《【書籍化】絶滅したはずの希種エルフが奴隷として売られていたので、娘にすることにした。【コミカライズ】》第6話 ヴァイス、鼻が高い
それは、リリィを買って一週間ほど経った頃の事だった。
いつも通りリリィより早く目が覚めた俺は、二人分の朝ご飯を作るためにキッチンに移した。朝ご飯と言っても適當に卵を焼いただけのものではあったが。
炎魔法をいいじに調整し、完璧なとろとろ合の目玉焼きが完した。俺は目玉焼きを皿に乗せ、リビングのテーブルに置くためにを反転した。その時だった。
「────おわっ!?」
俺は柄にもなく素っ頓狂な聲を上げ跳び上がった。だがそれも仕方ないだろう。
なんと、俺のすぐ背後にリリィが立っていたのだ。
────これまで、自分で全く歩こうとしなかったリリィが。
「び、びっくりした…………ど、どうしたんだ? どっか痛いのか…………?」
まさかの出來事に驚きつつも、それを表に出さず、リリィと同じ目線になるように腰を落とし頭をでてやる。どうせ無反応だろうな…………と諦めていたのだが、なんとリリィは気持ちよさそうに目を細めた。
「お、おお…………? 何だ、何が起こっている…………?」
何が何だか意味が分からないが、もっと意味が分からないのは俺が今凄く幸せをじているという事だった。
どうして俺は今こんなに嬉しい?
何故リリィが反応してくれることにこんなに幸せをじているんだ。
俺はそんなにこの子の事を大切に想っていたのか?
自分では全く自覚はないんだが。
「ま、まあいいか…………よし、とりあえずご飯だご飯」
俺はリリィを椅子に座らせると(今まではこれも俺が椅子に載せていたのだが、今日はリリィが自分で座った)々な事を考えながら目玉焼きを咀嚼していった。拙い手つきながらも自分でご飯を食べようとするリリィが気になって、味は全く分からなかった。
◆
俺はすぐホロの店に駆け込んだ。
「おいホロ聞いてくれ! あいつが!」
「ちょっとなんなのよ騒々しい…………ってヴァイスか。今日はどうしたのよ」
ホロは戸棚整理をしていたのか、カウンターの下からぴょこっと顔を出した。
「聞いてくれ! あいつが一人でご飯を食べたんだ!」
「はあ」
ホロはイマイチ気の抜けた相槌を打った。これがどれだけ凄いことか分かってないらしい。
「何だそのやる気のない返事は! 一人でご飯を食べたんだぞ!? 椅子にも一人で座ったんだ。分かるだろうこの凄さが!」
「いや、全然。寧ろアンタのその反応の方がびっくりだわ私は」
「何だと?」
ホロも一緒になって喜んでくれるだろうと確信していた俺は、ホロのローテンションな態度に気持ち悪い嚙み合わなさをじていた。
「いやあ…………アンタもすっかり親になったなって思ったのよ」
「何だそんな事か。當然だろう、あいつは俺の娘にすることにしたからな」
「いやいや、私が言ってるのはそういう事実の話じゃなくてね…………ま、いいかこのままで。面白そうだし」
ホロは一人でぶつぶつと呟き、勝手に納得している。意味の分からん奴だ。
「ほら、親はさっさと子供の所に帰りなさいな。商売の邪魔なのよ」
しっし、とホロは払いのけるジェスチャーで俺を追い出した。
「何だよ、ノリの悪い奴」
俺は消化不良な気持ちを抱えながら、ロレットの酒場を目指した。
◆
「そうですか。それは良かったですね」
「アンタもそう思うか。そうなんだよ、良かったんだよ」
ロレットの酒場は晝もやっていて、まともに働いていないロクデナシどもがよく晝から酒を浴びているんだが、今日は閑古鳥が鳴いていた。
俺はカウンターに歩いていくと挨拶もそこそこに一番高い酒を注文した。この前飲んだラム酒のおよそ10倍ほどの値段だが、今日の俺には大した出費に思えなかった。酒が差し出されるや否や俺はそれを一気飲みし、ロレットにリリィの頑張りを話してやることにした。
「まさか一人でご飯が食べられるようになるなんてな。この俺もびっくりだぜ」
「きっとヴァイスくんのがそうさせたのでしょう」
「だあ? 別に、そんなものを特別與えてやった記憶はねえけどな」
「いやいや…………ヴァイスくんの様子を見ていれば分かりますよ」
ロレットはどうも、このあいだ的外れなアドバイスをしたものだから引き下がれなくなっているらしい。リリィが急に俺に歩み寄るようになったのをのせいだと言い張っている。おめでたい奴だ。奴隷という生きは厳しい世界を生き抜いてきている。恐らく俺に従う方が賢い選択だと判斷しただけだろう。
「まあ何でもいいよ。とりあえずこれであいつに言葉を教えることが出來そうだ。今までは取り付く島も無かったからな」
「良かったですねえヴァイスくん」
妙にねちっこいロレットのにやけ面が気になりはしたが、良いじに酔いが回った俺はそれからリリィの事を小一時間ほど語ってやった。何度も風呂にっているうちに髪が綺麗な水になっていった事とか、數日前から寢る時に俺の服を摑むようになった事とかを。
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