《【書籍化】馴染彼のモラハラがひどいんで絶縁宣言してやった》図書館デート(後編)
「ねえ、一ノ瀬くん。本當に図書館デートなんかでいいの?」
心配そうに尋ねてきた雪代さんに頷き返す。
數日前、デートの行き先を話し合ったときのこと。俺がどこか行きたい場所はあるか問いかけると、雪代さんは「一ノ瀬くんの行きたいところがいい」と返してきた。
そのときふと閃いた。
普段雪代さんが休日によく行く場所はどうだろう?
せっかくこうやって仲良くさせてもらう機會を得られたのだ。
できることなら、雪代さんの日常とか、好きなものとかにれて、しでも雪代さんという人を知りたい。
――そんなわけで、俺たちはターミナル駅まで移し、そこから歩いて十分ほどのところにある市立図書館へとやってきたのだった。
土曜日の館は、子連れの利用者や、調べものに訪れた人々の姿が多く見られた。
「雪代さん、館って私語厳?」
「ううん。実習室はそうだけど、図書室は小聲で話すのなら大丈夫だよ。ほら見て」
雪代さんが指さしたほうを見ると、利用者案のボードがあった。
たしかにそこには、『他の利用者の迷にならないよう、小聲でお話しください』と書かれている。
周囲を見回せば、學生らしい二人組が、畫集の本を広げて、小さな聲で意見をわし合っているし、し歩いていくと絵本のコーナーで、若い母親がい娘に読み聞かせをしている姿もあった。
「雪代さんはよく來るの? 図書館」
「うん。用事のない休日は必ずかな。みんな靜かに息を潛めて、本の海の中をのんびり泳いでいるでしょう? そのじが落ち著くんだ」
「たしかに背の高い本棚の間をこうやって歩いてると深海魚になったみたいだ」
小聲でそう返事をしたら、雪代さんがふふっと笑って「そのたとえ好きだな」と囁いた。
雪代さんがしみじみとした口調で言うから、思わずドキッとなる。
俺は気まずさをごまかしたくて、し強引に話題を変えた。
「雪代さんってどんな本が好きなの?」
「今は海外SFにハマってるの。読んだことある?」
首を橫に振る。読書家の雪代さんの前で、自分に本を読む習慣がないことを打ち明けるのは恥ずかしかった。
とはいえ、見栄を張ってもしょうがない。
「SFどころか、小説自あんまり読んでこなかったんだ。あ、でも、今後は読書もしてみるよ」
花火の奴隷役を卒業し、自由時間なら山ほどできたし。
「素敵。一ノ瀬くんはまだ巡り合っていない素晴らしい本だらけの世界にいるんだね」
雪代さんは、俺の読書不足を馬鹿になんてしなかった。
それどころか、読書に興味が湧くような言葉をくれた。
みっともないからとかそんな理由じゃなく、もっと自然な気持ちから『本を読んでみたい』『世界を広げてみたい』と思えてくる。
雪代さんのおかげだ。
一緒に過ごす相手によって、自分の考えも変化するものなのだと改めて気づかされた。
俺は花火といたときの自分が嫌いだ。
雪代さんといるときの自分は――、結構好きかもしれない。
「雪代さん。一番好きな本教えてくれる? 読んでみたい」
そう言ったら、雪代さんは目を見開いた。
「おすすめの本じゃなくていいの?」
「うん。だってなんか『おすすめを教えて』って、『俺が楽しめるものを用意しろ』みたいなじしない……?」
「ふふっ! たしかにそうかも!」
雪代さんは聲を潛めて笑った。
「実は、時々おすすめ教えてって言われるんだけど、ほんとはずっとモヤモヤしてたんだ」
「そうだったんだ」
「今の一ノ瀬くんの話を聞いて、ようやく腑に落ちたよ。それに比べて、『好きな本教えて』って言われるのはすごくうれしいな。そんなこと言ってくれたの一ノ瀬くんが初めてだよ。――やっぱり一ノ瀬くん、好きだなあ」
不意打ちのようなタイミングで言われ、顔がカアッと熱くなる。
雪代さんは照れ隠しのように笑うと、俺の手を引いた。
「來て、一ノ瀬くん」
彼に導かれ、図書館の奧のほうへと進んでいく。
海外SFの書棚は、口カウンターからずっと遠くの窓際にあった。
このジャンルを読む人はないのか、周囲には俺たち以外人の姿がない。
「私はこれがとても好き」
し背びをした雪代さんが、一冊の本を棚から取り出した。
差し出された文庫本をけ取る。
今日の雪代さんのように白いワンピースを著た足のが、たんぽぽの髪を揺らしながら宙に浮いている。
ポップで不思議な雰囲気の表紙だ。
あらすじを確認し、目次のページを開いてみる。
どうやら短編集らしい。
「とくにお気にりなのが――、そうこの話」
一緒に本を覗き込んできた雪代さんが、指先でタイトル文字にれる。
「どんな話?」
問いかけながら顔を上げると、思いのほか至近距離で目が合ってしまった。
「あ、ごめん」
謝ってを引こうとしたとき、文庫本を持っていた俺の手に雪代さんがそっとれてきた。
彼の行に驚いて、もう一度顔を上げる。
「……キスしてみる?」
頬をピンクに染めた雪代さんは、吐息じりの聲で問いかけてきた。
驚きすぎて言葉が出てこない。
「……花火ちゃんとはしたことある?」
尋ねながら、しずつ雪代さんが近づいてくる。
もう彼ののきしか視界にらない。
花火とは――。
そう答えようとしたとき、突然、背後の窓ガラスを毆る音が聞こえてきた。
振り返れば、髪を振りしながら両手で窓ガラスを叩いている花火の姿があった。
いや、ホラー映畫じゃないんだから。
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