僕は固まってしまっていた。

「おーい。どうしたの」パトリシアは無表の顔でそう言って僕の前で手を振った。

「本なの？　さっき……」僕は彼の腹を見た。……新しい服に著替えていたので腹のは見えなかった。

「ってみる？」彼は僕の手を取って、のあったあたりにれさせた。そこにはちゃんとがあった。僕が手をかすと、パトリシアは「ふっ」と息を吐き出して後ずさった。

「くすぐったい」無表でそんな事を言う。

「ああ……ごめん」僕はまだ信じられなかった。「どうして……どうして死んでないんだ？」

「ドッキリ大功ー。いえーい」パトリシアは両手でピースをして僕の前に突き出した、無表で。

「いえーい」ルイーズが同調した。団長がルイーズの頭を叩いた。「痛えっす」

「ま、死んだんだけどね」パトリシアは手をおろして言った。「でも私は生きてる。なぜならそういうユ(・)ニ(・)ー(・)ク(・)ス(・)キ(・)ル(・)をもってるから」

僕は目を見開いた。

「それって……」

「私のユニークスキルは〈不老と不死(イモータル)〉。老いず、死なず、痛みもじない。そしたらも表に出なくなった」

だからこんなに無表になってしまったのか。それに、も長していないみたいだった。彼は実年齢よりずっと若く見える。というよりく見える。僕がパトリシアの長を測っていると彼は僕を叩いた。

「測るな」

団長とルイーズがほとんど何も心配せず僕を連れて行った理由がわかった。生き返ることがわかってたんだ。

僕はドロシーの言葉を思い出していた。

――あるSランク冒険者がいたのよ。ユニークスキルを持った冒険者ね。

――その人はね、不死だったのよ。いくら傷つけられようと腕が取れ、足がもげ、首をへし折られようと生き返った。

「あのSランク冒険者ってお前だったのか？」パトリシアは首を橫に振った。

「それは前任者で、私の師匠。今は私が継(・)承(・)し(・)た(・)。私はあの人の全てを継承した。ユニークスキルも、〔勇者〕や王立騎士団としての使命も」

「どうして王立騎士団が出てくる？」僕は首を捻った。「王立騎士団って、確か、アムレンが団長だった騎士団だよね」

「ええ。でも後で説明する。今重要なのは、お兄ちゃんが生きてるってこと。それと、妖式を覚えなきゃいけないってこと。ついてきて必要なことは全部ここでできるから」

ついたのは、巨大な滝の近くだった。周りは森に包まれていた。

「ここで妖と仲良くなってもらう」パトリシアは言ったが、そうはいっても、どこに妖がいるのかすらわからなかった。

「どこにいるんですか？」

「どこにでもいるっす」ルイーズはそう言ってマントを外した。ルイーズは羽を広げた。羽は妖の王のようにしく、過するをづけていたが、片方が欠けていた。

団長も同じようにマントを外した。彼の羽はそれぞれ半分ずつなくなっていた。

「私達、妖は、どこにでもいる」団長はそう言うと、手を叩いた。

音が森の中に響き渡る。

いつの間にか二人の姿が消えている。僕はあたりを見回した。

どこにいった？

僕があたりを見回している間に、また、いつの間にか二人は戻っていた。

「どう？　見えた？　お兄ちゃん」パトリシアが言ったが僕は首を橫に降った。

「全然」

パトリシアは小さく頷いた。「そうだとおもった。妖が見えないと、力を借りることができない。だから訓練しないと」

団長が腰のベルトから、一本の棒を出した。それは先程の制棒にとてもよくにていたが、短く、先になにか尖ったものがついていた。

「それはペンだ。使い方は羽ペンと全く一緒。書き心地はどうだか知らないけどな。その方がお前にあってるとパトリシアが言っていた」

「ああ、……ありがとう。……で、なにこれ？」僕はパトリシアに言った。パトリシアはナイフを取り出した。彼が魔法を使うときに使っていたものだ。

「(カタリスト)。私の場合はナイフ。それを使って、妖から妖力をもらって、加工する」

パトリシアはナイフを掲げる。先端がりだす。弱くなったり、強くなったり、は不安定に揺れる。

「このを出すのが第一段階かな」

パトリシアのをみて、ルイーズは言った。

「相変わらずヘッタクソっす」

「うるさいよ」パトリシアは無表でそういった。

「ればいいのれば。もし一定の力を制できるようになれば、きれいな魔法陣を書ける。ただ、妖力を持たない人間はそれで妖式が発しないから詠唱するけど」パトリシアは僕に言った。

を一定に出すってなんだろう。そもそもをどうやって出したら良いのかわからない。

ペン型のカタリストを握って持ってみる。絵かきが、やるように前に出して片方の目をつぶったり々やってみたが、うまくいかない。

「スキルを使う覚に似てる」パトリシアはそういいながらナイフで腕に傷をつけた。

僕はぎょっとしてそれを見ていた。ちょっと傷をつけるというレベルじゃない。腕の腱が見えてる。ぼたぼたとが溢れている。

「私の場合は傷がついたら、スキルを使うと元に戻る」そう言って、彼はじっと傷を見た。みるみるうちに傷はふさがって、きれいに戻る。《エリクサー》を使った後のようだった。

「このじに似てる。実際はし周りの妖が力を貸してくれてるだけなんだけど」

スキルを使う覚。僕はじっとペンの先を見た。『空間転寫』を使うじで……。

「あ」

パチパチと火ののように青いが一瞬散った。

「そう。そんなじ」パトリシアが微笑んだ。

「パトリシアより筋が良いな」団長が言った。「こいつはそこまで行くのに一週間かかった」

パトリシアは団長を見た。無表でわからないが多分睨んでいるんだろう。

僕はもっと集中してみた。散るようなではなく、もっと、安定した。マップを書くときに真っ直ぐな線を引くように、力の加減を一定に保つように。

いつの間にか僕はカタリストをペンを持つように持ち替えていた。ペン先にが現れる。それは、ぽうっとらかくり続けた。

「ほう、うまいもんだ」団長は言った。「パトリシアはまだそこまでできない。もう數年間、妖式をつかってるのに」

パトリシアは地面を蹴った。

「なんで、できる、の」彼はナイフをこちらに向けた。

僕は慌てた。

「知らないよ！　でもできたんだ！」

パトリシアは無表のままじっとしてたが、ふっとナイフを上げて、またを作り出した。青いは不安定だった。

「ヘッタクソっす」ルイーズが言った。

無表だったが、パトリシアの口は膨らんでいた。

「お、イライラが最大に達した表現だ。久しぶりに見た」団長は笑っていった。パトリシアは頬にためた空気を吹き出すと言った。

「次は妖力を計る方法。をカタリストに流してみて。こんなふうに」彼は不安定なをナイフに流した。ナイフにゆらゆら揺れる線が何本も引かれる。四本引いて斜めに一本、それが続いていく。

「周りにいる妖がどれくらい妖力を持ってるかを示してる。妖たちの妖力がなくなったり、協力を拒否されたりすると、妖力は減っていく。ときどき、気をつけてみて」

僕はペンのカタリストに集中した。が流れて、模様が刻まれていく。

パトリシアは頷いて続けた。

「次は妖を見る方法だけど、ほとんど同じ」

パトリシアは自分の目を指差した。

「さっきのを目の前で弾けさせるじ。私は眼鏡をかけるようなイメージでやってる。カタリストを握りしめたままでやらないとできないから注意」

僕はカタリストをしっかりと持った。

眼鏡ね。メガネと言えばグレッグを思い出す。それとローレンスも片眼鏡をしていたな。

「めがね、めがね」僕はそんなことを呟いて、イメージした。

目の前がさっと青くなる。団長と、ルイーズの姿がぼんやりと青みを帯びて見える。そして、

「すごいな」僕はあたりを見回した。

青いがそこらじゅうを飛んでいた。それは、人の形をとっているものもあればそうではないものもあった。火ののように舞っていたり、一つの場所で丸く固まっていたり様々だったが、ただ、総じてしかった。

「もう見えるの？」パトリシアはまた僕をじっと見ていた。無表の圧力をやめてほしい。

「が見えるだけだけど」僕はパトリシアから目をそらして、周りの観察を続けた。

妖たちは自由にき回っていた。団長たちのように姿を表したりしないのだろうか？

「彼らはそこまで力があるわけじゃない」団長はそういった。「人間にも見えるように姿を現すことができるのはごく一部だ」

……僕はルイーズを見た。

「なんすかその目は！　私だって妖の中では上級なんすよ」

「馬鹿だけどな」団長が言った。言ってしまった。

「いやその、あはは。恐っす」ルイーズは嬉しそうだった。なんでだ。

「今日はもう暗いからこれで終わり」パトリシアはそういった。