《【書籍化】絶滅したはずの希種エルフが奴隷として売られていたので、娘にすることにした。【コミカライズ】》第11話 ヴァイス、家を手にれる
20分ほどでジークリンデは家の手配を済ませて戻ってきた。聞けばなんと今日から住めるらしい。
ジークリンデが直接案してくれるらしく、俺とジークリンデは夕方の帝都を散歩がてら歩いていた。リリィは俺の腕の中ですやすや寢息を立てている。
10年ぶりの帝都の街並みは、意外なほどに俺の記憶のままだった。
新しく店が出來ていたり、逆に建が取り壊されていたり。顔見知りが居なくなって、そこには知らない奴が住んでいる。そういう事が多分にあると思っていたのだが、今の所目につく変化は無いように思えた。
ゼニスでは10年どころか1日で街並みが変わることも珍しくない。街並みが変わらないということは、つまりそれだけ帝都が安定しているということなのかもな。
「久しぶりの帝都はどうだ? この辺りも様変わりしただろう」
ジークリンデは軽く手を広げて言った。その橫顔はどこか誇らしそうだった。
「そうかあ…………?」
記憶を掘り起こしながら、周囲に目を凝らす。
この辺りは商業のメイン通りの中でも特に魔法使いを対象にした區畫で、帝國に存在するあらゆるブランドの魔法店が店を構えている。
大人が20人は橫に並んでも歩けそうな広い石造りの通路には、夕方だというのに沢山の人間が時に肩をぶつけながら行きっていて、その中には魔法學校の制服姿も多數見けられた。俺もこの辺りは學生時代に足繁く通っていたはずだが、特に記憶と違う部分は見當たらない。
「…………何か変わったか?」
そこの角は俺が學生の頃から魔法トップシェアブランド『ビットネ・アルキュール』の本店だったよな。んで、その隣が『フランシェ』本店。そうそう、向かいに魔法書専門店があったんだよな。ジークリンデと放課後たまに寄った記憶がある。やっぱり昔と変わってないじゃねえか。
俺が困しているのを見て、ジークリンデは大きくため息をついた。仕方ねえだろ、この10年々ありすぎたんだよ。
「例えばその角の店、今はビットネだが私達が學生の頃はガトリンだった。ガトリンは今は1本隣の通りに移っている」
「え、あそこ前からビットネじゃなかったか?」
なくとも俺の記憶じゃそうなってるんだが。
「何を言ってる。お前店の商品全部に自分の魔力を応させてガトリン出になったじゃないか。…………おい、まさか私が一緒に頭を下げてやったのも覚えてないとか言わないだろうな!?」
「あ、あ〜…………そんなこと、あったような…………なかったような…………」
ジークリンデが眉を吊り上げて俺を睨む。あまりの迫力に思わず俺は口から出任せを吐いた。
…………恐らくこれは魔法ブランドの姑息な経営戦略のせいだと思うんだが、高級魔法というのは基本的にワンオーナーで、自らの魔力を流し込んで所有者を刻印させる。店の商品全部に魔力応させたというのは、つまり商品全部ダメにしたってことだ。因みに全く覚えていない。俺はガトリンを出になっていたのか。國ではビットネに次ぐ有名ブランドなんだが。
愚癡っぽくなってしまうが、そもそも魔法の高級ブランドというもの自、眉唾だと俺は思っている。
あんなものは一定數の魔法使いが徒黨を組み、組織を立ち上げ、希素材を獨占して価格を吊り上げているに過ぎない。杖やローブなんて自分に合うものを使えばいいし、極論無くても構わない。金を払えば払うだけ能が向上するのは魔法車だけだ。
「…………それって結局どうなったんだっけ?」
「私が代金を肩代わりした。4300萬ゼニーだったか。お前からの返済が終わったのは確か卒業間際だったな」
4300萬ゼニー。
魔法省のヒラ職員の年収7年分ってところか。ゼニスならエルフのが14萬人買える。よくそんな金が當時學生のジークリンデに払えたなと思ったが、そういえばこいつの実家はとんでもない金持ちなんだった。確か帝都でも有數の名家だ。
「あれからお前は放課後になると、クエストをこなす為に各地を奔走していたな」
「…………ああ、それで俺は魔法省に通ってたんだった。思い出した」
なんとなーく魔法省をよく訪れていた記憶だけはあったんだが、そういう事だったのか。
ジークリンデに多額の借金をした俺は、クエストをこなして金を稼ぐしかなくなり、クエストを注する為に魔法省に足を運んでいたんだった。4300萬というと兇悪な魔獣討伐や希な素材納品が対象のA級クエストに絞っても50回はクリアしなければならない。
當時の俺、よく頑張ったな。マジで。
「…………別に、私と結婚してくれれば払う必要もなかったのだがな」
「何だって?」
ジークリンデが珍しくゴニョゴニョっと何かを呟いたが、周囲の喧騒にかき消され俺の耳には屆かない。
「何でも無いさ。よく返済出來たものだと心していたんだ」
昔話に花を咲かせながら商業通りを抜け、住宅街を抜け、暫く歩いていると急に道がぐわっと広くなる。確かこの辺りは高級住宅街だ。等間隔で並んだ街燈の燈りひとつで金が掛かっているのが分かる。
周囲の魔力を吸収して発するあの魔石は、サイズが小さいほど値段が跳ね上がる。商業通りやさっきまでの住宅街に並んでいた街燈の魔石は、こぶし大から人間の頭蓋骨くらいの大きさだった。しかし、目の前の街燈は魔石が視認できず、ただ街燈の先がっているようにしか見えない。相當質のいい発石を使用しているな。ひとつ30萬ゼニーは下らないだろう。
「────著いたぞ」
ジークリンデが一軒家の前で足を止める。木造2階立ての立派な家だ。庭も広く、芝は綺麗に手れされている。
「…………いくらだ? ここ、土地も高いだろ」
俺の予想では1億ゼニー。まあ即金で払えなくはない。
「ここは魔法省の所有でな。誰も使わないのに手れだけはするという、稅金の無駄遣いの結晶だ。実は帝都にはこういう件が結構あるんだよ。だから金は必要ない」
「マジか」
「お前にはこれから馬車馬のように働いてもらうつもりだからな。先行投資というやつだ」
ジークリンデは愉快そうに口の端を釣り上げ、家の中にっていった。
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