《お薬、出します!~濡れを著せられて治療院から追放された薬師さんが辺境で薬屋を開きました。極めたポーションは萬能薬と呼ばれて回復魔法を超えるようです~【書籍化コミカライズ企畫進行中】》工業都市、完治する
メディがプロドスで商売を始めてから二週間が経過した。
メディエナジーは連日、飛ぶように売れて大忙しだ。
追加分を調合して、メディは休む暇がない。しかしその表は和らいでいる。
メディエナジーが普及するほど、ドラゴンエナジーの被害者が救われるのだ。
メディにとって、がんばらない理由などない。
まさに今が生き甲斐と言わんばかりに、せっせと調合に勵んでいた。
「メディ、追加の素材だ。カイナ村の獣人達にも手伝ってもらった」
「ほ、本當にカイナ村と往復していただいたんですね……」
「なに、この程度は晝飯前だ」
「お晝ご飯前ですかー」
アイリーンは以前、メディから専用のポーションをもらってカイナ村と水晶の谷を短期間で往復した。
彼にしか飲めない特製のポーションで、飲めば休まず走り続けることができる。
飛腳のごとくアイリーンはプロドスからカイナ村に戻って、獣人隊の応援を呼んだのだ。
その際に素材となるカイナ村産の野菜などを持ってきてもらっていた。
「ドクマークの店、すっかり閑古鳥が鳴いてるね」
「あまり見るな、エルメダ。トロルを圧したような顔で睨まれているぞ」
「例えがピンポイントすぎてこわっ!」
ドクマークの店は日を追うごとに客が離れていった。
初見の客が立ち寄ることもあるが、売り上げは微々たるものだ。
それにその客も次第にメディエナジーの話を耳にれる。
ドラゴンエナジーのねっとりとした甘さから一転した爽快に虜となるのが常だった。
「ぐうううぬぅああぁぁぁ! おのれ! あんなもの! あんなものぉ!」
「ドクマーク先生! 落ち著いてください! あんなもの、すぐに廃れます! しの辛抱ですよ!」
「もう二週間も経っているじゃないですか! ニトやパンサールも契約を切ってきて、クゾウも行方知れず……何がどうなっているんです!」
「そのことなのだがな、ドクマーク」
「ぬぅわっ!?」
アイリーンがドクマークに接近していた。
その気配一つない足取りが驚かせないわけがない。
「先日、ニトとパンサールが私達の倉庫に侵してな。しっかり自白したぞ」
「な、なんですとぉ!」
「ただし、お前を衛兵に突き出すようなことはしない。あの二人まで共犯にさせてしまうのは惜しいからな」
「なにが言いたいのですか!」
「つまりもうお前を守るものなど何もない」
アイリーンの冷ややかな表とセリフだ。
ドクマークは凍り付いたようにかなくなる。
それがどういうことか。
ニトとパンサールが敗れたという事実があり、そこにいるのが勝者だ。
つまりアイリーンの機嫌次第ではドクマークはどうとでもなってしまう。
彼に命の危機をじさせたのだ。
「わ、私を、ど、どうするつもりですか……」
「これは警告だ。お前はおそらくメディを憎んでいるだろうが、何かしてくれば今度こそ容赦しない」
「ひっ……!」
「メディはお前のようなろくでなしにも溫をかけている。お前が心と知識をれ替えることを願っているのだ」
「うぅぅ……」
ドクマークはこれまで多くの弟子を前にして、獨自の薬學を説いた。
誰もが拍手喝采して、質問攻めをしてくる。
先生呼びが定著して、完全に自分の軍団を作り上げた気でいた。
そこにふらりと現れた薬師のによって、プライドが打ち砕かれてしまう。
自分の半分も生きていないのどこにそんな知識が。
ドクマークはこれまで何度も思考を巡らせた。
どんなに高名な薬師を思い出しても行き當らないのだ。
「あ、あの、は何者なのですか……」
「そうだ。お前なら何か知っているかもしれないな。ランドールという薬師を知らないか?」
「ランドール……?」
「あぁ、あの子の父親だからそれなりの年齢だろう。田舎の村で薬師をやっているそうだ」
「あ、あぁぁぁッ!」
今度はアイリーンが虛を突かれた。
ドクマークがわなわなと震えて、何かを思い出したのだ。
「あの、あのランドールの娘……! この私の顔に初めて泥を塗った男……!」
「知っているのか!?」
「私が學會で初めて獨自の薬學を発表した時……誰もが絶賛した! しかし、あの男だけは鼻で笑った! 『壽命をめるのが好きなら暗殺者のほうが向いてるんじゃねえか?』だと……!」
「ほう……」
「周囲は許さず、その男を追い出したがな! 奴の揚げ足取りには心底、腹が立った! あの男の娘だったのか! クソッ! 何の、何の因果だッ!」
ドクマークとランドールの意外な接點にアイリーンは驚いた。
ランドールの人間はともかく、ただ一人だけドクマークの理論に反論したというのがアイリーンにとって印象的だった。
その後、ランドールは學會を追い出される。
その場はドクマークを支持する者ばかりで、ランドールの理論は理解されなかった。
――そのイルフェンの量じゃ神経まで麻痺させちまうぜ?
――黙りなさい! これで苦しみから解放されるのですよ!
――の不調に気づかずに倒れて死ぬ。苦しみってのはからのサインでもあるんだよ。
――その無禮な男をつまみ出せ!
――ドクマークさんの理論は完璧だ!
「そうだ……この私の理論は完璧……完璧なのに……」
「なぁ、ドクマークさんよ」
「なんですか!」
ドクマークとアイリーンの前にきたのは三十人の護衛だ。
不服そうな顔をして、アイリーンは何となく察しがついた。
「俺達の給料が支払われてない。契約違反だろう?」
「それは、まだ……もうし待ってください……」
「売り上げ不振は同するが、それは俺達の知ったことじゃない。ただ働きは勘弁だから、このままあんたの護衛は辭めさせてもらう」
「ま、待ちなさい! 売り上げなどもうしで回復するのですよ!」
用心に用心を重ねて、ドクマークは大金をはたいて護衛を雇っていた。
ぞろぞろと立ち去る護衛はドクマークの言葉など聞かず、メディの店へと向かう。
全員、実は気になっていたという事実が明らかになってしまった。
「メディエナジーってそんなにうまいのか?」
「はい! お薬、出します!」
こうしてドクマークは親子二代にわたって辛酸をなめさせられた。
薬學を甘く見た彼の姿勢がいかに間違っていたか。
この場で証明されてしまったのだが、ドクマークはまだ気づかない。
己の過ちを見ずに、今はただひたすら力任せにカウンターを叩くしかなかった。
「ぐうぅぅおおぉぉーーーーーーーーーーー!」
空に吠えた彼のびだが、誰も気にとめなかった。
そして彼はプロドスから姿を消す。
ドラゴンエナジーによって蝕まれた労働者達は真の意味で救われたのだった。
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