《剣聖の馴染がパワハラで俺につらく當たるので、絶縁して辺境で魔剣士として出直すことにした。(WEB版)【書籍化&コミカライズ化】【本編・外伝完結済】》外伝 第三十一話 決斷と忍耐
ジャイルの言葉が気になり振り返る。
「今の話をもう一度聞かせてもらえますかっ!」
振り返って問い返したあたしの剣幕にたじろいたジャイルが一歩後ずさる。
「あ、ああ。アルフィーネ殿を『剣聖』に推挙し――」
「そこじゃなくて、その後です!」
「え? あ、えっと、貴族りしてもらい近衛騎士団の剣指南役を務めてもらいたく」
やっぱり聞き間違いじゃなくて、貴族として取り立ててもらえて、しかも近衛騎士団の剣指南役になれるって話だ。
貴族になると領地とか王國から俸給が支給されるとかってフィーンが言ってた気がする。
つまり、危険な冒険者稼業をやめても収が得られ、剣指南役として剣の腕を鍛えられるはず。
そうすれば、フィーンが危険な場所に行かなくてもすむ……わよね。
「あの、詳しい話を聞かせてしんですがっ!」
「あ、ああ。では、我が屋敷にご足労願ってもよろしいですかな?」
「すぐにまいりましょう!」
あたしはジャイルを催促し、彼の屋敷に急いでむかうことにした。
屋敷に著くと、前と同じ応接間に通され、しばらく待つと、奧の扉から白髪で初老の男を引き連れジャイルが姿を現す。
「お待たせした。それでハートフォード王國第三代『剣聖』への推挙の件だが――」
「それよりも、貴族りした場合、支給される俸給額と、近衛騎士団の剣指南役の指南料を教えて頂きたく!」
ジャイルの言葉を待たず食い気味に貴族になった場合の処遇を聞き出す。
『剣聖』就任はお飾りみたいなものだと思うし、あたしはフィーンと安楽に生活できる地位が得られるならそれでいいわけだし。
待遇面がよければ、冒険者稼業から足を洗ういい機會になりそう。
「そ、そうか。そちらの方が気になるのですな。ヴィーゴ、説明してやってくれ」
ヴィーゴと言われた白髪の初老の男が、あたしに向かい頭を下げた。
「ははっ! 爵位は途絶した男爵家を継ぐという形で與えられ、領地こそありませんが、王國よりの俸給は年一五〇〇萬ガルドほどです。そして、近衛騎士団の剣指南役として、ラドクリフ家から年一億ガルドほど支給する予定をいたしております」
ヴィーゴの発した言葉に、思わず唾を飲み込み、が鳴った。
危険のない仕事で、年間一億ガルド以上のお金がってくるなんて……。
白金等級も稼げるけど、ジャイルからもたらされたこの話は渡りに船なのかも。
「どうです。ご満足いただけますかな?」
ジャイルがにやけた顔でこちらを見てくる。
普段なら嫌悪でいらつく視線だが、あたしはお金のことの方に気を取られていた。
「條件は申し分なさそうですが、本當にあたしが『剣聖』となり、貴族りできるのでしょうか? 平民から貴族になったなんて話は聞いたことがありませんが」
フィーンも平民の最大の功者は、大商會の會頭か、冒険者ギルドのギルドマスターか、白金等級の冒険者だって言ってたし。
辺境伯ロイド様の功績でもってしても、娘婿としてエネストローサ家を継いでいなければ、平民のままだったはずって聞いたこともあるし。
目の前のボンボン貴族の力だけで、平民、ましてやのあたしが貴族りできるのか疑わしい気がしてきた。
脳裏に一瞬だけ、ジャイルがあたしを手にれようと、味い話を持って來ているのではという思いがよぎる。
「魔竜ゲイブリグスの討伐を果たしたアルフィーネ殿だからこそ、わたしは『剣聖』への推挙をしている。それにフレデリック王は、貴殿のことをいたく気にっておられる。黒髪黒目で初代剣聖様をほうふつとさせる剣の腕を持つということもありますからな」
ジャイルの口が油を差されたようにらかにき出していく。
「ラドクリフ家としても、ずっと後援してきたアルフィーネ殿が『剣聖』となれば家名も一段と高くなる。そして、近衛騎士団長であるわたしも『剣聖』様を剣指南役として迎えられれば、王都の民たちの評価もあげられるというわけです。なので、この件、ぜひアルフィーネ殿にはけてもらいたい」
ジャイルがらかにかしていた口を閉じると、真剣な目でこちらを見る。
そこに、いつものようなニヤケた表は一切なかった。
真剣にあたしのことを貴族りさせようって考えてるんだ……。
『剣聖』となったあたしの名を利用させてあげる対価が、あの大金か。
心の秤が左右に大きく振れ続ける。
ジャイルの推挙で『剣聖』となり貴族になれば、生活は安泰になるけど、々な責務が発生しそうではある。
そのまま、白金等級の冒険者として依頼をけ続ければ、能力の衰えや、不慮の事故で剣の腕が劣るフィーンが死んでしまうかもしれない。
フィーンの亡くなる姿を想像したら、心の秤は大きく『剣聖』就任へ傾いた。
「承知しました。ジャイル殿の申し出、けさせてもらいます。あたしをぜひ『剣聖』へ推挙して頂けるようご助力をお願いします」
あたしはジャイルに向かい、深く頭を下げた。
「顔を上げてくだされ。このジャイルが持てる全ての力を使って、アルフィーネ殿を立派な『剣聖』にして差し上げます」
そっと、ジャイルの手があたしの肩にれる。
られるだけでゾワゾワするが、『剣聖』に就任し、貴族になるまでは多のことは我慢するしかない。
あたしはグッと歯をくいしばり、作り笑いを浮かべて顔を上げた。
本日も更新読んで頂きありがとうございます。
安定を選び取ったアルフィーネですが、彼一人ならその選択をせずに孤高の冒険者を極めたかもしれません。
ですが、フィーンの存在が彼の選択肢を変えた。
フィーンの持つ魔の才を知っていれば、また違う選択肢を選んだかもしれませんが、自らが剣に縛り付けてしまったことで進むしかなかった道を進むことになってしまいました。
あとは前試合、剣聖就任、そしてすれ違い生活という形でこの外伝も終わりがくる形になります。あとしお付き合いのほどを。
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