「で、そいつが書いてあったゼニファー×３って奴なのか」

なんだか凄い略し方をするのは、つるりとした頭部に厳つい顔をくっつけた、四十代くらいのムキムキのおじさんだ。

彼はアンドレさん――このアクープの街の冒険者ギルドのギルドマスターをしている人である。

僕はやってきて初日のうちに、何故かギルマスと直接相対することになっていた。

「はい、アイビーって言います」

ここはギルドにある応接室。

ムースさんに言われるがまま部屋にってみると、いきなり中にいた恐そうな人に聲をかけられたのだ。

そしてそれはなんと、ギルドマスターという超偉い人だった。

僕は不興を買わないよう気をつけて、ビクビクしながらソファーの上に座っている。

「これが新種の魔ねぇ、ふぅむ……」

アンドレさんはポシェットの中から飛び出し、肩の上に乗ったアイビーをまじまじと観察している。

やはり魔討伐を主な依頼として請け負う冒険者ギルドの長、魔に対しては並々ならぬ興味があるようだ。

「みー！」

「おおっ、鳴くのか！　……なんかちょっと、和むな」

元気に挨拶をするアイビーを見て、恐かった顔がし優しくなった気がする。

それはアイビーのかわいさが、ギルドマスターにまで通じた、歴史的な瞬間だった。

「で、俺とあのバカ辺境伯にお前らの面倒見てしいってことでいいのか？」

「あー、多分そういうことだと……思います？」

「なんで疑問形なんだよ」

「みぃー」

「ほら、アイビーもしゃっきりしろって言ってるぞ」

庇護下にれてもらうために、彼らの歓心を買いましょう。

ゼニファーさんからはそんなざっくりとした説明しか聞いていない。

正直に話すと、ギルマスはなるほどと頷いていた。

「ふむ……手紙にはな、とりあえずアイビーは自分が見つけた新種の亀型魔で、激レアだから飼い主のブルーノごと面倒見てくれって書いてあるんだよ。とりあえず庇護下にれとけば、後で絶対役に立つからって。……これだけで理解しろっていう方が無理だろ？　ぶっちゃけ俺もあんまよくわかってねぇんだわ。あいつはいっつも説明が足りん」

不満げに言うアンドレさん。

その態度から、なんとなくゼニファーさんとは仲が良さそうなじがした。

ギルドマスターの態度に、友人に対する気安さみたいなものをじる。

「ドルにも手紙出すって言ってたが……つまりはお前らはゼニファーからそんだけ期待されてるってことだよ。俺達に期待していいぜって言ってるわけだから」

「なるほど……」

そこまで期待されているのは、いったい何が原因なんだろう。

アイビーはたしかに強いし頭がいいけれど、そんなに他の魔と違うのだろうか。

よくわからないけど……ゼニファーさんなりの発破みたいなものなのかな。

自分も手を打ったんだから、お前らも頑張れよ。

結果出せば安心と安全が手にるぞ……的な。

――だとしたら頑張らなくちゃ。

アイビー、荒事は任せた。

僕は僕にできることをやるよ、渉とか、食住を揃えたりとか、地味なことばっかりだけど。

「みいー」

お互い頑張ろう、そう激勵してくれている気がした。

「ふぅん、意思疎通はできてるんだな……見たところ従魔も使ってないみたいだが」

アンドレさんがつるりとした頭をでる。

従魔というのは、従魔師（テイマー）の人間が使う、魔を手なずけるための魔法のことである。

自分の魔力を魔に馴染ませて、暴れないようにしたり、親和を上げたりするって、ゼニファーさんに教えてもらった。

「そういうのなくても、僕達は繋がってるので」

「みぃ！」

「ふむ……」

アンドレさんは何を思ったのか、革張りのソファから立ち上がった。

見上げる形になってわかったけど、全の筋量が尋常じゃない。

足も腕も筋が、まるで別の生きみたいにいている。

長も僕より高い。

２メートルくらいはあるんじゃないだろうか。

彼はのっしのっしと歩いて行ったかと思うと、部屋を出ていってしまった。

「みー」

肩に乗ったアイビーは、やっぱりここが一番落ち著くと目を瞑って伏せの格好をした。

肝が據わってるなぁ。

僕とは大違いだ。

「なんのために出てったんだろう？」という質問の答えは、彼が數分ほどしてから部屋に戻ってくるとすぐにわかった。

意匠のついた兜まで著けたフル裝備で、アンドレさんがガッシャンガッシャン音を立ててって來たからだ。

全に青の金屬鎧を纏っており、魔の牙から作ったと思われる、禍々しいじの大剣を背負っている。

彼はクイッと親指をドアの方に向け、笑った。

「とりあえず戦うぞ。役に立つかどうかは俺が自分の目で見て、手でけて、五でじて決めさせてもらう。お前も俺に目ぇかけてしいんなら、それ相応の力を見せてみな」

戦いというものに縁遠い僕にも、彼が発している闘気のようなものがわかった。

一線を引いて書類仕事ばかりしているって言ってたけど……事務方が出していいオーラじゃないよ、絶対。

アイビー、向こうはやる気みたいだけど……大丈夫？

「み！」

『まっかせなさい！』とばかりにアイビーは自信たっぷりな様子だ。

――彼がやる気なら、僕は信じなくちゃね。

「はい、よろしくお願いします」

僕はにやりと笑うアンドレさんの後に続いて、ギルドに併設されている闘技場へ向かうことになった。

こうして僕たちが村を出ての初めての戦闘は、ギルドマスターとの直接対決になってしまうのだった……。

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