《【書籍化】わしジジイ、齢六十を超えてから自らの天賦の才に気付く【8/26から電撃マオウでコミカライズスタート!】》ビジネスライク

店の良し悪しは、まだグスラムに來てから日の淺いディルにはわからない。

なので店の選定は、エディに任せてしまうことにした。

良い意味でか悪い意味でかはわからないが、彼はなくとも店の店員に名前を覚えられている程度にはこの街に親しんでいる。なんとなく自分を害するような気配はないように思えるし、そうひどい事態にもならないだろう。

ディルはただ言われるがまま彼のあとについていき、まだ一度も通ったことのない薄暗い路地の中へとっていった。

彼が案したのは、一見するとただの地下室にしか見えないような怪しい店だった。

暗がりの路地の行き止まりにある羽目板を外したところに隠されている階段、それを下っていったところにその店はあった。

エディが不規則にドアをノックすると、示し合わせた男が鍵を開き、自分達二人を中へとれる。

もしかしてわし、監されるんじゃないかの? としばかり戦々恐々としたりもしたのだが、中にってみればその懸念はすぐに払拭された。

歩き回る店員や雰囲気のあるランプ、そして整った調度。彼がったのが店であるのは、店員の恭しい態度

確かに薄暗くはあるのだが、しっかりと雰囲気のあるランプが各所に置かれている。そこは確かに店と呼べる程度には裝が整っていた。

エディは常連なのか、二三言挨拶をわすとそのまま奧へとっていってしまう。

どうするべきかし考えてからあとを追うことにする。

どうやら部屋は完全に個室になっており、外から側の様子を見れないようになっているようだった。

「おーいじいさん、こっちだこっち」

もう手當たり次第に部屋にっていくしかあるまいと覚悟を決めかけていたディルは、その聲を聞きようやくエディのいる部屋へとることができた。

部屋の部はひどく殺風景だ。元は白かったのだろう薄汚れた壁と、ガタつく機と椅子があるだけで、どうにも店というじがしない。

「最近は普通の飲み屋ばっかりじゃつまらんってことでな、こういう隠れ家的なのが流行ってるんだ」

「これじゃあ店というか、監獄みたいじゃけどな」

「元は地下牢だったのを改裝して作ったらしい。拷問の聲をれ出さないように設計された部屋だから、の話をするにはもってこいってわけさ」

なんの話をするか、ディルは彼に直接話したわけではない。それでもなんとなく察されこういう店を選ばれた。

それなら、下手な腹蕓はせん方が良さそうじゃの。

勝てんならいっそのこと、こっちの腹を見せてしまった方が事が円に進むじゃろう。

エディが悪人だったらそれはそれ。どんな展開になるにせよ、ここは拙速を尊ぶべき。

ディルは店員が料理と酒を持ってくるのを待ってから、すぐに話を始めることにした。

「わしが知りたいのは、とある商會の息子さんの話でな」

「ほう、商會ね。ここらで有名なのはカゾットかソンギールかザグダラか……続けてくれ」

先ほど酔っていた時の醜態はブラフだったのか、今の彼はとても理路整然としている。

呪いの裝備の名前を把握していることから考えて恐らく何か事のある人間なのは間違いない。

だが、今は話が聞けるなら些細なことは無視すべきじゃ。

炒り豆をポリポリとかじりながら、渇いたをエールで潤した。

「息子の言が目に余る商會じゃの」

「ああ、それならリスティスだな。中規模より上、大規模未満ってじのこの辺じゃ四番手のとこだ」

「息子の名前を聞いてもいいかの?」

「問題児の方だとするなら、名前はガルシアだな。なるほど、そっちのクチか。復讐なら辭めといた方がいいと思うぜ? あそこは裏でこの辺りを締めてるマフィアと繋がってるから下手なことをするとあとが怖い」

ミルヒに言い寄っている人間の名前、そして商會は把握できた。

これでとりあえず端緒は摑んだことになる。だがその緒は、どうにも頼りなさそうだ。

できれば弱味を握ってお互いに無関心の狀態を維持させる。ディルはそういう方向で話をまとめさせるつもりだった。

だが向こうが暴力組織と繋がっているとするなら、下手に脅しをかければ自分がいなくなったあとにヒリソ達はもっとひどい目に遭うかもしれない。

「だが最近は父親のカディンもあいつのことを問題視してるらしい。放置しといても、そうだなぁ……あと一二年もすれば川にプカプカ浮かぶことになると思うぜ」

流石に各ギルドに圧力をかけるような大それたことばかりしていれば、そりゃ父親の反も買うことにはなるじゃろうの。ディルは納得し、じゃがそれじゃと間に合うかはわからんのぅと頬をポリポリと掻いた。

確かに父親としては、自分の後ろ楯を使い好き勝手する息子を放置し続けることはできないのだろう。

だが処斷が下されるのが、ミルヒに何かあってからでは遅いのである。

とすればやはり、ディルができればその父親の迷をかけないように、ガルシアだけを狙い撃ちできるような何かを手にれる必要がある。

悪事の証拠を持って、カディンに頼むのが良いだろう。ギルドや憲兵に頼んでもなんとかなりそうな気はするが、何かあったときのことを考えるとリスキーな気がする。

よし、それならばあとはガルシアの非道の証拠を集めれば良い。

流石に一つや二つなら集まるだろう。

「わしの聞きたいことは大聞けた、ありがとな」

「なぁに、酒の対価がこの程度の報でいいなら毎日奢ってしいくらいだぜ」

エディの事には深りしないほうがいいじゃろう。

こうやって時たま報を換する間柄を維持するのが賢明じゃな。

ディルは連絡先だけ教えてもらい、飲み屋をあとにすることにした。

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