《【書籍化】その亀、地上最強【コミカライズ】》認め合う
どうやらアイビーが手を上げたのに気付いたのは僕だけだったみたいなので、急いで下げさせて話を聞くことにした。
「みぃ……」
アイビーがあれは強敵だった……みたいなじで遠い目をしながら、シブい聲を出す。
……なるほどね。
グリフォンと戦ったことがあるなら、そりゃギルマスからの依頼を斷ろうとしてた僕を止めるか。
でもアイビー……勝ったの、グリフォンに?
一等級の、メチャクチャ強い魔なんでしょ?
「みーみみー」
當時、まだ小さかった私だと追い払うのが一杯だった。
でも今の私なら、難なく倒せる……だって?
それは頼もしいね。
もしかして、以前何度かあった、何にもしてないはずなのに疲れて眠ってた時とかってさ。
僕が知らないうちに、魔と戦ってたりしてたのかな?
というかさ、活躍しすぎると目を付けられて……って考えてたけど。
さすがに一等級の魔をどうにかできるくらいの強さがあるなら、隠すよりも出した方が々と都合がいい気がする。
アイビーの力をこれでもかって見せつけて、周知させた方がいいんじゃないか?
下手に隠して犠牲を出したり、あとで批難されたりするより、そっちの方が絶対いいな。
一等級の魔をなんとかできるってことは、アイビーには一等級パーティーくらいの力があるということになる。
回復魔法という弾になりかねない要素を抱えてはいるけれど、ギルドもエンドルド辺境伯も、それだけ強力なアイビーをそう簡単に手放そうとはしないはずだ。
だとすればあとはどうやって彼の力を示すかだけど。
でもいきなりアイビーだけでなんとかしますじゃ納得しないだろうし、信じられないだろうから、ここは、うーんと……。
「だからここで前衛のマークとトゥエインが……」
「あ、あのっ、すみません!」
シャノンさんはグリフォンの経験者から意見を募り、前衛後衛をどう分けて、効率的にグリフォンを手相手取るかという話をしていた。
そんな大切な話し合いを遮るのは申し訳なかったけれど、僕は聲を出す。
「……できれば話を最後まで聞いてからにしてほしかったけど、何?」
「アイビーが、グリフォンを引きつけられる囮になれると言っています」
「囮に?」
「はい。彼が出せる障壁は、グリフォンの攻撃を止められます。一度戦ったこともあるので、間違いないそうです」
「ふぅん……試していい?」
「みー」
どうぞ、というアイビーの鳴き聲の意味がシャノンさんに通ったのだろう。
「加速裝置(グリッドギア)、二倍(セカンド)」
ガチリと彼が歯を噛みしめると、まるで金屬同士がぶつかる時のような固い音が鳴る。
――瞬間、室に一陣の風が吹いた。
ガインという何かがぶつかる音が聞こえたかと思うと、僕の肩に乗ったアイビーが、既に魔法を発させていた。
僕のの周囲に半円の障壁が展開されており、その前には剣を構えたシャノンさんの姿がある。
今の一瞬のうちに、シャノンさんが僕に剣撃を放ち、それに対応したアイビーが障壁で僕を守ってくれたのだ……と理解できたのは、全てが終わってからだった。
「おいおい、あの亀シャノンの二倍防いだぞ。半端ねぇな」
「ねぇ見た、アノア? あの亀、耐衝撃の障壁二重に張って、私たちに余波飛ばないように配慮までしてたわよ」
「……いや、すごいね。ギルマスから聞いてたけど、ここまでとは」
聞いたことがある。
武蕓の達人は、一度剣を撃ち合わせだけで相手の力量を見抜けるって。
視線、作、魔力の流れ。
そういったを視れば、何も言われずとも相手の全てを見かしてしまうのだと。
ありがたいというか末恐ろしいというか、今僕たちの周りにいるのは、全て一目見ただけで何かがわかってしまうような猛者ばかりだった。
僕には何が起こったのかさっぱりだったが、彼らは今シャノンさんがやった試験によって、々と察することができたらしい。
前衛も後衛も、皆がアイビーとシャノンさんを見つめて議論をわしていた。
……し手荒い証明ではあったけど、これでアイビーの障壁の有用を示せたってことで、いいのかな?
「確かに、これが防げるならグリフォン相手でも一撃は防げる。持続時間と強度、展開範囲は?」
「みー」
「展開範囲は制限なし。同じ強度で數日間なら張り続けられるそうで……」
「噓よ! そいつは噓をついてるわ! そんなの教會の集団詠唱魔法でも無理なはず!」
「み」
『黙れ、小娘』と、アイビーはび聲をあげたの子に見せつけるように、大量の障壁を生み出した。
「なっ!?」
「……これは……」
天井、地面、人と人の間。
あらゆる場所にアイビーが出した緑の障壁が現れ、淡くを発し始める。
それら一つ一つが、先ほどの一撃を防いだものと、全く同じものであった。
あたかもこんなものを出すのに、苦労などしないと言わんばかりの行だ。
そうまでして力を見せつけるだなんて、いったいどうしたのさ。
……もしかして、僕が噓つき呼ばわりされたのが、嫌だったのかい?
……バカだね、ホントに。
そんなこと、いちいち気にしなくてもいいのに。
「加速裝置・五倍(フィフス)」
バリバリバリッ!
さっきの攻撃をけ止めたのが噓だったように、周囲に展開されていた障壁が破かれていく。
何か殘像のようなが見えたかと思うと、障壁が砕かれてしまった。
視線を戻すと、向かいにいたはずのシャノンさんの姿が消えている。
……これが一等級冒険者の本気、ってことなのか。
彼は最後の障壁をたたき割ると、すぐに元の場所に戻ってきた。
時間にして、數秒もかかっていないだろう。
驚くほどの早業だ。
アイビーとシャノンさんの視線が差する。
「フッ」
「みっ」
なんだか互いに認め合っているような、ちょっといい雰囲気になっていた。
お互いの力を見せ合ったことで、打ち解けられたらしい。
ちょっと僕にはわからない世界の話である。
シャノンさんはパンパンと手を打って仕切り直す。
周囲に散らばった作戦概要や冒険者達のプロフィールの記載された紙を拾いながら、
「今までの作戦全部なしね、私とアイビーでやるから。この程度の依頼で怪我するなんて馬鹿らしいし、ちゃっちゃと終わらせるわよ」
さっきまでの話を一蹴するような意見の転換。
だけど文句を付ける冒険者は、誰一人としていなかった。
僕を糾弾してた、僧っぽいの人も含めて。
きっと皆が今のやりとりを見て、彼達の実力をじ取ったからだろう。
よくわからないが、きっとそういうことなんだと思う。
間違いなく、この場所にいて一番浮いているのは僕だ。
なんだかよくわからないうちに、事態がどんどんといている気がする。
今回はアイビーもかなり積極的に、自分からいてる。
どうやら彼なりの考えがあるみたいだ。
……今回はもう、彼の通訳に徹しよう。
きっとその方がいい結果になる気がする、力を見せるという僕の目的はもう達せたわけだし。
何より僕よりもアイビーの方が、頼りになるからね。
僕は皆とアイビーが行き違いをしないように、心を砕こうじゃないか。
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