『現れよ! 闇の火炎!』」
畏怖(いふ)に震える兵たちの前で──ルキエの詠唱(えいしょう)が終わる。
「けよ! 我が漆黒(しっこく)の炎を! 『虛無の魔炎(ヴォイド・フレイム)』!!」
そして魔王ルキエは、漆黒の炎を解き放った。
黒い炎は『レーザーポインター』の流れに乗り、そのまま小蜘蛛のに著弾する。
『キギィィィアアアアアア!!』
人間サイズの蜘蛛が、絶した。
黒い炎に焼かれて、腕とが消滅していく。
これが魔王があやつる『闇の魔』の力だった。
『──ギィア……ァァ』
黒い炎に焼かれた小蜘蛛は、あっという間にを削り取られていく。
それを見た魔王ルキエは、隣にいるケルヴに指示を出す。
「奴はもうよかろう。『レーザーポインター』を、次の敵に向けるとしよう」
「は、はい。陛下」
「しっかり支えておれ。余が狙いを定めてみせよう」
ルキエは手をばして、ケルヴが持つ『レーザーポインター』のを、ひょい、と、次の小蜘蛛に向けた。
赤いが、ひょい、と、次の小蜘蛛へと移した。
つられて黒い炎も、ひょい、と、次の小蜘蛛へと移した。
『ギィヤアアアアアアアア!!』
魔炎(ヴォイド・フレイム)の直撃をけた小蜘蛛が、絶した。
「「──え?」」
「「「おおおおおおおおおおっ!!」」」
魔王ルキエが、ぽかん、と口を開けた。
火炎將軍ライゼンガをはじめとする魔王領の兵団が、歓聲をあげた。
ちなみに宰相ケルヴは、目が點になっていた。
「な、なぜ。なぜ『虛無の魔炎(ヴォイド・フレイム)』の炎までが移するのじゃ!?」
「わ、わかりません! トールどのが作られた『レーザーポインター』の力としか……」
「……え、えっと」
とにかく、そのうち黒い炎は消えるはず。
そう考えて魔王ルキエは、ふたたび魔の詠唱をはじめる。
闇の魔力を集めて、準備を整えてから見ると……まだ最初の魔炎が燃えていた。
おまけに、詠唱中(えいしょうちゅう)のルキエがひょいひょいと照準をかしたせいで、もう3匹目を焼きはじめている。
2匹目はとっくに焼き盡くされて、腳しか殘っていない狀態だ。
「ゆ、ゆくぞ。『虛無の魔炎(ヴォイド・フレイム)』!!」
ルキエは2発目の『虛無の魔炎(ヴォイド・フレイム)』を発する。
黒い炎は當たり前のように3匹目の小蜘蛛に當たる。
消えかけの魔炎に次の魔炎が當たり、合する。
結果。
『────ギィ』
小蜘蛛は黒い炎に焼かれて、腳も殘さず消滅した。
ルキエには、なにが起きているのかわからなかった。
『レーザーポインター』のを移させるたびに、闇の炎も移するのだ。
そんな現象は今まで、一度もなかったのだけれど──
「……もしや『レーザーポインター』に、闇の魔力を使っておるせいか?」
ルキエはふと、思い當たった。
「トールは言っていた。この『レーザーポインター』は、闇の魔力での魔力を、ぎゅ、っと押しつぶして、一緒に飛ばしておると。そして余の魔は闇の魔じゃ。つまり、『レーザーポインター』の魔力を通して、余と『虛無の魔炎(ヴォイド・フレイム)』は繋がっておることになるのでは……?」
だから、魔炎はいつまでも消えない。
『レーザーポインター』を通して、ルキエが闇の魔力を供給し続けているからだ。
「針やフォークが、『虛無の魔炎(ヴォイド・フレイム)』に繋がっていると想像してみよ。それを余がひょいひょいかしたために、つられて炎がいたと考えればわかるじゃろう」
「ということは、この『レーザーポインター』は、陛下がお使いになるときは……」
「一度放った闇の魔をは、自由にかし放題ということになるな……」
そんなことを話しながら、ルキエは『レーザーポインター』の照準をかしていく。
黒い炎も移し、次々に小蜘蛛を消滅させていく。
(……あのな、トール)
(お主は余のために魔剣を作ると言っておったが……このアイテムがあれば……不要かもしれぬぞ……)
ルキエは呆然と、目の前の景を見つめていた。
彼が『レーザーポインター』をしかすだけで、につられた魔炎が移していく。
小蜘蛛が必死に逃げようと、ルキエが『レーザーポインター』をわずかにかす方が早い。
さらにエルフ魔部隊の攻撃も合わさり、小蜘蛛はどんどん數を減らしていく。
「……我らは、どうすればよいのですかな。陛下」
「……突撃の準備を……しているのですけれど」
ライゼンガ將軍とミノタウロス部隊は、武を手にしたまま止まっている。
突撃しようにも敵はどんどんいなくなっている。
殘るは『魔獣ガルガロッサ』本だけ。
それも殘り2個の『レーザーポインター』によって、魔の集中攻撃をけている狀態だ。
『──ヒ、ヒギィィィィ!!』
そしてついに『魔獣ガルガロッサ』は逃げ出した。
奴は、賢い魔獣だったのかもしれない。
腹の下に伏兵を隠すほどだ。それなりの知恵はあるのだろう。
だから、自分が絶絶命のピンチにあることも、理解してしまったのだ。
人間の兵団を追い詰めたと思ったら、はるか遠距離から攻撃されて大ダメージ。
配下の小蜘蛛を差し向けたら、數分足らずで全滅。
『魔獣ガルガロッサ』がパニックになるのも無理はなかった。
『──ヒギィ! ギィギィィィィ!!』
「いかん! 『魔獣ガルガロッサ』を逃がすな! 皆の者、突撃じゃ!!」
魔王ルキエは部隊を前進させる。
「ライゼンガの部隊とミノタウロスの部隊は左右から攻めるのじゃ。奴を先の巖壁へと追い詰めよ! 殘りの者は魔で攻撃じゃ!」
ルキエは『レーザーポインター』の照準を、『魔獣ガルガロッサ』に合わせた。
まだ殘ってた魔炎が移した。
『ギィアアアアアアアアアアアアアア…………』
黒い炎が『魔獣ガルガロッサ』の腳を焼いた。
魔獣は殘った腳をかして、必死に逃げようとする。
ルキエは『レーザーポインター』の照準を移させる。
黒い炎も移する。
逃げう『魔獣ガルガロッサ』を追いかける。
『……ガァアア! アアァ…………』
やがて──巖壁に追い詰められた『魔獣ガルガロッサ』は、あがくのをやめた。
巨大なを地面に橫たえ、自ら炎に焼かれていく。
魔獣の目は最後に、魔王領の兵団を見つめていた。
まるで好敵手(ライバル)に敬意(けいい)を表するように、『魔獣ガルガロッサ』は殘った前腳を掲げる。
やがてそれが、ぱったりと落ちて──
『魔獣ガルガロッサ』は、息絶えたのだった。
「「「うおおおおおおおおおおっ!!」」」
しばらくして、魔王領の兵団から歓聲が上がった。
「す、すごいです。魔王陛下!!」
「『魔獣ガルガロッサ』とその配下を、わずか數発の魔で全滅させるなんて!!」
「陛下は、初代魔王陛下を超えるほどのお力をお持ちだったんですね……」
エルフもドワーフも、聲をそろえて魔王ルキエをたたえている。
対照的にライゼンガ將軍とミノタウロスたちは、呆然としていた。
それはそうだ。敵に向かって突撃しようとした直後、その敵がいなくなってしまったのだ。
「……アグニスに、武勇を自慢したかったのですが」
「……平和に解決したのなら、それでよいのでしょうが」
「……すまぬ。余も、このような結果になるとは思わなかった」
魔王ルキエは、ぼんやりとつぶやいた。
ふと見れば、帝國の兵団は陣形を整えたまま、きを止めている。
皇も兵士も、息絶えた『魔獣ガルガロッサ』をにらんでいる。
さすが巨大なる軍事國家。あの対応の早さは見習うべきかもしれない。
しかし、彼らの獨斷専行(どくだんせんこう)には抗議をしなければ。
それに彼らがどうしてこのような行を取ったのかも知りたい。
でも、その前にするべきことがあった。
「『魔獣ガルガロッサ』は討伐(とうばつ)された!!」
魔王ルキエは、勝ちどきを上げた。
「「「おおおおおおっ!!」」」
魔王領の兵士たちも聲をあげた。
それから、ルキエは帝國の兵団の方に向き直り、
「これは魔王領とドルガリア帝國の、はじめての共同作戦であった! 々と言いたいことはあるが、リアナ皇の武勇と、聖剣のについては見せていただいた!」
「…………」
ルキエの視界の先で、リアナ皇の表がゆがんだ。
別にルキエは、皮を言ったつもりはないのだけど。
「今回の作戦と、帝國側の戦について話がしたいのじゃが……それは可能じゃろうか!? 皇リアナどの!」
続けて、ルキエは皇リアナに向かって聲をあげた。
ルキエだって、帝國側が勝手にいたことはわかっている。
トールを人質として送り込んできたことからも、帝國が魔王領をどう見ているかも知っている。
共同作戦を持ちかけられたときには、しは話が通じるかと期待したけれど──それは見事に裏切られた。
それでも、帝國の者とは、話ぐらいはしておかなければいけない。
それはルキエが求める、平和な世の中のためでもある。
魔王領の者たちが自分の能力を活かして、おだやかに暮らしていける國を維持していきたい。それが彼のみなのだ。
そのためには、帝國と魔王領が共同作戦を行ったという事実は使える。
話が広まれば、皇帝や貴族はともかく、帝國の一般人となら、魔王領の者たち普通に付き合えるようになるかもしれない。
(トールがおるのじゃ。同じように魔族や亜人と仲良くしたがる人間も、しはおるじゃろうよ)
魔王ルキエは、帝國の兵団を見下ろしながら、じっと答えを待っていた。
戦闘の意思がないことを示すため、すでに『レーザーポインター』は片付けてある。
代わりに宰相ケルヴとライゼンガ將軍が、彼の左右を守っていた。
帝國側はし話し合っていたようだが──
「……お話を……いたしましょう」
やがて、リアナ皇と老齢(ろうれい)の男が、ルキエたちのいる場所へと進み出てきたのだった。
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