《【書籍化進行中】斷罪された悪役令嬢は、元兇の二人の娘として生まれ変わったので、両親の罪を暴く》30.勘付かれているかも
ローズブレイド公爵領に滯在中、セシリアは主に家令のトレヴァーから、將來の公爵夫人としての仕事を學ぶこととなった。
とはいっても、セシリアにはアデラインとしての記憶がある。
かつては將來の王妃として學んでいた上に、ローズブレイド家特有のしきたりについても知っているのだ。
「……今すぐにでも、ローズブレイド公爵夫人としての職務を全うできるかと存じます。これほど咲き誇る薔薇にふさわしい方はいらっしゃらないでしょう」
家令のトレヴァーはセシリアの知識や立ち居振る舞いを見て、嘆の聲を上げる。
お世辭だけではなく、本當に褒めてくれているようで、セシリアはほっとした。
「基本的な知識はあると思うけれど、領地の現狀といったことはわからないの。早く把握できるように頑張るわ」
セシリアの知識はアデラインの記憶なので、かなり古いものだ。禮法のようなものはそう変わらないだろうが、領地の狀態は日々変わっていく。
災害対策を進めていることも、知らなかった。他にも、アデラインの生きていた時代から変わっていることは、いくらでもあるだろう。
まして、アデラインはローズブレイド家の娘だったとはいえ、領地経営に関わっていたわけではない。地理のような基本的知識はあるが、學ぶべきことは多い。
將來的にエルヴィスとの婚約関係を解消するのなら、必要のないことではある。
しかし、セシリアは手を抜く気にはなれなかった。
「そろそろ休憩にいたしましょう」
あっという間に時間は過ぎていき、一息つくことになった。
お茶とお菓子の準備が整ったというので別室に移ると、そこにはすでにエルヴィスが待っていた。
セシリアが部屋にってきたのに気付くと、エルヴィスはにこやかに立ち上がる。
「お疲れさまです、セシリア。とても優秀で、トレヴァーから教えることはないくらいだと聞いております。未來の妻がらしく可憐なだけではなく、実務面でも頼もしいとは、外の喜びです。あなたが私を選んでくださったこと、謝いたしますよ」
エルヴィスはセシリアの手を取ると、軽くを落とす。
「そ……それは大げさですわ……」
顔に熱が集まるのをじながら、セシリアはぼそぼそと呟く。
だが、エルヴィスは微笑むだけで何も言わず、セシリアは椅子へと導かれる。
「ローズブレイドの農園で採れた夕月茶です。ジャムも全てローズブレイドのものですよ」
説明するエルヴィスの聲を聞きながら、セシリアはテーブルの上に目を奪われていた。
様々な花や果のジャムがいくつも並べられ、寶石のように輝いている。
たくさんの菓子も、王といえどもまともな扱いをけていなかったセシリアにとっては、珍しいものだ。
それも、かつてアデラインが好きだったものばかりで、セシリアは心を弾ませながら、茶を口に含む。
「味しい……」
華やかな香りが、鼻腔をくすぐって抜けていく。
ほのかな酸味と苦みは、甘い菓子との相が良い。セシリアは薄い板狀の焼き菓子を取ると、薔薇のジャムを乗せて味わう。
サクサクとしたと上品な甘みが口の中で絡み合い、全に幸福が広がっていく。疲れも吹き飛ぶようだ。
その後に再び夕月茶を飲むと香ばしく、さわやかな心地よさが殘る。
「お気に召しましたか?」
「はい……!」
自然と顔がほころぶセシリアを、エルヴィスが微笑ましそうに眺めている。
「……王都では、夕月茶にジャムをれるのが流行りですが、あなたはそのままのほうがお好みなのですね」
「何か、おかしかったでしょうか……?」
「いいえ、何も。ただ、その焼き菓子にジャムを載せるのは、姉が好んでいた食べ方で、懐かしくなりまして。薔薇のジャムも、姉が一番好んでおりました」
エルヴィスの表は穏やかなままだったが、セシリアは背筋が冷たくなる。
まさか、何かを勘付かれたのだろうかと、顔が引きつってしまいそうだ。
「そ……そうですのね。好みが似ていますのね」
だが、これくらいは別におかしなことではないはずだ。セシリアは平靜を保とうとしながら、何でもないことのように答える。
「セシリアさまはとても聡明で、ローズブレイド家のしきたりについても、すぐに理解なさいました。ローズブレイド家のご先祖さまが宿っているのではないかと思うほどです」
家令のトレヴァーまで、にこにことしながらそう言い出す。
先祖というか、先代の娘であるアデラインが宿っているようなものだ。かなり的確な指摘に、セシリアは変な汗がにじみ出す。
「……もし、そうだったら嬉しいですわ……」
これはもう、ごまかすよりもけれたほうがよいだろう。セシリアはそう判斷して、意識しながら微笑みを浮かべる。
「こうして、すぐにローズブレイドになじんでくださって嬉しいですよ。まるで、昔からこの地で暮らしていると錯覚してしまうほどです」
「あ……あの……! 々と調べたいことがありまして、図書室の閲覧許可をいただけますか?」
これ以上、アデラインとの繋がりを探られているような言葉に耐えきれず、セシリアは強引に話を変える。
すると、エルヴィスは驚いた素振りも、不快そうな様子もなく、ただ目を細めた。
「もちろん、図書室でもどこでも、好きなように利用していただいて構いませんよ。後ほど、私が案しましょう」
エルヴィスは穏やかに請け負う。
その後はアデラインに繋がりそうな話題が出ることなく、領地の話や、最近の狀況といった、ごく普通の會話をわした。
セシリアはをで下ろしたものの、はっきりとアデラインのことから遠ざかったあたり、意図的なものではないかという疑念が頭をもたげる。
だが、もしそうだとしても、どうしようもない。セシリアは恐ろしくなってくるので、何も考えないことにした。
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