《剣聖の馴染がパワハラで俺につらく當たるので、絶縁して辺境で魔剣士として出直すことにした。(WEB版)【書籍化&コミカライズ化】【本編・外伝完結済】》外伝 第三十四話 フレデリック王
月日は瞬く間に過ぎ去り、フレデリック王へのお目通りの日がやってきた。
お目通りする貴族として、選んだ正裝はのドレスではなく、男用の禮服だ。
ジャイルはもののドレスを選ぶようにと助言してきたが、剣で王國に仕えるため、ドレスは不要だと押し切り、男用の禮服を用意させた。
「アルフィーネ殿、そのように張なさらずともよいのではないか? フレデリック王とは一度対面しておるのだぞ」
王城に向かう馬車の中、隣の席に座るジャイルから、そう聲がかけられた。
張するなって言われても、相手はこの國で一番偉い人なんだし、無理に決まってるでしょ!
ずっと小姓として仕え、今も近衛騎士団長としてフレデリック王のそばに侍るジャイルからしてみれば、登城は日常の一部だと思うけど。
余裕の表を浮かべ、ニヤニヤとしているジャイルの顔を見たら、ムカムカと苛立ちが湧き上がってくる。
苛立ちが爪を噛む衝を促してくるが、この場で噛むことはできないので、ふぅと小さく息を吐いて、衝を抑え込んだ。
「ジャイル殿ほど、慣れておりませんので」
「大丈夫、大丈夫。フレデリック王には私からアルフィーネ殿のことは伝えてあるし、王も作法に関しては厳しくは言わぬと申しておられた。案ずることはない」
親し気に肩を抱こうとしてきたジャイルの手を避けるように、反対側の座席へ席を移する。
『剣聖』になって剣指南役になるまでの我慢、我慢。
にやけたジャイルの顔に拳を打ち込みたいが、それをすれば今までの我慢が全て水の泡になるのは、あたしでも理解できる。
「承知しました。フレデリック王の寛大なお心遣いと、ジャイル殿のご盡力を謝いたします」
「そう思って頂ければ、こちらもやった甲斐があるというものだ。さて、そろそろ著くようだな」
周囲を見ると、馬車は王宮の前まで乗りれていた。
ヴィーゴから教えてもらった話だと、普通の貴族は王城にる橋の前で馬車を降り、歩いて橋を渡ってくるそうだ。
けど、近衛騎士団長のジャイルは、軍事の権限を持つため王宮の前にまで乗りれる特権を付與されているらしい。
者が扉を開けると、ジャイルが先に下り、あたしをエスコートする。
そのまま、ジャイルの後ろに付き従って、王宮にると二度目の登城を果たした。
通された謁見の間で、しばらく頭を垂れて待っていると、れの音とともにし高い場所にある玉座に誰か座る音がした。
「フレデリック王、かねてよりお目通りを願い出ていたウォルフォート家の新當主アルフィーネ殿です」
「こたびは、お目通りを許して頂きありがたき幸せ。これより、自の持つ剣の力を持って、ハートフォード王國のため働かせて頂きます」
垂れていた頭を一層深く下げる。
「そう、堅苦しくするな。アルフィーネ殿、頭を上げられよ」
「はっ!」
王の命に応じて、顔を上げると視線の先には金髪の優し気な顔をしたフレデリック王がいた。
建國以來の最大の國難と言われた大襲來を乗り切り、荒廃したハートフォード王國を復興させた偉大な王。
「魔竜ゲイブリグスの討伐の報告以來だな。息災にしておったか?」
「は、はい。々と忙しくはありましたが、病気もなく健康に過ごせております」
「そうか、そうか」
ニコニコと笑うフレデリック王に親しみをじる。
「ジャイルのやつが、アルフィーネ殿をどうしても『剣聖』に推挙したいと申してな。在野の冒険者をしていたアルフィーネ殿を巻き込むような形にしてしまった件は許してくれ」
「そ、そのようなことはありません。『剣聖』推挙はあたし自も納得――」
「アルフィーネ殿、王の前であるぞ」
咄嗟にいつもの口調が出てしまい、ジャイルにたしなめられた。
しまった! フレデリック王があまりに親し気に話しかけてくれるから、油斷してた!?
「よい、作法は求めぬと申しつけてあったはず」
「はっ! 王がそのように申されるなら」
ジャイルはフレデリック王に頭を下げると、後ろに下がった。
「その『剣聖』就任も他の貴族たちが難を示し、本日開催される前試合を見て、推挙を決めることになってしまった。本來なら王都をずっと脅かしていた魔竜ゲイブリグスの討伐だけでも『剣聖』たる実力は認められて當然だと余は思っておるのだがな。実際に見せねば納得せぬ輩が多いのだ」
「フレデリック王の臨席させれる前試合という舞臺を用意して頂けただけで、私は十分に満足しております。それにハートフォード王國各地の腕自慢たちとの勝負ができることに喜びもじておりますので」
「そうか、そう思ってもらえれば、余もアルフィーネ殿の剣を素直に楽しめる。今日は、辺境伯ロイドも來ておるしな」
大襲來の英雄ロイドが來てる!?
普段はほとんど王都に來ないって話だったけど。
もしかして、手合わせのために呼ばれたとか?
「もちろん、前試合には參加させぬがな。あれは、王國の寶であるし。アルフィーネ殿が、『剣聖』にふさわしいか助言をもらおうと思っておるのだ」
フレデリック王の言葉にほっと安堵した。
唯一、勝てないのではと思う相手が大襲來の英雄ロイドだったからだ。
年齢的には壯年になり、力等は落ちてるだろうけど、実戦で鍛え上げた剣の技は素晴らしいとも聞いてるし、剣の練習は欠かさずに行っているという噂も聞いている。
「できれば、戦ってみたかったですね」
「そのうち手合わせできることもあるだろう。あれも剣に関しては未だに興味を失っておらぬようだしな」
「承知しました。その日を心待ちにしております」
「ふむ、そうしておけ。では、これよりはハートフォード王國の男爵家當主、アルフィーネ・ウォルフォートとして余に仕えよ」
「ははっ! 我が剣は終生、フレデリック王とハートフォード王國の民に捧げます」
今一度深く頭を下げる。
「では、前試合を楽しみにしておるぞ。余もしは剣を見る目は持っておると思うからな」
「はっ! フレデリック王の目に適うよう頑張らせていただきます」
あたしの言葉を聞いたフレデリック王は席を立つと、謁見の間から去っていく。
お目見えはし問題はあったが無事に済んだ。
「さぁ、アルフィーネ殿。ここからが本番だ。前試合で圧倒的な剣の腕を見せてくれ。今日は庶民も貴族もかなりの數が詰めかけておるからな」
「はい、分かっております」
ジャイルの言葉に頷きを返すと、あたしたちも謁見の間を去り、前試合が行われる王國軍の訓練場に作られた施設に向かうことにした。
本日も更新読んで頂きありがとうございます。
フレデリック王、WEB本編だとわりとさくっと殺されちゃう可哀想な人になってますが、混期のハートフォード王國の舵取りをしてきた人でもあり、英雄ロイドを見出した人でもあるんで、わりと優秀なのかなって思ってます。
まぁ、保のためジャイルを可がってたり、宰相を恐れてたりする面もありますが、基本的には統治者としては國民に信頼されてた人だと思います。
書籍版だと人質となりヴィーゴに連れ去られ、ロイドに対してユグハノーツを明け渡す渉の材料にされ、自害してますが。
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