《【書籍化】わしジジイ、齢六十を超えてから自らの天賦の才に気付く【8/26から電撃マオウでコミカライズスタート!】》孤児院の慈母

結局都合二往復して合わせて四つの革を納品したときには、既に日が暮れ始めるような時間になってしまっていた。

四匹分の革があれば當座はどうにかなる。

ディルの中々に初心者丸出しの剝ぎ取り済み素材を見て苦笑しながらも、ヒリソは笑顔で鎧を渡してくれた。

素材の売卻代金とをつけてもらった皮の買い取り料金を合わせて購金額から引くと、おまけの部位プロテクターも合わせて金貨七枚で鎧を買うことができた。

隨分と割り引いてくれたものである。正直なところ厚意をそのままけるのは、ディルは良心の呵責をじていた。

だがそんなに引かんでいいと言っても、頑固で職人気質なヒリソは全く話を聞いてくれなかった。

ふん、それならいいわい。お前さんがそうやって安くしすぎるのならわしにだって考えがあるんじゃからな。

おじいちゃんは心でそう吐き捨ててから店を後にしたのである。

「えっと、フィルティヒ孤児院は……ここらへんにあるはずなんじゃがのう……」

ディルが考え付いた作戦とはこうである。

親父が値引きをしすぎるのなら、娘にそれを還元しちゃえばいいじゃないじゃないか。

回りくどいやり方ではあるが、これなら回り回ってヒリソの懐事にそれほどのダメージを與えなくても済むだろう。この作戦を思い付いたディルは上機嫌になりながら、新鮮なと野菜を詰め込んだ背嚢を背負いニコニコ笑顔である。

正直ジジイとおっさんが変な意地を張り合っても誰も得はしないのだが、男というのはいつになっても素直になったりするのに若干の気後れを覚えてしまうものなのである。

一応言っておくと、ディルがやってきた理由はただヒリソの商売下手な分を娘に還元してやろうという老婆心だけではない。

を知ってしまった以上、このまま知らんぷりをしたまま別れることはしたくない。

それならば一度孤児院に赴き、ミルヒを確認してその人となりや生活合を覗こう。そんな目的もあった。そしてついでに、腹減ってる子供達に味しいご飯を食べさせてやろうという思いもあった。

そんな風に複數の目的を持ち孤児院を訪問しようとしているディルではあったが……悲しいかな、おじいちゃんは結構灑落にならないレベルで方向音癡だった。

彼は既に結構な時間、通りをうろついていた。

見切りを使い返り等を浴びておらず、ある程度なりが清潔だからなんとかなっているが、本來ならギリギリアウトな現狀である。

夜に同じ通りをぶらつく老人がいたら衛兵あたりに夢遊病患者か何かとして連れていかれてもおかしくはない。

ジジイは表では平気な顔をしていたが、実は心このままだとわしヤバくね? と焦りをじ始めていた。

試しに見切りを使ってみたが、殘念ながらそのスキルは適切な捌きを教えてくれても、行くべき場所を指し示してはくれない。

ジジイは途方にくれながら、もう人通りがないに等しい表通りから一本外れたし暗い道を、れ出す燈りと聲を頼りに歩いていた。

孤児院ならそれっぽい見た目をしていると思って大雑把な場所しか聞かなかったことを後悔しても後の祭り、おじいちゃんの背筋は普段よりも多めに曲がっていく。

「えっと、あの…………迷子、ですか?」

「……おお、ちょうどいいところに。人通りがなすぎて困っとったんじゃよ」

「まぁ、もうすぐ夜になりますし。戸締まりしないとなんだかんだ危ないですから……」

しょぼくれたジジイは聲をかけられた方を向き、話しかけてくれたをじっと見つめた。笑顔でにこやかに対応してくれているの人は、本當に親切から話しかけてくれているのがわかった。

「……すまん、間違っておったら悪いんじゃが……」

「……? ええ、はい、なんでしょうか?」

頭まですっぽりと覆い隠す青の修道服。

夜道と言っても差し支えない暗い夜道をぶらついている、明らかな不審なおじいちゃんにもにこやかに、善意から対応してくれるその優しさ。

そしてなるほど、お父さんが溺するのも頷ける可らしい顔と仕草。

「もしかして、ミルヒちゃんだったりする?」

「……どうして、私の名前を?」

こてんと首を傾げながら頬に手を當てているその態度を、もし普通の人間がやったとしたら十人が十人ぶりっ子判定を下すことだろう。

だがなくとも目の前の、ミルヒがしているそれを、演技や気にられるための仕草だと斷定できるものは一人としていまい。

親のを一けたのだろうというその純真さ。そして孤児院という辛い労働環境にいるにもかかわらずそんな様子は微塵も見せない強さ。

なるほど、こりゃ多強引にも手にれたくなる男も出るわい。

納得を覚えたディルは、半ば無意識のうちに空を見上げていた。

星の輝きの見え始めた薄紅の空を見て、なんの拠もなく確信を抱く。

(わし……こういう子には、弱いのよなぁ)

なくとも彼を見殺しにしたままこの街を出ることは、自分にはできそうにない。

ディルは彼にヒリソとの一連のやり取りの話をして納得をしてもらってから、孤児院に案してもらうよう頼んだ。

そしてもちろん、ミルヒはその願いをにっこり笑顔で了承してくれた。

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