《【書籍化】わしジジイ、齢六十を超えてから自らの天賦の才に気付く【8/26から電撃マオウでコミカライズスタート!】》覚悟を決めろ

「やるじゃねぇか、見直したぜじいさん‼」

「わしもまだまだ若いからの、進するんじゃぞ」

「だ、だけどミルヒを渡すのを認めたわけじゃないからなっ⁉」

ディルは別にミルヒちゃんはお前のものじゃないぞ、と言うことはしなかった。

おじいちゃんも昔、まだ自分が妻を持ち子を為す前にじたことがある。

(年上のお姉ちゃんというのは、なんというかその……輝いて見えるんじゃよなぁ)

自分の面倒を見てくれたり、々な話を聞かせてくれたりするようなに、若い男子というのはほんのりとした敬慕のようなものを抱くものだ。

というほどドロドロしていない、子特有の純粋な思慕。

その経験を自分もしたことがある以上、ディルはジェンに何かを言うつもりはなかった。

(……二人のことに気付いてもないみたいじゃしな)

ディルは裏庭で日が完全に沈んでしまうまで、枝をぶつけあってちゃんばらごっこをして遊んでいた。

マルガムは途中まで観戦していたが途中で寢てしまったため、今は薄目を開けて半分寢ている狀態である。

今度こそしっかりとした足取りで迷わず進むことのできたディルは、二人の子供を引き連れて孤児院へと戻っていった。

帰宅するとジェンの元に二人のの子が駆け寄り、痛くねぇと頑なな彼の傷口に酒をかけている。

リアとシースの様子からわかりそうなものではあるが、殘念なことにジェンはミルヒの方しか向いていない。そしてもちろん、何十人という子供を見てきたはずの彼にとって、年端もいかない年が対象になることなどありえない。

難しい、じゃがこれもまた勉強じゃ。進せい、若人よ。

おじいちゃんは自分が昔何度もイタい勘違いをした事実からは目を背けながら、置いていた自分の背嚢に気づいた。そして自分が一何をしにこの場所にやってきたのかを、ようやく思い出す。

わしは何をやっとるんじゃ。

ジジイは焦りながら自分の荷に手をかけようと歩き始める。

「本當に、ほんっっっっっとうにごめんなさい‼」

「悪いのはミルヒちゃんじゃなくこのガキんちょ達じゃからな、そう何度も謝られてはわしが恐してしまうわい」

「はっ⁉ すみません‼」

「いや、じゃからな……」

もしかしてこの子、し天然っとるのかの?

そんな風に思いながらディルは腕を袋の中へれごそごそとやってから、中にっていたしだけ炙ってあるブロックを取り出した。

「さてお嬢さん、まずは腹ごしらえでもどうかね?」

びっくりしたような顔をしたミルヒに、おじいちゃんはニヤリと笑う。

ディルが食材を取り出したのに合わせて、周りにいた子供達がわっと一斉に聲をあげた。

「もっちゃもっちゃ……ミルヒ、お代わり‼」

「ええと、あの……」

「好きに食わせてあげりゃあええ。年を取ると食が細くなっての、脂っこいものは年々りにくくなるんじゃよ」

「わかりました。はいジェン君、食べ過ぎたらダメよ?」

子供として扱われているのが不服なのか、さっきまで上機嫌だったのが一転し年はぶっきらぼうにの切り分けられた皿をけ取った。

だがそのあたりはやはり子供で、お代わりを口にれるとすぐに機嫌を直して食事を再開し一生懸命に頬張り始める。

「元気な子達じゃの」

「ええ、それはもう」

四人が四人食事に夢中になっているために、ディルはようやく腰を落ち著けてミルヒと話ができるようになった。

同じテーブルで食事をしているのだしプライバシーなどあってないようなものでしかないが、それでもチャンスなのは間違いない。

會話が丸聞こえなのだとしても、あまり直栽な聞き方さえしなければ問題はないのだから。

「ミルヒちゃんは、今どんな合かね?」

「そうですね……概ね楽しいですよ。やっぱり々ありますけど、やりがいのある仕事ができているとは思います」

話を聞いていると、どうやらこの施設はここの領主様の稅金対策兼慈善事業として運営されているらしく、生きていくのに最低限な支援はけてられるらしい。

あまり詳しいことをミルヒは知らなかったが、施政のことをどうこう言われても大して學のないディルにはわからないから別に問題はない。

暮らしぶりは満腹にはなれないが、飢えはないといったじである。

今ここに子供が四人しかいないのは、ここにいる子達は就職先が決まればドンドンとこの孤児院を去っていってしまうかららしい。

孤児一人あたりが滯在する期間はそれほど長くなく、皆めいめいの場所へと働きに出る。

一期一會で短いけど、とっても濃な時間が過ごせるんです。

そう口にするミルヒの顔には、一緒にいた時間の長さなど関係なく、彼ら皆を大切にしているのだなぁということが伝わってきた。

「続けたいと思うかの?」

「そうですね……できる限りはやりたいとは思っています」

ディルがヒリソ経由で彼の事を知ったなどということを、當の本人は知らない。

だからだろうか、彼にはミルヒの瞳の奧にうっすらと何かが映りこむのが見えた。

それはきっとミルヒが赤の他人である自分にだからこそ見せた一瞬の隙。無関係な他人だとわかっているからこそ見せられる、自分の弱さの一側面。

「そうか」

ディルはもうそれ以上、話を突っ込むことはしなかった。

彼はただ子供達にご飯を食べさせ、自分の昔話で彼らを楽しませることに心し時間を過ごしていく。

きっともうすぐ彼らは、世間の荒波というやつにまれることになるだろう。

人生というのは辛いことばかりだ、生きていくということは苦難と向き合うことの連続なのだから。

だからこそ今は、まだ何も知らぬまま、この孤児院という楽園の中で生きていられる間くらいは、しでも楽しい気持ちにさせてやりたい。

ディルはそう、思ったのだ。

「大した額じゃないがの、何かの足しにでもしといてくれ」

「……何から何まで、すみません」

帰り際、申し訳程度にお金を握らせてディルは孤児院に別れを告げた。

じゃあねーと聲をかけてくる子供達に手を振って応えてから、さっと後ろを振り向く。

(……さて、まずは報収集じゃな)

そこにいたのは、子供相手に髭を引っ張られてものほほんと笑っているような好々爺ではなかった。

ふぅと短く息を吐き、ディルはスッと目を細める。

わしにやれることを、やってみることにするかの。

おじいちゃんは本腰を上げてヒリソ親子の問題に取り組むため、闇夜の中へゆっくりと一歩を踏み出した……。

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