《【書籍化】解雇された寫本係は、記憶したスクロールで魔師を凌駕する ~ユニークスキル〈セーブアンドロード〉~【web版】》最下層
ブラッドスパイダーの死を登り先へ進む。
マーガレットは先ほどのスティーヴンの魔法に気をよくしたのかよくしゃべる。
「君はマップ係としても優秀なのに魔師としても優秀なのか? 無詠唱魔法なんて初めて見たぞ。なくとも今までパーティになったやつの中にはいなかった」
とかなんとか。
スティーヴンは、適當に頷いていた。リンダの視線が怖かった。
しばらく歩くとマーガレットが言っていたキングスパイダーの巣についた。
が、
「殺されている」マーガレットは言った。
壁一面真っ白な空間。よく見ると細く頑丈な糸で壁が覆われている。上部にはいくつか小さなが見える。おそらくそこがブラッドスパイダーの巣だったのだろう。先ほどの〔冒険者殺し〕に連れられてすべて外に出てしまったようだが。
キングスパイダーの死骸が二匹分そこにあった。リンダの説明通り、確かにその巨はギルドの建ほどもあった。腹が割かれ、真っ白な地面に茶いが流れている。
「誰かが先に來て殺したのか?」
マーガレットはそんな呑気なことを言っている。リンダたちは全力で首を振った。
「絶対にありえないにゃ」
「じゃあこの先にもっと強いのがいるのか!」
マーガレットはまた嬉しそうに言った。リンダは「こいつ頭おかしいにゃ」とつぶやいた。
口の向かいにぽっかりと開いた。そのは下層につながっているようだった。
ヒューが盾を背に擔いで言った。
「どうする先に進んで……」
「降りるぞ」
マーガレットは食い気味にそう言って降りていった。
スティーヴンはリンダたちと顔を見合わせた。
多分彼はパーティに向いていない。
誰もがそう思っていた。
マーガレットについて降りていく。細い道は次第に開け、明るく開けた場所に出た。そこには大きな扉が一つ。他には何もない。
「ボス部屋ですか?」
スティーヴンが尋ねるとマーガレットは肯いた。
「そうらしい」
そう言って彼は躊躇なく扉を開こうとした。
「ちょっと待つにゃ! この先にはさっきのキングスパイダーより強力な魔がいるはずにゃ」
「それがどうした?」
リンダは目をひん剝いて口を開け、んだ。
「それがどうした、じゃないにゃ! ギルドの他の冒険者を連れてこないと倒せないにゃ!」
「私一人であのギルドすべてと同じくらい戦闘力がある。心配するな。最悪逃げるだけだ」
「扉開かなくなって逃げられなくなったらどうするにゃ! 閉めろにゃ!!!!!!」
リンダの主張に耳も貸さずマーガレットは扉を開いた。
扉の向こうは先ほどと似た白い空間だった。糸で壁が覆われている。
部屋の真ん中にはなにか真っ黒な影がうずくまっている。人型のそれは、スティーヴンたちが部屋にってくるのをじっと見ていた。
スティーヴンの後ろで扉が閉まる。
「なんだあれは」マリオンがつぶやいた。
「魔族になりかけの魔だ」マーガレットはそう言ってにんまりと笑った。
戦闘狂だ、この人、とスティーヴンは思った。
マーガレットが駆け出す。
「ちょっと!」
スティーヴンがんだが彼は聞かない。
黒い人型は立ち上がり、異常なほど短い詠唱をする。
『***アクティベイト』
ざらざらとした聲が響く。何も起こらない。そう思った瞬間、人型は一瞬でマーガレットの懐にった。彼は地面を蹴って宙返りし、人型の頭を越える。
「おっと、速いな」
彼が宙に浮いている間、人型はくるりとを翻して、その腕を鋭利なブラッドスパイダーの腳に変える。斬撃。
「うお」
マーガレットは剣でしのいだが上空に飛ばされた。壁にぶつかる寸前、勢を立て直して、壁に著地する。
「よっと」
彼は壁を蹴って、人型に向けて飛來する。
人型がまた詠唱を始めた。
『**アクティベイト』
スティーヴンは〈アンチマジック〉を空間に転寫する。
「アクティベイト」
人型がこちらを向いた。
ぞっと背筋が凍った。反的にスティーヴンは防系最強の魔法を発した。
人型が地面を蹴るのと眼前に出現するのが同時に見えた。スティーヴンの懐に飛び込もうとしていた人型が魔法壁にぶつかる。速すぎる。鈍い音がして、人型が飛ぶ。
飛んだ先はちょうどマーガレットが落下するポイント。
「いいねえ」
マーガレットは剣を突き出した。人型は腕を切り取られ、ざらざらとした聲でさけぶ。
リンダたちは恐れおののいていたが、人型が腕を切り落とされたのを見ると、戦闘に加わった。
リンダが弓を放つ。人型は煩わしそうに殘った腕でそれをつかみ、捨てた。
「マーガレットさん! 離れて!」
スティーヴンの聲に反応して、彼は後方に遠く飛ぶ。
「アクティベイト!」
〈ファイアストーム〉が人型を焼く。
「おお! こんなのまで無詠唱で!」
マーガレットは激していたが、今はそれどころじゃない。人型は黒い表皮をぎ捨てた。炎は表皮を追い焼き盡くすと消えた。
中から出てきたのはまるで人間の子供。
「このタイミングで魔族になってしまったか」
マーガレットは顔をしかめると、恐るべき速度で剣を繰り出す。
『**アクティベイト』
素手で止められる。
ぎょろりとした目がマーガレットをにらむ。
彼はそのとき初めて顔に恐怖を浮かべた。
マーガレットは後方に飛び、逃げる。
彼のいた場所を、魔族の変化した腕が地面ごと抉る。
『**アクティベイト』
『**アクティベイト』
『**アクティベイト』
『**アクティベイト』
『**アクティベイト』
『**アクティベイト』
『**アクティベイト』
魔族の詠唱が止まらない。
マーガレットの周囲に揺らぎができる。
何かが起こる。
スティーヴンは〈アンチマジック〉で対抗したが間に合わない。
口では。
彼は大量の〈アンチマジック〉を空間に転寫するとそこに文字を書いた。あの日、ドロシーの部屋でやったように。
「activate」の文字列がスクロールに記されていく。
スクロールが浮かんでは消え、浮かんでは消えていく。
目の前が明滅する。
鼻からが垂れて、あごから落ちる。
「スティーヴン?」リンダがぎょっとしてこちらをみる。
「いいから戦って下さい。あいつの魔法は全部消去します」
人型の魔族は自分の腕に魔法がかかっていると勘違いしているのか、マーガレットの斬撃をけ止めた。殘っていた腕が切り落とされる。
「最期だ」
マーガレットは魔族の首を切り落とした。
奴はひざをついて倒れる。地面に真っ赤なが広がる。
スティーヴンはほっと息を吐いた。その瞬間ぐらりと目の前がゆがんだ。
彼は意識を失った。
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