《【書籍化進行中】斷罪された悪役令嬢は、元兇の二人の娘として生まれ変わったので、両親の罪を暴く》37.己の想い
突拍子もないケヴィンの言葉で、セシリアだけではなく、控えている侍や護衛にも張が走る。彼らはまだかなかったが、明らかに臨戦態勢にった。
しかし、発言したケヴィンは平靜を保ったままだ。
「聖、王……姫が進もうとしている道は、あなた自が矢面に立つことになります。私なら、姫にそのような大変なことはさせません。しっかりと守り、手を汚さねばならないことは、全て私が行います。姫は、私の隣でただ微笑んでいるだけでよいのです」
ケヴィンの言葉は、甘いとなってセシリアの耳をくすぐる。
矢面に立たなくてもよい。恐ろしいことは代わりにやってくれ、セシリアはただ守られているだけでよいのだ。
セシリアは必ずしも、自分の手で罪を暴きたいというわけではない。その結果が得られるのであれば、手段はどうでもよい。
この手を取ってしまえば、セシリアはとても楽になれるだろう。
「……でも、私が立ち向かうと決めたのですから」
だが、セシリアは首を橫に振った。
いくら恐ろしくても、今の道はセシリアが選んで進んできたものだ。
恐ろしいことを肩代わりしてくれるというのは、いっそすがりつきたくなるくらいの甘さがあった。しかし、同時にセシリアの歩みが認められていないような、引っかかりを覚える。
何より、ケヴィンの示す道には、エルヴィスがいない。
セシリアは拒絶の意をこめてケヴィンを見據えるが、彼は穏やかな表のままだった。
「もちろん、すぐにお返事をいただこうなどと思っていません。考える時間も必要でしょう。ただ、私が姫の力になりたいと思っていることは、お含みおきください」
そう言うと、ケヴィンは立ち上がる。平然としたまま、ぴりぴりした侍と護衛の橫をすり抜け、立ち去っていった。
セシリアはぐったりとしてしまい、長椅子に崩れ落ちそうになる。
ケヴィンは終始穏やかに話すだけで、無な真似はしてこなかった。だが、その容はかなり衝撃的なものだ。
「セシリアさま……差し出がましいこととは存じますが、セシリアさまがローズブレイド公爵夫人となる日を、わたくしども一同、心より待ちんでおります。どうか隣國になど……」
「旦那さまは、セシリアさまがいらしてから、張り詰めていたような雰囲気がなくなりました。様々な思とは関係なく、旦那さまはセシリアさまのことを心からしておいでです。このようなことを申し上げるのは僭越と存じますが、なにとぞ……」
あずまやの外で控えていた侍と護衛は、セシリアの元にやってくると、すがりつくような眼差しを向けてくる。
セシリアがケヴィンの申し出をけ、隣國に行ってしまうのを恐れているようだ。
「隣國に行くつもりはないわ。安心してちょうだい」
セシリアはぐったりしかかっていた背筋をばし、慌てて答える。
しかし、それでも侍と護衛は不安そうな目をしていた。
この國からの離だけならば、まだ一考の余地がある。
だが、セシリアがケヴィンの妃になるのは、論外だ。かつて言われたのは十三番目の側妃で、今回は正妃と昇格しているが、どちらであろうとセシリアにはけれがたい。
これがもし、セシリアが前世の記憶を取り戻した當初に同じ提案をされたのであれば、検討くらいはしていただろう。
しかし、今はエルヴィスが共に歩む者としているのだ。
隣國王ケヴィンの正妃だろうと側妃だろうと、考えるに値しない。その座は、セシリアにとって何の魅力もじられなかった。
セシリアの心を占めるのは、エルヴィスのことだ。
この婚約が目的のための契約とはいえ、裏切ることはできない。
いや、契約というのも、もはや言い訳だろう。セシリアは自分の心が本當はどう思っているのか、問いかけてみる。
「……エルヴィスが……私が隣にいてもよいというのなら……ずっと一緒にいたいわ……」
出た答えは、これだった。
エルヴィスはセシリアに対して、とても好意的に接してくれている。
それは一目惚れした婚約者という設定のためだけではないと思っているが、セシリアにはまだ確証が持てなかった。
もしかしたら、セシリアにアデラインを重ねているだけかもしれない。
だが、それでも構わない。許されるなら、ずっと側にいたかった。想いが小さな呟きとなって、からこぼれる。
「それでしたら、問題ございませんね」
「セシリアさまのお気持ちが旦那さまと異なっていなくて、安心いたしました」
セシリアの呟きを拾った侍と護衛は、ようやく安堵した目でセシリアを見る。
當たり前のように、セシリアの思いがエルヴィスにけれられると、疑っていないようだ。どうしてそうも自信に満ちているのか、セシリアは唖然とする。
「……エルヴィスと、話さないと……」
ぼそりと、セシリアは呟く。
今のケヴィンの申し出のこともそうだが、この際、目的を果たした後のことも話し合っておくべきなのかもしれない。
場合によっては、アデラインの記憶を持っていることも明かすべきだろうか。
だが、己の想いを自覚してしまうと、急に気恥ずかしさが襲ってくる。そして、拒絶されることへの恐怖も。
それでも、早めにはっきりさせておこうと、セシリアは己をい立たせた。
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