「えっとぉ、とりあえずは五人くらいでぇ、使用魔力は半分くらいにしといた方がいいからぁ……」

目をつむりながらぶつぶつと言っているセリア。

一見すると今日のおやつが何かを悩むの子にしか見えないが、彼は今使役する魔の選定を行っている最中だ。

セリアのる死霊というのは、基本的には死者や霊をる魔法である。

アンデッド――つまりはスケルトンやゾンビのような不死者たちを、彼はある程度自由にかすことができる。

専門分野ではないのでざっくりとしたことしかわからないのだが、彼は死霊の腕は相當に高い。

なくとも俺は、セリアより腕のいい死霊士とは出會ったことがないからな。

更に言えば彼は単に死霊をるだけではない……いや正確に言えば、途中からそうではなくなった。

バルクスで最高級素材を湯水のごとく使い続けたり、強力なアンデッド達にれる経験が増加したことで、セリアは普通の死霊士が得られないような高位のアンデッドたちを従えることができるようになった。

そしてそういったアンデッドの中でもより不死の高い存在は、生前の記憶を持っている者も多い。

そもそもハイ・リッチやハイ・スペクターのようなミスリル級魔たちの中には、死の運命から逃れるために自らをアンデッド化させた者も結構いるらしいからな。

そしてセリアはそんな死霊の生き字引である彼らから、直接魔法を習うことができる。

彼に適があったのは、どういうわけか歴史から抹消されてきた呪ばかりだった。

そのせいで、セリアはあまり人前で力を使うことができない。

呪を覚えていることがバレたら、異端審問で即座に火炙りだからな。

だからセリアは々な魔法が使えるが、あくまでも死霊士として通している。

そして今後も、それこそ彼の力を使わなければ解決できないような事態でも起こらない限りはこれを続けるつもりだ。

ちなみに、セリアが今では普通に行っている悪魔契約も普通の人間にはできない。

俺は便利で使っているのを見慣れているからもうなんとも思わないけど、あれもアンデッドに聞いて習得した呪の一つなんだよな。

使い魔の技として名殘こそ殘っているが、本來の悪魔契約は人間の魂を何十と捧げて行う邪法だ。

セリアはそれを、魔に自分のを馴染ませることで、リスク無しで行使することができる……らしい。

そのへんの詳しいことは、死霊の適がない俺にはわからないから、聞きかじりの知識なんだけどな。

「えいっ、えいっ、えーいっ！」

セリアは背負っていた『収納袋』から、無造作に素材を取り出しては地面に放り投げる。

ドラゴンゾンビの各種素材とハイ・リッチの冥核、それにあれは……エルダートレントの黒化香木か。

大盤振る舞いだな、あいつもそれだけやる気ってことだ。

死霊の基本手段は渉であり、死霊士はアンデッドとテレパシーで意思疎通を行い、調伏させるか対等な話し合いを行うことで関係を結ぶ。

しかしセリアの場合、彼はただお願いをするだけでアンデッドたちを使役することができる。

更に言えば魔法の改良もしており、供や自分のを捧げてアンデッドを強化させることや、一度使役したアンデッドたちをストックして任意に呼び出すこともできる。

どうしてそんなことができるのかは、本人にもわかっていないらしい。

「私の人徳ですよぉ」とは本人の談だが、俺はその言葉をまったく信じていない。

ただ彼はアンデッドを使役することに関してはプロなのだが、死をアンデッド化させる才能はまったくない。

セリアにできるのは、わかりやすく言えば在野のアンデッドのスカウト。

彼には強力な死から、強力なアンデッドを作るような蕓當はできないのだ。

死霊には意志のない人形を生み出して使役するクリエイション系と、意志ある亡骸達を現世に蘇らせたり、使役したりするネクロマンス系の二つがある。

前者は対価は己の魔力だけだが、後者はそれ以外にも素材や自分の、生け贄のような実際のを使う傾向があるな。

俺は一応、クリエイション系ならばそこそこ使える。

死霊は不得手だが、こっちはフレッシュゴーレムやキメラを作る魔法生學の分野に大分寄っているからな。

ちなみに、セリアが得意なのは後者だ。

というかこいつは、クリエイション系はてんで使えない。

多分才能を、ネクロマンス系に全振りしているせいだろう。

ただ彼は死者のアンデッド化もできないので、ネクロマンス系の更に一部分に特化しているというのが正しいかもしれないな。

うちの大隊の面子には、こういうデザントの基準では落第になるような奴らが多い。

というか、そういう奴らが話を聞きつけて集まってきたというのが正しいかもしれない。

おかげで隊長の俺は、本當にキツかった。

見つかっちゃいけないとか、しちゃいけないこととか、正規の軍隊としてやっていくには縛りがあまりにも多すぎてな……。

過去のキツい思い出を頭の隅に追いやり、話を戻そう。

ネクロマンス系の死霊は、使う度に自分のや生け贄、供なんかの実際の品を使用する。

なので結構、素材の消費が激しい。

そして使うがないと、死霊士としてのセリアの力は極端に低下する。

そのため癖がありすぎてまともに使えない素材なんかのほとんどは、セリアに回している。

なんでかはわからないけど、ネクロマンス系の死霊は使う素材も、変な奴の方が効果が高くなったりするんだよな……。

なので『辺境サンゴ』で俺に次いで魔の素材を多く持ってるのは彼だ。

……あ、そうだ。

セリアは素材を大量に使うし、あとで『いっぱいハイール君二號』を渡すことにしよう。

ふふ、いい名前だろう『いっぱいハイール君』。

あの『収納袋』をれられる『収納袋』のことだぞ。

これ以上の名付けはないだろう。

きっとこの名は後世に語り継がれるに違いない。

俺が一人悅に浸っていると、セリアの周囲に濃な瘴気の渦が形されていく。

彼は丸く曲がっていた貓背を、ぐぐっとばす。

そして自分の指を思い切り噛み、無造作に転がっている素材へとを垂らした。

「我、奈落へ供を捧ぐ。汝、盟約に従い冥界より來たれ」

地面に置かれた素材が発し、風が吹き荒れる。

のは、おどろおどろしい紫。

セリアのがついた部分だけは、黒く発している。

一種のマーキングのようなものなのかもしれないな。

前髪が上がり、隠れていた目がわになる。

その瞳は深紅。

最初の頃はうっすらとしたピンクだったはずなのに、死霊を使う度にが濃くなっていく、今ではのような赤へと変わっていた。

優秀な魔導師は、魔力との親和が高くなるにつれ、的な特徴が後天的に変化することがある。

セリアの瞳が赤く変したのは、間違いなく彼がひとかどの死霊士であることの証明だ。

が収まると、素材はスッと地面へと吸い込まれていった。

そしてすぐに、地響きがやってくる。

揺れはどんどんと強くなっていき、次は地面が隆起し始める。

そしてボコボコと棺桶が飛び出してきた。

數は合わせて五つ。

棺桶の縁には金の意匠が凝らされていて、真ん中にある一際豪華な棺桶には十字架が刻印されている。

地面から半ばほど飛び出たそれらは、すぐにガタガタと揺れ出す。

よく聞けば、側から棺桶を叩く音が聞こえてくる。

まるで一刻も早く部屋を出たい囚人が、待ちきれずに檻を毆りつけているかのようだ。

そして、徐々に徐々に蓋がズレていく。

蝶番がギシギシと軋み、中に居るアンデッドたちがゆっくりと姿を現す。

その中に居たのは、骨のを持つアンデッド――スケルトン。

だが無論、ただのスケルトンたちではない。

セリアが今回出したのは――。

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