《【書籍化】絶滅したはずの希種エルフが奴隷として売られていたので、娘にすることにした。【コミカライズ】》第28話 ヴァイス、スパルタ教育でいくらしい
「えっと…………制服と服は指定の服屋に行けばよくて…………靴は…………なンつってたかなあ。決まってんだっけ…………?」
実家に顔を出した理由の大半は帰ってきましたよ報告とリリィの紹介だったのは間違いないんだが、俺にはもう一つの用事があった。魔法學校の準備について母に訊きたい事が沢山あったのだ。
魔法學校の學案に記載されていた『必要なもの』一覧。
そこには制服から始まり、服だの靴だの帽子だのと調達の當てがない品たちが記載されていた。俺は経験者である母の助言を得て、その大半に手の目途をつけることに功したのだった。普通ならそういうのはママ友とかに訊くのかもしれないが、俺にはそんな知り合いはいない。
「…………よし」
一覧に記載されているのうち手にれられそうなものに丸をつけていくと、一応全てに丸を付けることが出來た。制服は準備に時間がかかるはずだと聞いたから、明日にでも服屋に行った方がいいだろう。魔法に関してはエスメラルダ先生もロメロも鋭意製作中のはずだから…………まあ來週くらいにはけ取れるか。學まではあと3週間あるし間に合わないという事は無いはずだ。
「リリィー?」
顔を上げリリィの姿を探すと、聲だけが薄っすらとリビングにこだましている。「たぁ! やぁ!」そんな気合いっぱいの掛け聲がリリィの部屋かられていた。一何やってんだ…………?
「リリィ、何やって────ぐほっ!?」
ドアを開けながら呼びかけると────何かが思い切り顔にぶつかった。ではなく魔力の類だなと瞬時に判斷しながら、俺は仰向けに倒れ込んだ。
「ぱぱっ!?」
どたどた、という振が床を伝う。慌てて部屋から出て來たリリィが顔の橫に座り込んだのが分かった。
「ぱぱだいじょうぶ!?」
「…………ん? ああ、リリィの魔力かこれ。大丈夫だ、何ともないぞ」
正直言うとちょっと痛かったが、強がれないほどじゃない。
顔を真っ青にして俺を覗き込んでいるリリィの頭に手をばし、ぽんぽんとでた。
「うぅ…………ぱぱぁ…………」
俺が無事だと分かって安心したのか、リリィが抱き著いてきた。
「よしよし。一何をやってたんだ?」
背中をってあやすと、リリィは落ち著くどころかぐずり始めてしまった。
「ぐずっ…………えっとね…………れんしゅー、してたの…………」
「練習?」
魔力が飛んできた事を考えると…………魔法を使う練習だろうか。まだ魔法は教えていないはずだが。
「…………りりーね、はやくまほーつかいになりたくて…………それで、まほーをだすれんしゅー…………してたの…………」
「────ああ、魔力をいつでも出せるようになりたかったんだな」
エスメラルダ先生のアドバイスのおもあり、リリィは無事自分の魔力を知覚する事が出來た。しかしそれはまだ魔法使いのスタートラインに立ったに過ぎない。
一般的に魔法使いと認められる為にはそこから魔力を自在に出せるようになり、それを魔法に変換出來なければならない。確かそんな話を昔リリィにした気がする。リリィはそれを覚えていて魔力を出す練習をしていたんだろう。まだたまにしか出す事が出來ないみたいだったからな。
「…………」
俺の目には、リリィは焦っているように見えた。
半分以上の子が魔法未履修で學してくることを考えれば、魔法を覚えるのは魔法學校が始まってからでも遅くはない。魔力が知覚出來ているだけで學準備は萬全なんだ。しかし、理由は分からないがリリィは魔法使いへのモチベーションが高いみたいだった。
「リリィはどんな魔法使いになりたいんだ?」
大半の奴は自分が好むと好まざるに関わらず、どういう魔法使いになるか決まってしまう。火魔法が得意だから俺はそっちの道に、私は水魔法が…………ってな合に。
だが恐らくリリィはむままの魔法使いになれるだろう。人間や他の種族より魔法適正が高いエルフの、さらに高位種族。こと魔法において右に出るものは…………恐らくこの世界にいない。
俺も選択肢には不自由しなかった方だが、きっとリリィはその比じゃない。だからこそ俺がしっかりと導いてやらないといけない。リリィがなりたい魔法使いになれるように。
「りりーは…………」
「ああ」
「…………りりーは、ぱぱをたすけてあげれるまほーつかいになりたい…………」
「…………俺を?」
「うん…………」
俺に覆い被さるように抱き著いているリリィの手にぎゅう…………と力がこもった。
「ありがとう、リリィ」
以前────あれはエスメラルダ先生の店に初めて行った時。リリィが「沢山勉強してパパを助けたい」と言っていたのを覚えている。して泣きそうになったんだ、忘れる訳が無い。
…………果たしてリリィが奴隷時代の事をどれだけ覚えているのか。「奴隷として売られていた所を俺に買われた」という自分の境遇をどれくらい理解しているのかは正直分からない。あの頃のリリィは心が壊れていた。人が変わったように明るい今を見ていると、全く覚えていないんじゃないかとすら思う。
だがこうしてリリィの気持ちを聞くと、もしかしてリリィは全て理解しているんじゃないかとも思う。辛い生活から救ってくれた俺に、単なる親子以上の謝の気持ちを抱いているんじゃないか。
それは嬉しいことではあるんだが、同時に悲しくもあった。リリィには何のしがらみもなく真っすぐに育ってしい。「俺に恩返しをしよう」という気持ちに囚われてしくはなかった。
「よし────それじゃ明日は冒険行くか?」
「ぼーけん?」
だが、それを今リリィに言ったところで何にもならないのは理解している。「俺の事は気にするな」などと伝えたら、逆にリリィは悲しんでしまうだろう。
だから────とりあえず今はリリィのやりたいようにやらせてみようと思う。
「帝都の外で思いっきり魔法の練習をするんだ。どうだ?」
「────っ! ぼーけんいく!」
しみったれた話はこれで終わり。俺はリリィを抱っこしたまま腹筋の力で跳ね起きた。
────俺は娘を甘やかす事はしない。ビシバシいくつもりだ。明日が終わる頃にはリリィは立派な魔法使いになっているだろう。
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