《【書籍化】わしジジイ、齢六十を超えてから自らの天賦の才に気付く【8/26から電撃マオウでコミカライズスタート!】》そして防屋へ……

ひいひいと喜びと悲鳴を半分ずつにした聲をあげながら朝食を終え、ディルはまず冒険者ギルドへと向かうことにした。

まとめた支払い等はせずに泊まった宿、火竜の尾亭をあとにして、道行く人へギルドの場所を訪ねてから歩いていく。

食事と宿という心配事が消えている今は、しっかりある程度の余裕を持って周囲の人間の観察ができた。

ここに暮らしている人間達の様子は、基本的にはギアンの街の住人と変わらない。だが土地柄のせいか、し薄著の人間が目立つような気はしていた。

往來を歩いている人の中には厚著をしている人間はなく、分がし高めである。

それを見て鼻をばすような年頃は終えているが、ディルはし彼らの様子が気になった。わずかではあるが、しだけが濃いような気がするのである。

実際に見比べて比較できるような対象がヨボヨボの自分しかいないためいまいち判然としないが、よく見てみるとギアンの街のミースやアリス達よりもしだけが濃いような気がする。

そも國中でそれほど厳正な通行審査が行われているわけでもないために、ジガ王國の部は比較的移がスムーズに行えるわけで、んなの人間がいるのは當然な話ではある。だがこの異國溢れる緒と相まって、ディルはまるで自分が外國にやって來たような気分になっていた。

昨日まではジメジメしてしんどい、歩くの辛い、料理が味しそうじゃないと心でぶつくさ言っていた事実からはそっと目を背け、ジジイの瞳は輝いていた。住めば都、というほど生活しているわけでもないのに、おじいちゃんの心変わりはそれはもう早いものである。

案外旅も悪くないかもしれんのぉ、と上機嫌になりながらギルドへるディル。

森の奧やの中でひっそりと暮らしている亜人というものもこの広い世界には存在しているらしい。

まだ見ぬ人、まだ見ぬ文化、そしてまだ見ぬ種族。こうして自分が長く生きてきて知らなかった々と見て聞いて考えてみるのは、かつてないほどに心が躍る経験だった。

未知を探求し未踏の地を探し求める冒険者というのは、いつもこんな面白い経験ばかりできるのなら、なってみた甲斐があるというものじゃ。

ディルは上機嫌になって、ギルドの扉を叩いたのだった。

ディルの対応をしてくれたのは、じの良いムキムキの男だった。

笑顔と白い歯が素敵なナイスミドルに金の引き出しが問題なくできることを確認してもらい、彼に革鎧を仕立てるのに相応しい場所を教えてもらうことにする。

念のために裾にしまっておいた賄賂を使わずとも、彼は笑顔で々なことを教えてくれた。

「加工が盛んな魔の素材は三種類。蛇型魔のトキシックスネーク、蜘蛛型魔のガルガンチュアスパイダー、そして味い蛙の魔のマッドフロッグだ」

「鎧にする分にはどれも変わらないのかの? とりあえず魔の素材と値段的にはどれも手が屆きそうじゃと思って、馬車で頑張って來たんじゃけど……」

「まぁ結構違うが、別にそんなに難しいことじゃないぜ。蜘蛛が一番くて、蛇が一番著心地が良くて、蛙は一番安い。そんだけだ」

金額を聞いてまず蛙を候補から外し、蜘蛛と蛇ならばどっちが軽いかのうと尋ねると、間髪れずに蛇だという答えが帰ってきた。蜘蛛の場合は甲殻を使うために厳に言うと鎧というよりかは重めのプロテクターのようなになるらしく、それで蜘蛛も候補から外れた。

「魔を狩って持っていけば安くなるぞ。ほれ、こんなところに解毒薬もある」

「いや、死ぬのやじゃし普通に素材ごと買うことにするわい。隙有らば魔を討伐させようとするの止めてもらえんかの、命が幾つあっても足りんわい」

「はっはっは、確かに」

「笑い事じゃないんじゃけどのぉ……」

討伐を促されても、ディルは蛇の魔と戦うつもりは正直あまりなかった。

トキシックスネークの牙から出る毒は、一度食らえば即座に解毒薬を使わないと全が麻痺してかなくなってしまうらしい。おまけに噛みつくだけではなく牙から毒を飛ばしてきたりもするようで、どうやらギアンと比べると魔の討伐難易度は隨分高そうであることがわかる。

どう足掻いても自分が死ぬビジョンが見えず安定してお金が稼げるスライムと比べると、詰む場面が容易に想像できてしまう毒蛇の方が遙かに厄介である。

「えっと、じいさんへオススメの防屋はここだな。安くて腕もいい、信頼の置ける店だぜ」

「その店主、頑固で防を使えない奴には売れないと戦いを挑んできたりせんかの?」

「どこの戦闘民族だよ、きょうびそんなことする馬鹿はいないだろ」

「いなかったら、良かったんじゃけどの……」

し遠い目をするディルから発される哀愁に何かをじたのか、職員の男は地図を使ってしっかりと説明をしてくれた。

引ったくりが怖いし、お金は払うとわかってから取りにくるわい。

おじいちゃんはそう言い殘し、防屋へ行くためにギルドをあとにした。

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